出世ごはん

デキるビジネスパーソンはこんなお店で食べている! 元銀座のホステス&開運アドバイザーの藤島佑雪が、かつての同伴その他の経験から見極めた「出世する店」を「おいしい理由」とともにご紹介!

No.42 イノベーションを起こしたいなら、伝統を知るべく老舗を目指せ!

多くの分野において、イノベーションって常に求められていますよね。銀座のクラブですら、日々、イノベーションが起こってるくらいですから、厳しい競争に打ち勝つには、やっぱり新しいことをしなきゃ! そんな気持ちになって最先端を見学に行くのもいいのですが、レストランで言うところの「イノベーティブ」なお店でお料理を食べても、何がどうイノベーティブなのかさっぱりわからなくなってたりするじゃないですか。そもそも、フランス料理ってどんな料理だったっけ? って。元のところがわからなかったりして。

歴史的ハイソなご常連がいまだに多い名店。この店に流れる空気感にこそ、高級「佛蘭西料理」の型があると言えるのかもしれません。出典:みすきすさん

そんなとき、西麻布「龍土軒」さんで伝統的なフレンチをいただくと「あー、ここから発展して今のアレンジされた料理があるんだ」って納得できるんです。なにしろ、創業が1900年(明治33年)という、東京最古の「佛蘭西料理店」。二・二六事件を起こした将校たちが密議をしていたことでも知られているザ・クラシックな一軒なんです。鴨のコンフィやコンソメのジュレなど、フランス料理の基本アイテムがオンメニューされているほか、店内の落ち着いたたたずまいや昔気質の4代目シェフとマダムの接客など、流行りに流されて、見失っていた大事なものを思い出させてくれるという意味でも、今や貴重なお店なんです。「型破り」は「型」があってこそ破れるもの。型がなくては「型なし」だなんて、よく伺いますが、こういうお店あっての「イノベーション」なんですから、伝統的な型を守り続けるお店が消えていくなかで消えて欲しくない一軒です。

 

明治時代、京都に構えた店を始まりとし、裏千家にお出入りを許された懐石料理の名門。3代目、辻義一さんは北大路魯山人の下でも修業されています。出典:辣油は飲み物さん

もう一軒は本格的な懐石を出している赤坂「懐石 辻留」さん。実は日本料理の職人さんでも本当の「懐石」を召し上がった方、そしてつくったことのある方というのは比率でいうとすごく少ないんじゃないかしら。「懐石」はいわゆる千利休さんが大成したおもてなしシステム、茶の湯で出される食事のことで、今の料亭や割烹で出てくるコースとは違うものですから。本当の懐石は最後にお茶(抹茶)をおいしくいただくためのもの。最初に煮えばな(蒸らしてないごはん)を最初に少量食べることから始まるなど、普通の和食のコースとはお造りや煮物椀、ごはんなどを出す順番からして違うんです。ちょっと辛口を申し上げますが、最近、懐石の要素を取り込んだフレンチやスパニッシュなどを見かけますが、見掛け倒しで本質を捉えていないお店もあるように感じ、残念に思います。イノベーションしたいなら、本物を体験して、本質を掴んでアレンジしていただきたい。こちらに来れば、床の間のしつらえから、なにから“本物”に出会えます!

 

色鮮やかなグリーンの笹巻が並んだ折詰は差し入れにもぴったり。鯛の小骨を毛抜きで抜くことから「けぬきすし」と称したとか。甘いおぼろや強めの酢で締めた小肌などから、江戸前寿司のルーツを感じることができます。出典:酔狂老人卍さん

そしてそして、江戸前握り寿司の元祖といわれている神田「笹巻けぬきすし総本店」さんです。創業した1702年(元禄15年)は、なんと赤穂浪士のお討ち入りがあった年だとか。鯛、光りもの、海老などのネタと酢飯を握って、巻くのに使われているのが抗菌効果のある笹。古くは兵糧を包むためにも使われていたことから、初代が採用したのだそう。そう、今、世界で大変なブームとなっている握り寿司のルーツには、武士が戦うための食事が関係していた! 現代のビジネスパーソンを侍とたとえれば、親近感が湧きますよね。そして、元禄の世には、この笹巻けぬきすし、そのものがイノベーションだったわけです。冷蔵庫のない時代に、仕事をしたネタをきつめの酢飯と合わせて、笹で巻き、保つよう工夫した。それはおいしく、実用的であったがために令和の時代に至るまで生き続けている。どうせなら、こちらのように何世紀にもわたって愛されるイノベーションを起こしたいもの。こうして書かせていただくだけでも元気が出てくるような。自分に活を入れるためにも、型を守り続ける老舗には時折お邪魔させていただきたいものですよね。

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文:藤島佑雪