おしゃれフードトレンドを追え! Vol.38

令和元年、アパレル企業が手がける食は今どうなっている?

ファッションよりもライフスタイル系に消費者の興味はシフトしている。そう言われて、もう10年近く経つだろうか。いわゆるライフスタイル系の中でも、特に食への盛り上がりは止まるところを知らず、フードビジネスへの参入を試みるアパレル企業は後を絶たない。しかし、やれアメリカから初上陸だ、台湾のティーだ、ピザ、コーヒー、パンだと次から次へとトレンドフードに飛びついてきたアパレル業界にも最近はちょっとした変化が見え始めているようだ。

 

「ファッション業界の人たちって、急に飲食業界に乗り込んで大騒ぎして、飽きるとすぐに去っていく」。このように、生粋の飲食業界の方々からは眉をひそめられているとかなんとか。まあ、流行りを察知して波に乗って売れなくなったらすぐに新たな食べ物を探す。これはトレンド商売のアパレル企業らしい動き方だとも言えるのだが。

 

アパレル企業自体もようやく「流行りを追いかけるだけでは飲食は難しい」と気づいたようだ。安易に海外のホットドッグやハンバーガーを日本に持ってきてもうまくいかない。やはり餅は餅屋なのかもしれない。食のプロを入れなければ、という流れになってきているのではないかと感じている。最近オープンしたアパレル系企業が手がける飲食店を例に、ファッション業界的フード戦略2019年を探ってみた。

CASE 1. 有名シェフの監修を入れる:KASHIYAMA DAIKANYAMA(代官山)

4月に代官山にオープンしたオンワードホールディングスの新施設「KASHIYAMA DAIKANYAMA」。地下1階にカフェ、1階にギャラリー、2・3階にショップ、4階にレストラン、5階にバーという作り。“丘” をコンセプトとした大小の箱が重なり合う建物は、佐藤オオキ率いるデザインオフィスnendoと空間デザインオフィスonndoが監修している。

地下のカフェは、あのSUGALABOシェフパティシエの成田一世さん監修ということで話題になっている。自然光が差し込む植栽豊かな空間で、ランチやお茶を楽しめる。私はランチを注文したが、キャベツのポタージュも、ポークローストの一品も、素材の甘みや香りを感じられる自然な味わいが良い。ここの名物カツサンドには和牛ハラミを使用。噛みしめるごとに味わい深い“噛めば噛むほどスタイル”で、柔らかふんわりヒレカツとは一線を画す逸品だ。スイーツはバスクチーズケーキ(800円)が人気で、上質なシャンパンと合わせて昼間から嗜む贅沢マダムにぴったりだ。

Beef cutlet sandwich(代官山カツサンド)スープ付き 2,400円
Matsuzaka Pork Chimichurri sauce(松阪ポーク チミチュリソース)スープ&パン付き 1,600円
バスクチーズケーキ 800円(写真:お店から)

さらに4階には、フランス語で“丘”を意味するレストラン「COTEAU.(コトー)」。

写真:お店から

ここではSUGALABO主宰・須賀洋介さんが監修を行っており、ニューヨークのロブション出身の松田 歩シェフによる6,800円のフレンチ プリフィクスコースのみ。本格的かつ今っぽいライブ感あるフレンチがこの価格で楽しめるとあって、食べログコメントもかなり評価が高い。

出典:keitaiさん

このように著名人に監修をお願いして全てをお任せするからこそできるクオリテイがある。やはり、食のことはプロに任せるということが、他業界のアパレル系が食の世界でやっていくための生き残り策なのだ。

CASE 2. 食のプロデューサーを起用する:ロンファーチャイニーズパーラー(池袋)

カジュアル系のレストランの場合、有名シェフ監修だと高級感が出過ぎる場合がある。もう少し賑やかしさとキャッチーさがほしいときには、多くの飲食店をプロデュースした経験のある企業やディレクターに参画してもらうのが安心だ。

写真:お店から
写真:お店から

アパレル企業のアダストリアは、カジュアル中華「ロンファーチャイニーズパーラー」を池袋にオープンした。「ネオチャイニーズファミリーレストラン」がコンセプトで、メニューは伝統的な中華のレシピをベースにした黒醤チャーハンや揚げオムレツ、ロンファーパフェ、“食べるビー玉”と言われる香港スイーツ「九龍華」などバラエティ豊か。総合プロデュースはGARDEN HOUSEや駒形どぜうなど多数プロデュースする「シンクグリーンプロデュース」、フードディレクションはTRUNK(HOTEL)やTHREEのREVIVE KITCHENなどのおしゃれ系レストランや、様々な飲食店のプロデュースに携わるギャザーの谷 祐二さんが手がけた。広い店内、所々に散りばめられたアジアンな装飾、色とりどりの中国食器に盛られたしっかり味のチャイニーズは、小皿も大皿も食べたい若い女子たちに人気となることだろう。

CASE 3. 丁寧に手作りにじわじわと人気:ソーダバー 恵比寿店

x-girlなどを手がけるビーズインターナショナルが、ソーダ店を始めた。旬の国産フルーツをオリジナルソーダにして提供する「SODA BAR」で、恵比寿店は「大人も子供も楽しめる」をコンセプトに、キッズブランドショップ「タイニィ・タイト」に併設するスタイルだ。減農薬、無農薬の国産フルーツを使ったフルーツソーダを定番商品に、キッズメニューも限定販売している。何時間もコトコト煮詰めて作る自家製シロップをソーダで割って無農薬フルーツを入れたドリンクは、見た目はかわいく、優しい味わいだ。大きなビジネスになるかは不明だが、地に足のついた丁寧なモノづくりには好感が持てる。

 

正直言うと私は「アパレル企業が手がける食」と聞くと、なぜか信用できずに身構えていた。それが最近は「あれ? ちゃんとしてる!」と思えるお店が増えてきて、安心感を持てるようになってきた。なぜなら、食のプロが監修する店が増えてきたから。飲食で大切なのは味だけではない。接客やオペレーション、メニュー構成、内容と価格のバランス……、そしてもちろん味。ファッション業界はトレンドをキャッチするのが上手いからといって、食は一筋縄ではいかないのだ。

 

さてグルメにも評価の高いCOTEAU.、予約が殺到する前に試してみるとするか。アパレル企業、食のプロに任せて店の編集&経営に徹する姿勢を持てば、おしゃれでおいしい店が増えていくのだろうか。期待して見守りたい!

 

※価格は税抜

文:小泉恵里