2019年のモンブランは「フォルム」と「ケーキの構成」に注目! あなたが食べてみたいのはどのモンブラン?

気がつけば秋本番。巷のパティスリー各店には、この時期のスイーツの主役「モンブラン」が出揃い始めています。昨年は“進化系モンブラン”についてお届けしましたが、今年のモンブラン事情が気になるところ。そこで、スイーツといえばこの人、お菓子の歴史研究家の猫井登先生に、今年注目のモンブランベスト3について分析していただきながら、「モンブランとは何か?」というちょっと深い話についても教えてもらいました!

1. 「パティスリー ユウ ササゲ」

京王線千歳烏山駅の程近く、「食べログ スイーツ 百名店 TOKYO 2019」選出のパティスリーである。こちらのお店には2種類のモンブランが存在する。ひとつはタルトを土台にしたもの(写真下)。

八坂牛太
出典:八坂牛太さん

もうひとつはメレンゲを土台にしたもので、注文を受けてからひとつひとつ作られる、和栗の絞りたてモンブラン(写真下)である。今回は後者を取り上げたい。

八坂牛太
出典:八坂牛太さん

フランス菓子における伝統的なモンブランは、メレンゲ、生クリーム、マロンクリームの3つで構成される。このシンプルな構成の中でいかに店の特徴を出していくのか、シェフの考え方が反映されるところだ。

 

一般に和栗のモンブランでは、和栗の産地にこだわりをみせる店が多く、これらの店では、熊本県山鹿市産、茨城県笠間市産など、自店で使用している栗の産地を細かく表示している。もちろん、これら名産地の栗で作られたマロンクリームは風味もよく、味わいも深い。

 

しかし、使い方を間違えると、ひとつのケーキとして味わった場合、マロンクリームばかりが突出して、生クリームやメレンゲは単なる添え物のようになってしまう。それでは、モンブランというひとつのケーキに仕立てる意味はないだろう。マロンクリームだけを味わえばよい、ということになってしまう。

 

そのような観点からも同店のモンブランは、非常によく考えて作られているのがわかる。まずは、愛媛産の穏やかな味わいの和栗を選びつつ、栗の味わいが突出しないように生クリームを合わせて調整する。次に生クリームも、甘さが立つグラニュー糖ではなく、まろやかな味わいの徳島県産の和三盆を控えめに加えたものを使用する。

極めつけは土台のメレンゲだ。110〜120℃のオーブンで3時間以上じっくりと火を通し、中がしっかりとキャラメル化するまで焼成する。完成したメレンゲは、サクサクとした食感で、口に含むとジュワっと溶け、コクのある旨味が、甘さ控えめの生クリームと相まって、栗の味わいと実によく調和する。

マロンクリーム、生クリーム、メレンゲが三位一体となった、まさに、調和のとれた繊細な味わいのケーキを追求する捧(ささげ)シェフらしい作品だ。時間が経つとせっかくのメレンゲが生クリームの水分を吸って湿り、ぐちゃっとした食感になってしまう。だから注文を受けてからクリームを絞って仕上げるというわけだ。

 

ひとつひとつ、注文を受けてから丁寧に作られるモンブランを是非お試しあれ!

2. 「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」

フランス・パリを拠点に活躍されている青木定治シェフ。青木シェフが創造されるケーキはどれも緻密に計算されたものばかりだ。11月30日までの期間限定で販売されている「マロン フリュイ ルージュ」もそのひとつ。

「マロン フリュイ ルージュ」

構成としては、一般的なモンブランとは趣を異にして、サブレ生地+ベリー+生クリーム+マロンクリームとなっている。われわれ日本人からすると、栗とベリー??と思ってしまうが、実はフランスでは「栗+カシス」というのは定番の組み合わせのひとつなのである。

 

こちらのケーキでは、カシスにさらにフランボワーズ(ラズベリー)を加え、マロンクリームと合わせる。さらに両者の間に生クリームを挟むことにより、ラム酒が香る濃厚な味わいのマロンクリームと酸味が利いたベリー系のフルーツの組み合わせが、まろやかでバランスのとれた大人の味わいを奏でている。

写真提供:パティスリー・サダハル・アオキ・パリ

さらに注目すべきは、そのフォルムだ。青木シェフのプチガトーは基本的に3cm×12cmの長方形で統一され、高さも概ね4.5cm程度に抑えられている。一見、小ぶりにも思えるが、この4.5cmという高さは、人が無理なく広げられる口の上下幅とされ、製菓学校でもケーキの高さ(=厚み)の基準として習う。また長方形のカットは、最初から最後まで、パティシエが考えた味の構成を崩さず食べられるように配慮されたものだ。

 

蛇足ではあるが……、モンブラン(仏語で「白い山」の意)は、イタリアのピエモンテ州などで食べられるモンテビアンコ(伊語で「白い山」の意)に由来するともいわれる。これが単純に煮た栗のペーストに生クリームを合わせたものであるためか、栗にカシスなどを合わせたケーキには、フランスでは「モンブラン」という名は冠しない。

 

青木シェフがこのケーキの表面にモンブラン特有の麺状のマロンクリーム絞りを施しているにも関わらず、敢えてモンブランという名を付けなかったのは、単にケーキが「白い山」の形をしていないからか、それとも上記の理由によるものなのか……。そんなことを考えながらケーキを食べてみるのも面白いかもしれない。

3. 「銀のぶどう」

つい先頃、有名百貨店に出店するお店のモンブランが集められた品評会に招かれた。かなりの数のモンブランが一堂に並べられ、ひとつずつ試食していくわけだが、一番印象に残ったのがこちらの「モンブランローズ」だった。投票結果をみても全体で第2位に輝いていたので、ほかの選者たちの評価も相当高かったに違いない。

写真提供:銀のぶどう

まず、フォルムが素晴らしい。マロンクリームがバラの花のように絞られた華やかな形で、ひとつでも存在感があり、まさにインスタ映えする。モンブランといえば、マロンクリームをパスタ状に細く絞り出すのが伝統的なスタイルだ。絞り方のパターンは大きく、(1)上から見て十字の形にクロスさせて絞る方法(ユウササゲの和栗の絞りたてモンブラン参照)と(2)生クリームの周りに沿って円錐形に絞る方法(ユウササゲのタルトを土台にしたモンブラン参照)がある。

 

(1)のように絞られたものは、フランス・パリで見られ、「モンブラン」と呼ばれる。これに対して(2)のように絞られたものは、フランスのアルザス地方で多く見られ、円錐型が松明(たいまつ)の火のような形に見えることから、「トルシュ(松明)・オ・マロン」と呼ばれる。「白い山」形でもなく、「たいまつ」形でもない、「バラ」形は、従来の伝統を打ち破る、斬新なデザインといえよう。

こちらのケーキ、フォルムだけでなく、構造も相当凝っている。タルト生地にマロンペーストとマロングラッセ入りのアーモンドクリームを絞り、焼いたものを土台にして、ラム酒入りのカスタードクリームを絞ってスポンジ生地をのせ、生クリームをかぶせる。しかも、その生クリームは、なんとキャラメルソース入り。それらを包むようにマロンクリームをバラの花の形に絞ってようやく完成だ。

 

文章で読むとわかりづらいので、図解すると概ね次のようになる。

  1. マロンクリーム
  2. 生クリーム(キャラメルソース入り)
  3. スポンジ生地
  4. ラム酒入りカスタードクリーム
  5. マロンペースト(マロングラッセ入りアーモンドクリーム)
  6. タルト生地+チョコの飾り

なんと、六重の層をなしている。これだけ色々材料を合わせると何を食べているのかわからなくなりそうだが、一体感があり、全体として調和がとれているのが見事。何より、マロンクリームの味わいが良いが、少量のキャラメルソースがアクセントとなった生クリーム、ラム酒の効いたカスタードなど、さまざまな味わいが次々と感じられ、飽きさせない。

 

秋の夜長、ゆったりとカフェオレなどと一緒にゆっくりと味わいたいケーキである。

 

 

以上、3つのモンブランを通して、

  1. モンブランがひとつのまとまったお菓子(ケーキ)であること
  2. モンブランのマロンクリームと合わせるもの
  3. モンブランのフォルムや組み立てについて

という具合に考えてみたが、皆さんのお好みのモンブランは見つかっただろうか。是非、今年ならではのモンブランの味わいを堪能してほしい。

 

教えてくれた人

猫井登

1960年京都生まれ。 早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。 退職後、服部栄養専門学校調理科で学び、調理免許取得。ル・コルドン・ブルー代官山校にて、菓子ディプロム取得。フランスエコール・リッツ・エスコフィエ等で製菓を学ぶ。著書に「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス刊)「おいしさの秘密がわかる スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版刊)がある。

 

取材・文・写真:猫井登