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【偏愛フーディスト】「いなり王子」、降臨
「いなり王子」という名前を聞いたことがあるだろうか。
様々な媒体で活躍中の彼のこと、もしかしてお聞き及びのある方は多いかもしれない。いなり寿司をこよなく愛し今まで食したいなり寿司は1万5千個以上。日々、いなり寿司の普及のため『いな活』を行っているというそんな「いなり王子」こと坂梨カズ氏が全国から選りすぐった渾身のいなり寿司5選、早速見てみよう。
ちょっとその前に、そもそもなぜいなり寿司?
「子供の頃から大好きです。両親とも熊本出身の我が家のいなり寿司は、五目いなりでした。出汁で炊き上げたやや甘いお揚げに、酢飯の中にニンジン、ゴボウ、昆布などを入れたものです。今思いますと、このいなり寿司が特別に美味しかったのではありません。重要だったのは当時、いなり寿司が食べられたシチュエーションだったように思います。
いなり寿司が登場しましたのは、運動会、遠足などのお弁当のメニューとして、さらに、私の家では、親戚が集まる際にも、いなり寿司が食卓に上りました。いずれも、幸せな子供時代の思い出です。いなり寿司を食べる、それは幸せな日。そんな経験が、心の奥底でいなり寿司を好きにさせているのかも知れません」
幸せな日々にシンクロした食べ物、それがいなり寿司。
偏愛のきっかけは?
「15年前から、ほぼ毎日食べ出したのは、集中して仕事をするためでした。頭と体の疲れに、甘辛くて片手で食べられるいなり寿司は重宝でした。
当時、私は青山にある広告関連の制作会社に勤めておりました。残業も多く徹夜明けの午前中などは、クライアントの近くで赤坂の豊川稲荷東京別院さんの境内にあります『家元屋』によく伺いました。家元屋さんのいなり寿司は、甘さと酸味が強くジューシー。疲れた時には特に欲しくなり、今でも月に1回は通い続けております。
いなり寿司は、美味しさと、文化と、幸せを包むもの。これからも、美味しいいなり寿司を食べ続けていきたいと思います」
いなり王子になる前の企業戦士マストハブ栄養補給源。1.片手で食べられる、2.甘くて満たされる、3.良質な炭水化物というパーフェクト食、それがいなり寿司。
それでは、いなり寿司5選、教えてください!
いなり寿司を1.5万個以上食べて日本中から選んだ必食いなり寿司5選
※いなり王子注…いなり寿司には、様々なタイプや考え方があり順位を付けるのがとても難しいのです。今回は、素材や仕込みにこだわった、『これぞ!本物のいなり寿司』という5選です。
京都祇園『いづう』
【大丸京都店でのみ取扱い。京いなり寿司 1人折詰 2,484円、5個入り 1,350円】
「まずは、京都祇園『いづう』さんです。創業1781年(天明元年)の老舗で、鯖姿寿司の名店です。こちらが、大丸京都店に出店する際、特別なメニューとして京いなり寿司を作られました。決め手のお出汁には冬菇を使用されており、酢飯には椎茸やキクラゲなどが入っております。プロでも南関あげを使用されていることが分からぬ程、手間のかかる仕込みをされ、私はまだこの上のいなり寿司が見つけられておりません」
大丸京都店でのみの取扱いながら、いなり王子イチオシいなり寿司がこちら。
東京神田淡路町『神田志乃多寿司』
【1個90円(税抜)+箱代(大きさによって金額は異なる)で、5個入り~。46個入りもあり】
「次は、『神田志乃多寿司』さんです。言わずと知れた、いなり寿司専門店の老舗で、創業明治35年です。江戸前いなり寿司の代名詞的ないなり寿司で、甘辛く煮たお揚げに、酢飯と食感が豊かになるレンコンが入っております。仕上げの前に、お揚げ、酢飯、レンコンを別々に味見させていただいたことがあります。どれも行き過ぎた感じがしましたが、組み合わさるとそれはもう、絶妙なバランスなのです」
江戸前いなり寿司の最高峰、鉄板おもたせに◎。
福岡博多『海木』
【だしいなり 1,350円(5個入り)~2,592円(8個入り)】
「続いて、福岡の日本料理店『海木』さんの『海木だしいなり』です。出汁がしたたるほどジューシーな「出汁系いなり寿司」の先駆けで、最近のいなり寿司界のトレンドリーダーです。手間のかかる南関あげを鰹出汁で炊き上げ、お出汁を搾らずに俵型に包み込みます。東京でもファンが多く百貨店イベントで出店された際は、長蛇の列に。これを書いている時も、味の記憶が蘇りそわそわしてしまうほどです」
現時点で最高人気のトレンド、出汁系いなり寿司ならまずはここから。
大阪北新地『寛龍』
【恋なり 1,100円(スタンダード10個入り)、涙の恋なり1,100円(わさび増量10個入り)】
「続いて、北新地の『寛龍』さん。こちらは会員制の寿司店で、数年前にいなり寿司『恋なり』を出しましたところ、たちまち人気となり、今では北新地の名物手みやげとなりました。南関あげを大阪風に甘じょっぱく煮立て、酢飯とお揚げの間に三つ葉を入れ、江戸前寿司のように握ります。さらに、こちらにわさびを利かせた『涙の恋なり』というものがあります。お店でいただく、大将の握りたても格別な味です」
変わり種、『涙の恋なり』はさすが大阪らしい逸品。
東京南麻布『呼じろう』
【1,000円(8個入り)~6.500円(50個入り)】
「最後に、南麻布『呼じろう』さん。元々は西麻布の『呼きつね』さんを立ち上げられた店主の徳永さんが暖簾分けし、昨年7月に新たにスタートされました。こちらは南関あげをお出汁と醤油でキリリとした味付けで煮立て、酢飯を巻いたロールタイプ。海老や胡桃、生姜などバリエーションも豊富です。夏の限定は「蟹肉の蟹味噌和え」。元俳優の徳永さんが作る、粋でいなせないなり寿司です」
いなり界のプリンスならぬ、いなり界のシュリンプが効いている。
いなり界のプリンスは、スゴかった
実は王子に会うのは千葉のエンターテインメント施設以来初めてのため、大変緊張していた。「王子」という自称、もう完全に会うのが怖い。
ところが王子は大変物腰が柔らかく、物腰だけでなく、腰も低く、原稿執筆依頼のメールに対しても2時間以内に必ず返信してくれ、なんと期日の2日前に原稿を送ってくれてしまうシマツ。いなり界のプリンス、スゴい。
なんでも「ええよ、ええんよ」と内包してくれるような“いなり寿司”という、愛に溢れた食べ物を偏愛する人はやはり、包容力も安心感もいなり寿司のように別格であったのだ。
協力/坂梨カズ
文/鮓谷裕美子(食べログマガジン)