〈おいしい歴史を訪ねて〉

歴史があるところには、城跡や建造物や信仰への思いなど人が集まり生活した痕跡が数多くある。訪れた土地の、史跡・酒蔵・陶芸・食を通して、その土地の歴史を感じる。そんな歴史の偶然(必然?)から生まれた美味が交差する場所を、気鋭のフォトグラファー小平尚典が切り取り、届ける。モットーは、「歴史あるところに、おいしいものあり」。

第16回 一筆啓上「お仙泣かすな馬肥やせ」。丸岡城とおいしいものめぐり

福井県丸岡町主催の「日本で一番短い『母』への手紙」という、素晴らしいイベントがある。その所以が丸岡城にあるらしい。

丸岡城は1576年に織田信長の家臣である柴田勝家の甥・勝豊により建てられた。戦国時代の“諸事情”を経て、1613年に本多重次の長男・成重が城主となった。この成重の幼名が仙千代、つまり、お仙である。

 

徳川家康の部下であった安土桃山時代、本多重次が戦場(長篠の戦い)から妻に宛てた手紙がある。原文は「一筆申す 火の用心 お仙痩さすな 馬肥やせ かしく」。

 

まあ、今でいうところのツイッターだろうか。端的に“あとは託した”ということを書き残したものだ。現代でこういうことを妻に言って出張に行くと、たぶん、帰宅したら誰もいなかったということになるかもしれないが……。まあ、それはさておき。昔から親はいつも子どもとペットの心配をしていたんですね(笑)。

 

城の木材の年代調査をしたら現存する最古の天守閣ではないという話題が最近飛び込んできたが、僕にとっては別に大したことではない。コンパクトで素晴らしいお城だ。

 

当然いつもながらお城のあるところにはうまい酒が必ずある。

まずは、どうしても行きたかった久保田酒造へ(新潟の久保田ではないですよ)

1753年、久保田喜兵衛により創業。最初は富久駒と命名。江戸時代に同じ水系の井戸水を使い酒を造るよう丸岡藩から命じられて創業したと、聞いた。

ここの造りは袋吊り搾り。圧力をかけて搾った純米生原酒「鬼作左」は、麹の香りが残り味が濃く残る酒本来の旨みがぎゅーっと詰まった味わいが深い。熱殺菌を一切行わない為、まさにフルーティーな絶品だ。熱燗でもいけるかも。

久保田酒造の庭には、梅の大きな木がなっていた。思わずめぐまれた“梅見酒”の機会に心躍る。

「丸岡二八そば 大宮亭」の越前そばを食べて、サッパリ気分に

「越前そば」といえばおろしそば。ここのそばは噛み応えはあるのだけど、舌触りは滑らかだ。「辛味大根おろしそば」をいただく。辛味大根がワサビのように鼻にツーンときて、それがたまらない。参りました。でもこのサッパリ加減がくせになりそうだ。「越前そば」は、つゆも醤油もない時代にそば切りを大根汁につけて食べたことを起源としているそう。

ソースカツ丼も人気メニューだった。僕は草津というか群馬あたりのソースカツ丼が有名だったと思っていたが。ウースターソースが少し甘く、辛味大根おろしそばとのセットで食べると、辛いと甘いの往復で、箸が止まらない。

お土産の日本酒を手に入れ、旅を〆る

帰りに、丸岡城の本丸パーキング前にある日本酒専門店で、僕の大好きな「黒龍」を見つけた。種類がふんだんにある。僕は、一に〆張鶴、二に黒龍といった具合に、淡麗なお酒を好む。まあ、基本は寿司屋で飲むので邪魔をしない奴が友となる。特に黒龍の地元、ここ福井で飲む黒龍純米生酒は、もうパーカーポイント(世界中で用いられているワイン評価法)であれば100点を付けたくなるほどだった。

今回は、純米の「九頭龍」を持ち帰った。福井のお米の風味を残しつつ飲みやすく合わせる料理を選ばない。万能なようでいて個性的でもありどうやったらこんなうまい酒ができるかなあ。