〈食を制す者、ビジネスを制す〉

何かに没頭し、極端に集中する「ハードコア」な時間使いの達人

ビル・ゲイツの猛烈な働き方

最近はGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルの総称)の陰に隠れ、日本のメディアではフォーカスされることが少なくなったビル・ゲイツ。マイクロソフトの経営から離れ、現在はビル&メリンダ・ゲイツ財団の共同会長として途上国の医療、環境分野の向上など社会貢献活動に力を入れているという。一時代を築いたゲイツも今や63歳。少し丸くなった印象を受けるが、環境関連のビジネスなどIT分野以外で、今も慈善投資家として存在感を示すゲイツの動向は多くの関係者から注目を集め続けている。

そんなゲイツは、かつて鬼のように仕事をしていた。ビジネスの立ち上げに必死だった創業のころは社員への要求も厳しく、社員曰く「われわれは、のべつまくなし、ギリギリまで追い詰められていた」(『ビル・ゲイツ―巨大ソフトウェア帝国を築いた男』)という。ゲイツの創業時のパートナーだったポール・アレンも同じようなことを語っている。

「ビルが部屋の隅のテレタイプ端末に向かい、BASICのデバッグ(プログラムの修正)をしている姿は、今でも目に浮かぶようだ。膝の上にのせたリストをぱらぱらとめくって修正箇所を確認し、恐ろしい集中力でコードを入力していくのである。彼は二つの両極端な状態の間を行き来していた。一つは、コーラを立て続けに飲み、知力の限りを尽くして激しく活動している状態。もう一つは、まるで死んだように眠ってしまっている状態だ。いつも疲れ果てるまで仕事をし、そのあとは床で丸まって眠るのだ。眠るまでに一五秒とかからなかった。朝、MITS社(引用者注:当時の先端的なIT企業でアレンが働いていた)に向かおうとすると、すり減ったローファーを履いたビルの脚が部屋から突き出ている、ということもよくあった」(『僕とビル・ゲイツとマイクロソフト』)

 

ハーバードの学生が好む「ハードコア」とは?

ビル・ゲイツの星座はさそり座。けんか早くて、気が変わりやすい一方で、指導力は抜群で人を圧倒する性格の持ち主だった。創業から5年間で本当の休暇をとったのは2度だけ。すでにハーバード大在学中のころから、『プレイボーイ』誌を読むように、人事からマーケティング、会社法などビジネス関連の本を手当たり次第に読んだ。もちろん自分のビジネスのためだ。仕事では何よりもギリギリまで追い詰められるのが大好き。時間との勝負の中、切羽詰まれば詰まるほど最高のパフォーマンスを上げられるというタイプだった。趣味も同様で愛車のポルシェでぶっ飛ばし、何回もスピード違反の切符をとられたという。

ハーバード大学の学生は懸命に集中して何かに没頭する時間を好んで「ハードコア」と呼んだ。ゲイツもそんな時間を好み、コーラを飲みながら、働き続けた。本当に疲れたときだけ、眠る。新入社員たちは、ゲイツが床に倒れて、意識がない姿に仰天することが多かった。既存社員からみれば、それが日常風景。ゲイツ自身も時間に対する考え方をこう語っている。

「僕は時間の浪費を好まない。スケジュールは目一杯だし、出張を何回も経験したおかげで、空港に到着する時間は自分でもすごく効率がいいと思うし、どれだけの時間を空けておけばいいかもわかっている。便が出る一時間も前に行っているような男じゃない、とでも言っておくかな。つまり、それは時間を浪費するようなものだ」(『ビル・ゲイツ』より)

「ハードコア」の後、向かう場所

そんなビル・ゲイツに私が注目するのは、彼が懸命に集中して何かに没頭する「ハードコア」という時間の使い方にある。どんな仕事であれ、その成否は、この「ハードコア」の時間がいかに続くかにかかっていると思う。そして「ハードコア」の時間から抜け出したとき、仕事をやり終えた充実感で一杯になり、生きていて良かったと心の底から思えるのだ。

私も「ハードコア」の時間を持つようにしているが、その時間を終えると、渋谷の台湾料理の名店「麗郷」に行くことにしている。それも土曜日か、日曜日の午後3時ごろ。ランチどきの客が引けて、店内には比較的ゆったりとした空気が流れている(それでも活気は充分だ)。いつも最初に注文するのは、「腸詰」と「しじみ」。客のほとんどが注文する名物料理だが、腸詰は特製の辛いタレにつけて食べ、しじみはニンニクと醤油で煮込んだもので、これが酒のつまみによく合う。

出典:辣油は飲み物さん

ビールか、紹興酒を飲みながらの「昼酒」の始まりだ。続いてつまみは「焼きビーフン」、そして「バーワン」を注文する。このバーワンはお皿にクラゲの頭がのっかっているような不思議なビジュアルで、サツマイモのデンプンでできたプヨプヨした半透明の皮で豚肉や野菜を包んで蒸した料理で、こちらもお店の名物だ。

出典:5d_mk2さん

私は昼酒を飲みながら、これらを一通り食べることで、人生の充実感を覚える。休日の昼酒の時間ほど幸福なことはない。楽しそうに語らう周囲の客を眺めていると、さらにテンションは上がってくる。夜の酒とはまた違った味わいがして居心地が良いのだ。

私は、平日はできるかぎり懸命に仕事をして、この休日の昼酒の時間を確保しようと努力する。だから、もし自分が怠けそうになったときは、ときどきゲイツのエピソードを思い出すことにしている。ゲイツのような姿勢で仕事をしていれば、人生の成功とまではいかないまでも、少なくとも昼酒の幸福感を味わうことができる。一生懸命、目の前の仕事をしていれば必ず良いことがある。そんな言葉が決してウソではないことがわかるのだ。