料理で富山の物語を伝える「レヴォ」〜利賀どぶろく編〜

イベントに先駆け「レヴォ」の谷口英司シェフとともに富山県へ行き、シェフと生産者の繋がりや絆、生産地から食卓までの軌跡を連載でお届けする。前回の「L’évo鶏編」に引き続き、今回は「利賀どぶろく」の造り手さんとの繋がりをご紹介。

古き良き富山がそのまま残る場所

「次は、富山の地元の人も行ったことのないような、ディープな場所へ行きましょう! そこに最近僕がハマっている“どぶろく”があるんです」

まるで冒険に出た子供のように楽しそうに運転する谷口シェフ。レヴォから車で出発し、細く険しい一方通行の山道ひたすら走ること約40分。越中の豊かな緑と美しい川に囲まれた、富山県南砺市利賀村にたどり着いた。

標高1,000mを越す山々に囲まれた利賀村は、豊かな自然と水の恵みを守り、丁寧な農産を営んでいる。富山の中でも有数の“手付かずの自然”が残り、国の「どぶろく特区」に指定されている村でもある。

そこにポツンと佇む一軒家の民宿。ここに「利賀どぶろく」を造る醸造所がある。

原動力は村と伝統への想い

「利賀どぶろく」の杜氏である中西邦康さん。自家製の米と酵母で造られる「利賀どぶろく まごたりん」の生みの親だ。

「銘柄の『まごたりん』は、私のニックネームから来ています。私の祖父は、豪快な人柄で一升のお酒をのんでも足りずに“たりんさん”というあだ名が付いていて、その孫だから“まごたりん”。面白いでしょう?」と笑いながら話す中西さん。

利賀村と祖先の伝統を引き継ぐ思いが今日の「利賀どぶろく まごたりん」を生み出す原動力となっている。

自分の文化を超えた先にある美味しいもの

二人は出会いは丁度一年前、富山で行われた食のイベントで、知人に紹介されたのがきっかけだそうだ。

「正直、どぶろくと聞いても“クセのあるお酒”というイメージが強く、最初はピンと来ませんでした。でもいざ飲んでみると、意外にも爽やかで深みのある味に驚きました。何か料理に使えるんじゃないか? そう思って中西さんにお願いして、利賀村のこの醸造所まで来させてもらったんです」

「最初、谷口シェフを紹介してもらった時は、恥ずかしながらこんなに偉大で有名なシェフだとは知りませんでした。色々お話しているとどぶろくに興味を持ってくださって、“利賀村まで来たい”と言われた時はびっくりしましたよ。こんな辺鄙な所まで足を運んでくれるシェフは普通いませんから」

「このどぶろくのように、富山にはまだまだ“誇るべき隠れた食材”が沢山あるんです」と目を輝かせながら語る谷口シェフ。

先入観や偏見を捨て、地元の人と積極的に対話し、学ぶことを止めない。その姿勢こそが、新しい美味しいものを見つける鍵なのかもしれない。

隠し味は自然の持つパワー

民宿の前には、ソバの花が一面に咲いた美しい畑が広がっている。新商品のどぶろくは、利賀村特産のソバの花から抽出された酵母から造られる。

農薬は一切使わず、毎日丁寧に手で草取りをする。気の遠くなるような地道な作業も徹底して行うのが中西さんのポリシーだ。

有機農法で作られた酒米、村の湧き水である「鴻の貴水」、豊かな気候……。利賀村の自然を丸ごと反映したナチュラルな材料で、どぶろくは仕込まれていく。

「どぶろくを造る醸造所は、実はこちらの民宿の元女子風呂なんですよ(笑)。そういうところも、僕的にはたまらないくツボなんですよね」と嬉しそうに谷口シェフが案内してくれた。

樽の中を覗いてみると「グツ、グツ、ボコ、ボコ」元気な音を立てながら、お米が盛んに発酵している。

「どぶろくの味の決め手は“酵母”なんです。そういう意味で利賀の酵母は、自然そのもの。だからこそここでしか作れない唯一無二の味わいがあるんです」という中西さんは言う。

伝統を活かし、新しいものを生み出す

「レヴォのような富山を代表する先進的なレストランで、私たちのどぶろくを使ってもらえることをとても光栄に思います。日本全国や海外の人にまで味わってもらえるなんて夢みたいです」そう笑顔で語る中西さん。

「私たちレヴォは、新しいものを生み出すと同時に、地域の伝統を生かすと言う大事な役割も担っています。生産者の皆さんに地域の伝統を教えていただくからこそ、新しいものを創作できるんです」

富山の伝統や歴史、文化を活かした「伝統的な食材」を「モダンな料理」に変身させる。谷口シェフは自身の料理を通して、過去と現在と未来、その時空間をも紡いでいく。

もっと、もっと山奥へ

「この利賀村にレヴォを移転するのが、今の僕の夢なんです」そう言って案内してくれたのは、想像もできない様な奥地にある場所だった。

「地方で有名になったから東京へ進出、という発想はあんまりないですね。逆にもっともっと山奥へ行こう、という反抗心の様な想いが湧き上がってくるんです(笑)何もない自然の中で、また1から新しいものを創りたいんですよね。」

好奇心に満ちた優しげな目の奥には、まっすぐな意志と情熱だけが感じられる。谷口シェフがそこに行くのではなく、世界中の人が彼の元に集まる。そんなお店にレヴォは進化し続けて行くのだろう。

利賀どぶろくを使った新しい名物料理

神通川の天然若鮎のフリット

レヴォのレストランの前に流れる神通川で獲れた天然若鮎を「利賀 どぶろく」に一晩漬け込む。

どぶろくの持つ乳酸菌の効果で、鮎の旨味をさらに引き出すという。

このどぶろくに漬けた鮎をカラッとフリットに仕上げる。鮎の持つ独特の苦味とどぶろくの爽やかな味わいが絶妙にマッチする。

 

最終回は、富山氷見のワイナリー「セイズファーム」を特集

次回は、レヴォの料理をより一層引き立てる、ワインを造るワイナリーをご紹介。お楽しみに。

◆谷口 英司(L’évoシェフ):和の料理人だった父の背中を見て育ち、高校卒業後は板前を志す。高校卒業後に就職した宝塚の旅館でフレンチに魅了され、神戸で経験を積み、28歳で渡仏。フランスの三ツ星レストラン「ベルナール・ロワゾー・オガニザシオン」で腕を磨き、帰国後は神戸市内のレストランで修行。2010年に「西洋膳所 サヴール」のシェフとして活躍後、2014年に富山の魅力を世界に発信するべく38歳で「 L’évo 」をオープン。

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写真:八木 竜馬

取材・執筆:アキレウス