並んででも年越しそばを食べに行きたい3軒

大晦日に欠かせない食といえば、年越しそば。今回そば研究家の前島敏正さんにご紹介いただくのは、「わざわざ年越しそばを食べに行きたいお店」です。平成最後の大晦日の風情を、おいしいおそばとともに味わいましょう。

 

自宅で紅白を見ながら食べる人も多い年越しそばを「わざわざ食べに行きたい」と思わせるお店とは、大晦日特有の賑やかな雰囲気があること。そしてもちろん、そばがおいしいこと。前島さんが教えてくれたのは、都心の老舗「神田まつや」「室町砂場」と、調布市深大寺の「湧水」です。大晦日の営業に関しては、「神田まつや」でお話をうかがいました。

1. 神田まつや

「大晦日の賑わいを味わうにはここが一番。大晦日は60席の店内が満席です」と教えてくれた「神田まつや」は、明治17年(1884年)創業の神田の老舗。通常の営業時間は11時〜20時ですが、大晦日は10時開業・21時半最終ウェイティング受付の特別営業となり、朝8時台から22時過ぎまで行列が続きます。

 

寒空の下で行列に1〜2時間並び、やっと店内に入れた時の嬉しさは格別。後ろに人が並んでいる以上、長っ尻は禁物ですが、まずは日本酒で温まってからおそばに移りましょう。

 

「大晦日のメニューは通常より絞り込まれていますが、一品料理はニシンの棒煮、わさびいも、天だね、ゆば、焼き海苔、うにをご用意しています。お酒と一緒にどうぞ」と6代目店主の小髙孝之さん。

サクッとそば前を楽しんだら、いよいよ年越しの「もりそば」(税込650円)や「ざるそば」(税込800円)を。「神田まつや」のそばは、挽きぐるみのそばを「外二割」で手打ちし、“打ちたて” “切りたて” “茹でたて”で提供しているのが特徴です。ちなみに「外二割」とは、つなぎとそば粉の割合が2:10という意味。つなぎとそば粉の割合が2:8の「二八」よりも、「外二割」のほうがそば粉の割合が少し多くなっています。

 

主に使用するそばは茨城県境町の常陸秋そばで、そばつゆは出汁の旨味の効いた濃いめの辛口。小髙さんいわく、つゆは「飲むと辛いけど、つけて食べるとおいしい」絶妙なバランスです。

しなやかなそばを濃いめのつゆにつけてすすれば、すっかり江戸っ子気分。大晦日に出るそばは8,000食(お土産も含む)とあり、当日は職人さんの数も増え、店内では常にそばが打ち続けられます。活気あふれる師走の風情を楽しみに、出かけてみてはいかがでしょうか。

2. 「室町砂場」(日本橋)

「天ざるの元祖で年越しそばをいただくのも乙なものです」と前島さんが薦める「室町砂場」は、明治2年(1869年)創業の老舗。ここ「室町砂場」で生まれた「天ざる」「天もり」は、暑い夏でも天ぷらとそばを食べられるようにと、そばを冷たいせいろで出すようにしたのが始まりです。「天ざる」(税込1,600円)や「天もり」(税込1,550円)は、からりと香ばしく揚げた芝海老と小柱のかき揚げを、濃い目のつゆに浸し、そばと別盛りで出すスタイル。「天ざる」のそばは更科粉、「天もり」のそばは一番粉を打ったものです。店内の1階はテーブル席と小上がりから成る56席で、2階は個室5室。純和風の店内で坪庭を眺めながら「天ざる」や「天もり」を味わえば、ちょっと贅沢な気分で大晦日を過ごせそうです。

天ざる 出典:蓼喰人さん

3. 湧水(深大寺)

調布市深大寺は、深大寺の門前に20軒ほどのそば店が並ぶそばの町。中でも人気の「湧水(ゆうすい)」は、「1・2階合わせて112席の大型店ですが、年末はいつも満席です」と、前島さんも太鼓判を押すそば店です。こちらのそばは、国産石臼挽きのそば粉を使用した手打ちそば。特におすすめの「湧水そば」(税込750円)は、厳選したそば粉を用いて九割で打ったそばで、時期によって茨城産の常陸秋そばや、北海道産粗挽きそば粉などが使われます。

湧水そば(写真は大盛り) 出典:代々木乃助ククルさん

 

大晦日の営業時間は9時30分~22時となっています。

細く長いそばをすすって健康長寿の縁起をかつぐ「年越しそば」。人気店の細く長い列に並ぶのも験担ぎのうちとして捉え、大晦日の行列に加わってみてはいかがでしょうか。

 

取材・文/小松めぐみ

撮影/馬場敬子(神田まつや分)