〈おいしい仕事の仕掛け人〉Vol.5

「食」の可能性を信じて、ビジネスに取り組む人にフォーカスする連載。第5回は世界初のクラフトコーラ専門メーカー「伊良(いよし)コーラ」を立ち上げた株式会社GRAND GIFT代表取締役・小林隆英さん。他には真似できない深い香りと味わいを、たった一人で生み出したそのパワーの源は、自身のDNAに刻み込まれた探求心とクラフツマンシップにありました。

コーラの常識を覆す! 世界の誰もが知るドリンクを、職人の探求心で唯一無二の味わいに

株式会社GRAND GIFT代表取締役

小林隆英 Takahide Kobayashi

 

1989年東京都出身。北海道大学農学部・東京大学大学院農学院を修了後、広告代理店に入社。イベント関連業務を担当。2018年7月に独立し、伊良コーラを立ち上げる。11月にはクラウドファンディングを行い、クラフトコーラ工房が完成。2019年より通販サイトをオープンし、全国でシロップ購入が可能に。現在、週末は「コーラ小林」を名乗り、青山ファーマーズマーケットなどを中心にフードトラック“カワセミ号”で伊良コーラを販売中。

一杯のコーラで社会に驚きを届ける

――週末の移動販売ではフードトラックの前に行列もできるという伊良コーラですが、世界初のクラフトコーラ専門メーカーを立ち上げたきっかけを教えてください。

 

小林:もともとコーラが好きな“コーラマニア”だったんです。といっても、本格的に飲み始めたのは大学生の頃。実は片頭痛持ちなんですが、コーラの発祥は薬として作られていて頭痛にいいと聞き、飲むようになりました。お酒があまり飲めないこともあり、バーでもコーラなら大丈夫という側面もあったんです。大学から大学院時代にかけては、世界中を旅したんですが、どこの国にいってもその地域のコーラがあるんですよ。でもこんなに世界に普及しているのに、歴史や原料などが明確なお茶やコーヒーと違い、コーラが何からできているかって実は知らないなと気がついて。 そんな不思議な液体なのに、みんななぜ普通においしく飲んでいるんだろう?そもそもコーラという名はどこから来たんだろう? そんな疑問をずっと抱いていたんです。

注文が入る度、小林さんがその場でシロップと炭酸、レモンスライスを入れて作る伊良コーラ。でき上がるまでを見るのも楽しい。1杯500円(税込)。

――それが飲むだけではなく、作るようになったのは?

 

小林:ちょうど大学院から社会人になる頃、ネットサーフィンをしていたら100年以上前のコーラのレシピを見つけたんです。1885年にアメリカの薬剤師が薬として開発したという起源や歴史、原材料である西アフリカ原産のコラの実からその名がついたことなどを知り、純粋に驚いたんですよね。それで作ってみようと。もし単なる興味だけなら、レシピを見つけても作るまでには至らなかったと思います。それまでずっと抱いていたコーラの不思議な魅力と生まれた疑問があったからこそ、自分で作るという高いハードルを越える気持ちになったんです。

 

――その時はまだ販売するつもりではなかったんですね。

 

小林:会社員として働いていましたし、当時は個人的にいろいろ試していただけでした。でもその試行錯誤がおもしろかったんですよね。

 

――最初からレシピ通りに作って、うまくできたのでしょうか?

 

小林:レシピと言っても、原材料しか書いてないんです。具体的な工程はわからなかったので、まずは原材料を揃えて手探りで作り始めました。一応 “コーラ風味”のものにはなるんですよ。とはいえ、市販のコーラとはかけ離れた代物です。でもそこが職人だった祖父の血を引いているからなのか、探求心から “自家製コーラ”の域を脱して、もっとおいしい“クラフトコーラ”の域にまで達したいと本気で思ったんです。それが、今に至るクラフツマンシップが芽生えた瞬間だったかもしれません。

シロップに使うスパイスは、約12種類。夏は清涼感あるカルダモンを多めにしたり、冬は身体を温められるよう生姜を多めにしたり、季節によって配合も少しずつ変えている。

――今お話にあったように、クラフトコーラを作るにあたって、職人だったおじいさまの影響があったそうですね。

 

小林:実はこの工房は、僕の祖父であり和漢方職人だった伊藤良太郎が昭和29年に開業した漢方工房「伊良葯工(いよしやっこう)」があった場所です。実家がすぐ隣にあったので、子供の頃はよくここで遊んでいました。漢方の素材を刻んだり蒸したりと祖父の作業を手伝うことは、ある意味自分の生活の一部でもあったんです。ただ小学校も高学年ぐらいになると、この場所から離れてしまうように。子供時代のかっこよさって、スポーツだったりバンド活動だったりしますよね。正直意識的に避けてしまったという部分もありました。

クラウドファンディングを実施し完成した工房。この場所で祖父と同じ職人の道に進むことは、家族の大きな理解もあったという。

――でも結果的に最終的な伊良コーラの完成には、そのおじいさまの技術が大きなヒントになったとか。

 

小林:約2年にわたり、素材やその配合、作り方など様々なことを試しながらコーラ作りを続けていたんですが、どうしても“自家製”コーラの域を脱しなかったんです。そんな時に祖父が亡くなり遺品整理をしている中で、祖父がやっていた生薬への火の入れ方などを家族や親せきに聞く機会があったんですね。そこで、祖父の考えややり方を、自分のコーラ作りに活かしてみたんです。するとそれまでのコーラが、明らかに香りや味の違うものに。これまでの高い壁を越え、まさに“ホームメイド・コーラ”が“クラフトコーラ”へと変わった瞬間でした。

祖父が漢方を入れていた薬箪笥を、今は小林さんが使う。丸1日かけて作ったシロップはさらに1週間寝かせ、スパイスの角を取ることでより完成度を高めている。

――ご自身の探求心と、おじいさまから引き継いだ技術や意識がこの伊良コーラに活かされているんですね。その伊良コーラならではの特長はどんなところにあるのでしょうか?

 

小林:飲んだ方から、香水の「トップノート」「ミドルノート」「ラストノート」のように、香りの段階があると言われたことがありますが、自分でもそれは意識しています。火の入れ方を工夫してどのタイミングで何を入れるべきかを考え、味と香りにストーリーがあるように作っているんです。クラフトコーラを簡単に大量生産するためには、スパイスと果実を全部一緒に煮詰める方法が主流ですが、そのやり方ではこの香りは絶対出てこない。職人が手間と時間をかけなくては、伊良コーラのストーリーは作れないものだと考えています。伊良コーラの名を祖父の漢方工房「伊良葯工」からとったのも、そんなクラフツマンシップを引き継いでいく気持ちを込めているんです。

 

――フードトラックやレトロなラベル、ユニフォームなど、その世界観の伝え方にもこだわりを感じます。前職の広告代理店での経験も生きているのでしょうか?

 

小林:レトロなデザインは、祖父が集めていた昔のマッチのデザインなどを参考にしています。今まで誰もやっていないことで世の中をびっくりさせてワクワクしてもらう、それが僕のやりたいこと。前職を特別に意識したことはありませんが、プレゼンテーションの仕方や楽しませ方などはその時の経験が活きているかもしれません。

自宅で飲むならシロップを。割るのは強めの炭酸水がおすすめ。現在オンラインショップのみで予約販売中。クラフトコーラ「魔法のシロップ」Mサイズ (250 ml)2,950円(税込)。

――伊良コーラの今後の抱負を教えてください。

 

小林:現在はフードトラックによる移動販売と、オンラインショップでの販売がメインですが、いつかこの工房にテイスティングバーを作り、小さな工房で職人が作るその現場をぜひ見てもらいたいと思っています。また原料のコーラの実も、いろいろな品種がありそれぞれ特徴があるので、品種が異なるコーラを作って味の違いを知ってもらうのもおもしろいですね。今回ガーナの農園にも視察に行くので、生産状況などをしっかり見てこようと思っています。実はコーラの木は、カカオの木と一緒に栽培されていることが多いんです。だから将来は同じ畑で作られているコーラとカカオでそれぞれコーラとチョコレートを作ってペアリングする、そんな夢も持っています。

コーラの由来となったコーラの実。品質を保持するために、粉ではなくホールの状態でガーナから直接輸入している。お客さまに知ってもらうために、フードトラックでは自由に手に取って見られるようにしている。

――最後に、伊良コーラが一番大事にしていることは何でしょうか?

 

小林:伊良コーラのスローガンは「今までの常識を壊すこと」です。これまでのコーラの常識といえば、何が入っているかわからないし、手作りできる飲み物ではない。そもそもコラの実が語源になっていることも知られていないし、それこそ身体に悪いというネガティブなイメージさえありました。僕は伊良コーラで、そんな概念を打ち破りたかったんです。カワセミをロゴマークにしたのも、鳥なのに餌を取るために果敢に水に飛び込んでいく姿が“常識破り”と感じたから。常識を壊して社会に驚きやワクワクを届けることを、今後も様々な形で追求していきたいと思っています。

愛車のフードトラック「カワセミ号」で都内各地へ。青山Farmer’s Market @ UNUなどで、週末をメインに販売を行っている。目印は青いクルマにカワセミのマーク。

9月18日から10月1日まで、柚子や山椒など日本のボタニカル素材を使った“THE JAPAN EDITION”のシロップを伊勢丹新宿店で144本限定先行販売。

 

伊良コーラ

販売日・場所、オンラインショップについては下記サイトをご覧ください。

iyoshicola.com

www.instagram.com/iyoshicola/