【噂の新店】田淵薬膳研究所

身体が喜ぶ、ととのう薬膳

この辺りは江戸時代から薬問屋が軒を並べていたエリア

地下鉄丸太町駅から徒歩5分ほどのところに、築100年以上の町家がある。1階はイタリア料理店「ルーデンス」、2階は2025年10月にオープンした「田淵薬膳研究所」。カウンター7席のみの特別な空間だ。

店には薬膳に関する手書きの掲示も多々

シェフは国際薬膳食育師の資格を持つ料理人、田淵章仁さん。滋賀県出身で、デザイナーを志していたが、実家が農家だったこともあり、食に引かれ、料理の道へ。滋賀や東京のイタリアンやフレンチで経験を積み、2010年独立し、京都でイタリア料理「クレメンティア」をオープン。滋賀の食材を扱い、肉料理に力を注いでいた。その後、2017年に移転し「ルーデンス」と店名も変更。「心と身体を元気にするレストラン」を掲げ、薬膳を学び始める。さらに、食と健康に関する考えが深まり、「おいしく、からだ、ととのえる」をテーマに2階のカウンターで薬膳のレストランを始めることを決めた。

シェフの田淵章仁さん。「おいしく、楽しく、健康的がいちばんですよね」

夜の料理は「養生コース」。一人ひとり食べる量が異なることを配慮し、6品のショートコースに加え、好きなだけいただけるアラカルトで構成されている。特筆すべきは1品目の薬膳の伝統的なお茶「調律茶」。「甘く感じる」「なんとなく苦い」などその味わいの感じ方や会話から、田淵さんが個々のコンディションをはかり、5種の中からそれぞれに合ったパーソナルティー(薬膳茶)を選んで料理のお供に。自分の心と体に静かに問いかける特別なひとときとなっている。また、ショートコースの後のアラカルトでは、パスタ、薬膳キーマカレー、粕汁、ぬか漬など、好みのものを好きな量いただける。

その日のコンディションがわかる調律茶
 

門上さん

田淵さんの世界観に興味がありました。食後は身体が軽くなったように感じました。

いただけるお料理はこちら!

今回は、「養生コース」18,800円の中から門上さんのおすすめを紹介していく。

9年つぎ足した薬膳スープ。近江牛コンソメ、鶏の出汁、フカヒレの出汁、すっぽんの出汁をベースに季節に合わせた生薬を炊き込んでいます。今回は滋養強壮・花粉症対策を意識し、乾姜(カンキョウ)、なつめ、クコの実、黄精(オウセイ)、高麗人参などを使用。具材は、黒キクラゲとターサイ。

スープに使われる生薬。今回は滋養強壮・花粉症対策を意識
薬膳スープ
 

門上さん

身体に滋味が満ちてゆく。スープですが噛むことの大切さがわかります。

五味をそれぞれ料理にした、五味の前菜。この前に、豆腐に五味のソースをかけたアミューズをいただき、五味を感じやすくする趣向も。ちなみに、薬膳の「五味」とは、酸味、苦味、甘味、辛味、鹹味(かんみ:塩辛い味)。これらは単なる味覚だけでなく、それぞれの味が体内の「五臓」に作用し、これらをバランスよく摂るのがよいとされているそう。

五味の前菜。「甘」福岡産あまおうと滋賀県ローズファームの無農薬バラのキャンディ。「苦」鰻のローマ風春巻き。鰻を赤ワイン、魚醤、はちみつを使ったタレで煮込み、ネギをトッピング。「酸」地鶏のガランティーヌ。ソースはもろみ、マスタード、湘南ゴールド。「鹹」炭入りの米粉パン、自家製カラスミ、ヨーグルトのソースなど。「辛」生姜、日本酒と生姜のジュレ、イワナの卵などをトッピングしたサワラのタルタル
 

門上さん

五味を味わう楽しみに溢れています。

手長エビ、味噌などで調味した黒豚のミンチ、菜の花を白菜で巻いて蒸した、海と山のロールキャベツ。ソースはホロホロ鳥の出汁とフカヒレの出汁、ターメリックなどを使用。チンゲン菜を添えて。血流の流れをよくし、肩こりや肌のくすみなどの改善を目指したそう。

海と山のロールキャベツ
 

門上さん

海鮮と肉などの美しい融合!

アラカルトから一品。イノシシのミンチと玉ネギを使ったシンプルな薬膳カレー。クミン、ターメリック、コリアンダー、ホワイトペッパーなどのスパイスを使用。滋賀県草津産のイタリア米五分づき玄米と。

薬膳カレー
 

門上さん

田淵さんの考えがよくわかる薬膳カレー。

夜の「養生コース」は、薬膳ビールやカルダモン焼酎、スパイスティーなど飲み物もインクルーシブ。

生薬の入った薬膳レモネード

自分の身体を見つめなおす場所へ

ゲストから「翌日体が楽になった」「むくみがとれた」などの声が届くことも多く「うれしいです」と笑う田淵シェフ。今後の展開を聞けば「今の町家一軒全部でウエルネスを提案したいです。例えば、鍼灸師や漢方医がいたり、野菜や調味料を販売したり。ゆくゆくは温泉もいいですよね!」と未来ある話をしてくれた。「でも今は何より、自分の身体を思ってレストランを選んでほしいです。この店が“食”で自分の身体を見つめなおす場所になれればいいですね」

 

門上さん

自分の身体の特徴が分かり、薬膳の楽しみを知ることができますよ。

教えてくれた人

門上武司
1952年大阪生まれ。関西中のフランス料理店を片っ端から食べ歩くももの足らず、毎年のようにフランスを旅する。39歳で独立し「株式会社ジオード」設立後はフードコラムニストというポジションにとどまらず、編集者、プロデューサー、コーディネーターとマルチに活躍。関西の食雑誌「あまから手帖」編集顧問であり、全日本・食学会副理事長、関西食文化研究会コアメンバー。著書には「食べる仕事 門上武司」「門上武司の僕を呼ぶ料理店」(クリエテ関西)、「京料理、おあがりやす」(廣済堂出版)、「スローフードな宿1・2」(木楽舎)、など。年間外食は1,000食に及ぶ。

食べログマガジンで紹介したお店を動画で配信中!
https://www.instagram.com/tabelog/

※価格は税込。

文:木佐貫久代
撮影:福森公博