〈食べログ3.5以下のうまい店〉

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー! 食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。

食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。

点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

そこで、グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回は、カレー細胞(松 宏彰)さんが「一度食べると絶対また食べたくなる、中毒性MAXのおいしさ」と絶賛する下北沢の店をご紹介。

教えてくれる人

カレー細胞(松 宏彰)

兵庫・神戸生まれ。国内だけでなくインドから東南アジア、アフリカ南端、南米の砂漠まで4,000軒以上を食べ歩き、Web、雑誌、TVなど各メディアでカレー文化を発信し続ける。年2回、カレーにまつわるカルチャーを西武池袋本店に集結させる「東京カレーカルチャー」など、イベントプロデュースも多数。TBS「マツコの知らない世界」ではドライカレーを担当。Japanese Curry Awards選考委員。食べログアカウント:ropefish

下北沢カレー4冠王達成の実力をもつ名店

下北沢一番街本通り沿いにあるベティちゃんが目印。階段を上るとサンドバッグ、左に店の入口がある

古着や雑貨店など個性的なショップが多く集まる下北沢は、毎年10月に行われる「下北沢カレーフェスティバル」でも有名なカレーの街。

そんなカレー激戦区に2009年にオープン、カレー細胞さんが「開かずの踏切があった頃から通い続けています」と教えてくれたのが、アジアンカリー&バー「犬拳堂」である。

 

カレー細胞さん

もう10年以上も前、下北沢にまだ「開かずの踏切」があった頃、その近くの交番の隣のビルに入っていたのがこのお店。当時は朝までやっていて、雰囲気も客層もディープで。仕事で夜遅くなった時、ここで辛いカレー食べて発散!なんて感じの生活でした。

そしてなんとこちらのお店「下北沢カレーフェス初代カレー王認定ランキング第1位」「下北沢らしいカレー部門第1位/辛さ部門第1位」(第2回下北沢カレー王決定戦)など、下北沢カレー4冠王に輝いた、カレー好きにその名を知られる有名店なのである。

食べログの点数は3.36、口コミ数は36件と少ないが保存件数は約2,300件、気になる人が多いことは間違いないだろう。

※点数、口コミ・保存数は2023年1月時点のものです。

格闘技、漫画、カレーをこよなく愛する店主が営む

新しいネオン管看板の上部には、犬竹さんがデザインした旧店舗の目印が復活

一番街本通りの中ほど、ビルの2階に「犬拳堂」はある。少々変わった店名の読み方は「いぬけんどう」。店主の犬竹昌幸さんが「犬竹けんぢ」のペンネームで青年漫画の登竜門である「ちばてつや賞」などを受賞した元漫画家で、キックボクシングの愛好家であることにちなみ名付けたものだ。

 

カレー細胞さん

キックボクシングをされていた犬竹さんの経歴から「怖い人」かな、と思われるかもしれませんが、いやいや。こんなに優しくて人懐っこい店主はなかなかいません。安心して話しかけてみてくださいね。その人柄に集まってくる個性豊かな客層……、有名な格闘家から役者さんまで……もまた、いいスパイスだったりします。

店内は誰もがくつろげるナチュラルな雰囲気にリニューアル

犬竹さんが、茶沢通り沿いの小さなビルの2階に店を開いたのは40歳の時。「漫画家としていくつか賞を受賞したものの、描かせてもらう約束だった漫画本が廃刊に。その後は鳴かず飛ばずで、自身で決めた区切りである40歳で漫画家を辞め、格闘技、漫画の次に好きだったカレーの店を開きました」(犬竹さん)

店主の犬竹さん。店を出す前は毎年、知り合いの格闘家が集まる忘年会の幹事をしていたそう

2016年、店は一番街本通りの入口付近から現在地に移転する。1階は焼き鳥店だが、なんと犬竹さんが漫画家を目指していた20歳の時にアルバイトをしていたのが、この焼き鳥店。「昔からのつながりで、いち早くここが空くことを知らせてもらい移転しました」と犬竹さん。2022年秋には内外装を大きくリニューアル。新メニューも加わり、新生「犬拳堂」としてスタートを切った。

 

カレー細胞さん

かつてはディープなお店でしたが、リニューアル後は広く皆さんにおすすめしたい、素敵なお店へとチューンアップしています。

ベースとなるアジアンカリー。オリジナルの「狭山茶グリーンカリー」や「黒ゴマカリー」など、さまざまなアレンジが利く

カレーは、犬竹さんのカレーへの情熱と探究心から生まれたオリジナル。カレー店の厨房でも働いたが、現在はそのレシピはほとんど使っておらず、自分で調べに調べ、試行錯誤を繰り返し、時に格闘技つながりで、ムエタイをしているタイ人に試食してもらうなどして研究を重ね、独自のカレーを作り上げた。

「エスニックな食材からスープをとり数種類のスパイスをブレンド、日本人の口に合うようにアレンジしたこだわりのつまったオリジナルカリーです」と犬竹さん。

 

カレー細胞さん

欧風カレー出身シェフにも、インド料理出身シェフにも作れない、格闘家出身シェフのオンリーワンカレーにハマりました。一度食べると絶対また食べたくなる、中毒性MAXのおいしさです。