〈食を制す者、ビジネスを制す〉
朝ドラをもっと楽しみたい人に
現在放映中のNHK朝ドラ『まんぷく』のモデルである日清食品創業者の安藤百福さん。世界で初めてインスタントラーメンをつくった人物として有名だが、実際にはどんな人だったのか。子息である安藤宏基日清食品ホールディングスCEOが著書『カップヌードルをぶっつぶせ!』の中で、創業者である父のことを次のように語っている。
「96歳で永眠したが(略)、血気盛んというか、恐るべき仕事への執着心というか、そこへ持ち前の心配性が加わって……」
百福さんは、常に「人のやらないことをやる」という創意工夫において、空恐ろしいほどの執念があったという。それだけに父は子に対しても容赦がなかった。「おまえは金に困ったことがないから人間が甘い」「大風呂敷を広げて、できもしないことを言うな」「海外で売れないのは、おまえに能力がないのだから仕方がないじゃないか」「しょせん、おまえの小さいふんどしで世界を包もうとしても、無理なんだよ」……。
まさに罵倒である。一代で大企業をつくり上げた創業者のビジネスへの執念はすさまじい。だが、百福さんも早々に成功したわけではない。世界初のインスタントラーメンであるチキンラーメンをつくったのは48歳のとき。人生の後半戦を迎えて百福さんは「考えて、考えて、考え抜け。私が考え抜いたときには血尿がでる」と語るほど、苦しみ、悩み、試行錯誤を繰り返して開発した商品がチキンラーメンなのである。
48歳でチキンラーメンを開発
百福さんは1910年、日本統治下の台湾で生まれた。両親を早く亡くし、22歳のときに遺産を元手に繊維商社の東洋莫大小(メリヤス)」を設立。翌年日本に渡り、大阪で商売を始めた。立命館大学の夜間部に通い勉学にも励んだが、その後、第二次大戦で事務所や工場をすべて失うことになる。多くの辛苦を経験したが、戦後は復興事業を推し進めた。
41歳のとき頼まれて、名前を貸すかたちで信用組合の理事長に就任。これが失敗のもとになる。信用組合が資金繰りに行き詰まり倒産。百福さんは個人で負債を弁済することになり、一夜にして個人資産すべて失うことになるのである。手元に残ったのは大阪府池田市にある一軒の借家だけ。47歳。正真正銘の無一文になったのである。しかし、そこから再起を図って、国内の食糧不足の解消を目的にインスタントラーメンの開発に邁進する。宏基氏は著書でこう語っている。
「創業者にとって世の中のためという思いもあったのだろうが、そのときはさすがに生活が切羽詰まっていた。自分と家族が生き延びていくために死力を尽くした最初で最後の仕事ではなかったかと思う」
ある時、夫人が天ぷらを揚げているのを見て、麺を油で揚げて乾燥させる「油熱乾燥法」を思い付く。1年間かけて開発に成功した百福さんは、58年にチキンラーメンを発売。どんぶりに入れてお湯を注ぐだけでおいしく食べられる簡便な食品は、「魔法のラーメン」と呼ばれ、瞬く間に人気商品となった。それをきっかけに現在の日清食品を立ち上げるのである。
「安藤さんはスッポンのような人である。いったん食いついたら離さない」。親交のあった福田赴夫元首相はそう評している。百福さんから学ぶべきは、人生の危機に陥っても、諦めないという執念と集中力だろう。
「物事は漠然と考えていてはだめだ。一心不乱に考え続けるからこそ、睡眠中にふっとアイデアが浮かび上がってくる」
ビジネスパーソンこそ横浜に行ってみるべし
そんな百福さんのことをもっと知りたいと思ったら、横浜のみなとみらい地区にある「カップヌードルミュージアム 横浜」(正式名「安藤百福発明記念館 横浜」)に行ってみるといい。百福さんの創造的思考を体験できる一風変わったミュージアムで、自分のオリジナルカップヌードルをつくったり、チキンラーメンの「手作り」を経験したりすることもできる。
好都合なことに、ミュージアムの近くには「横浜みなとみらい万葉倶楽部」がある。ミュージアムで過ごしたあとは、万葉倶楽部で温泉に浸かって、ゆっくりリラックスタイム。そんな休日を過ごしてみてはいかがだろうか。
私もときどきこのコースを利用するのだが、皆さんには万葉倶楽部で夕方まで過ごしたあと、野毛で飲むことをお勧めしたい。みなとみらい地区からJR桜木町駅を超えて15分くらい歩くことになるが、たいしたことはない。野毛に近づいてくると期待と空腹でソワソワしてくる。お酒好きな人にとっては天国みたいな街だ。周囲のほとんどが飲食店。それも個性的な店ばかりが並んでいる。
ぜひ行ってほしいのは焼鳥の名店「伸喜」だ。手羽先、はつ、ねぎ肉、かわ、つくね、なんこつ……何でもうまい! 私も最初は知り合いのオジサマに連れていってもらったのだが、看板らしきものがないので、教えてもらわなければわからない。行列は必至。だから、17時の開店前にまずは攻めてみてほしい。あとは運だ。この店を手始めに、呑み屋をハシゴする。最後はバーで〆て、翌朝は二日酔いということが多い。
そんなとき私はカップヌードルを食べる。それもスタンダードなしょう油味。食べてみると、胃に染み渡る感じがする。やっぱりカップヌードルがいいなあ。そう思いつつ、しばらくして復活。そして夕方、また飲みに行くことになるのだが……。