同じ場所で曜日ごとに入れ替わる!“シェアスタイル”のお店へ

元々のお店とは別のジャンルのお店が、限られた曜日や時間帯に場所を借りて営業する“シェアスタイル”のお店が増えつつあります。今回はそんなシェアスタイルで営業するお店の中でも、カレー激戦区の西荻窪で人気の「とびうおkitchen」「とら屋食堂」をレポート。なぜシェアスタイルで営業するのか、どんなメニューを提供しているのか、それぞれ考えるお店づくりについて聞きました。

シェアのきっかけは店主同士の不思議な縁

西荻窪駅から歩いて2分ほどの路地裏にひっそりと佇む、紫の壁が個性的なお店。スリランカ料理の「とびうおkitchen」と南インド料理の「とら屋食堂」が店舗を曜日ごとにシェアして営業するお店です。

 

もともと営業していた「とびうおkitchen」の店主・鈴木章浩さんは、このお店の2代目。初代から提供していたスリランカカレーとあご酒のお店を受け継ぎ、お店を一人で切り盛りしています。「このお店は単なる飲食店としてだけでなく、色々な文化の発信地として作っていきたいという思いがありました。自主映画の上映などさまざまなイベントを開催しています。また一人で仕込みから接客までこなすので1週間フルタイムで営業することは難しい面もあり、シェアしてくれるお店を探していました」(鈴木さん)

 

そんなとびうおkitchenと出会ったのが、これまで固定の店舗を持たずに埼玉県蕨市のチャレンジショップ(NPO法人が運営する単発営業のお店)で月1回の営業と日本全国の公共施設などで南インド料理を提供してきた「とら屋食堂」。利益を求めての営業ではなく、その都度の経費をお客様の人数分負担してもらい、食べてもらうスタイルで活動。そんな活動をしながら2年前から店舗の物件探しを始めたものの、なかなかいい物件に出会えずにいたそう。そんな時信頼できるカレー好きの友人の紹介で「とびうおkitchen」を紹介され、ランチで一度お試し営業をしてみたところ、お店の広さ、環境が求めていたものと合致し、今年2月に“シェアスタイル”での営業を開始しました。

 

「店舗は探していたものの、“間借り”という形態にあまりいいイメージを持っていませんでした。なので物件のオーナーさんととびうおkitchenのご主人とできちんと話し合い、書類も交わしました。現在は金曜から火曜まで営業し、それ以外の曜日は要望に応じて各地に出張し、南インド料理を提供しています。自分たちが求めていた環境で営業できるのがうれしいですね」(とら屋食堂店主“とらさん”)

 

現在は水・木曜が「とびうおkitchen」、それ以外の曜日が「とら屋食堂」として営業する、二つの顔をもつお店に。(※営業日の入れ替えもあるので詳しくはとびうおkitchenのホームページのカレンダーをチェック)南インド料理とスリランカカレーという近い地域の料理を提供するお店がシェアしたことで、目当てのお店の営業日以外に訪れたお客さんでも、もう一つのお店で食べてみようと入ってくる人が多く、それをきっかけに常連になる人もいるそう。

カレー激戦区の西荻窪で通いたくなる、スリランカと南インドのやさしい“定食”

水曜・木曜はスリランカ料理の「とびうおkitchen」

水曜と木曜に営業する「とびうおkitchen」は、スリランカカレーをメインとしたお店。スパイスの香りに包まれた店内は、カウンター7席とテーブル席が4つ。朱色で統一された店内はどこか異国情緒が漂います。

ノンベジプレート 950円(税込)

 

ランチタイムのメニューはスリランカカレーのプレート。「ノンベジプレート」、「ベジプレート」、「卵のホッダ」の3種類があり、この日の「ノンベジプレート」はチキンカレーをメインに豆カレー、ジャガイモのマスタードシードとカレー炒め、大根と人参の和え物、キャベツのマッルン、スリランカのココナッツのふりかけである「ポルサンボル」、青菜の香辛料炒め「サグ」がのった色鮮やかな一品です。カレーと副菜を自由に混ぜて食べるのがスリランカ流の食べ方。副菜は季節や日によって替わるのでさまざまな素材と味が楽しめます。

ベジプレート 900円(税込)

 

ベジプレートはその名の通り、野菜中心のカレーと副菜がのったヘルシーな一品。メインの豆カレー、トマトの冷たいカレー、キャベツのスパイス和え、人参とキャベツの和え物などがプレートを彩ります。そのヘルシーな組み合わせで女性人気の高いメニューです。

卵のホッダ (900円・税込)

 

「ホッダ」とはスリランカ語で汁を意味する「ホディ」から派生した汁やスープを意味する言葉。「卵のホッダ」には、豆のカレーと副菜とバスマティライス、パンが付いたセットで提供されます。この「ホッダ」はココナッツミルクをベースに、黒胡椒やマスタード、カレーパウダー、ターメリックなどのスパイスにモルディブフィッシュを入れ、水を加えて煮てカレースープを作り、ゆで卵を加えたもの。スパイシー過ぎないマイルドさが全ての副菜にマッチします。

とびうおと日本酒のあご酒(650円・税込)

 

スリランカカレーと並ぶ看板メニューのあご酒。とびうおの香ばしい香りが染み出した日本酒は蓋をして2分ほど蒸らしてから飲むのがベスト。

金曜〜火曜は南インド料理の「とら屋食堂」

ランチミールス(1,200円・税抜)

 

南インドで広く愛される「ミールス」を提供しているのがとら屋食堂。ランチ時にバナナリーフ形のプレートにて提供される「ランチミールス」は、ご飯をメインに汁物や副菜を自由に混ぜて食べる南インドの“定食”です。

ライスの上には緑豆を煮込んだ「ダール」をのせて、その上に豆をペースト状にして揚げた「パダム」という煎餅がのります。

小さな器が並んだ副菜は日替わりで提供。

プレート上のどれが何なのかは、メニューでわかりやすく解説されています。この日の副菜は④「ズッキーニのクルトゥ」、⑤「ビーツのパチャティー(ヨーグルトサラダ)」、⑥「キャベツのトール(炒め蒸し)」。油をほとんど使用せず、化学調味料も不使用。豆と野菜、ココナッツやヨーグルト、ハーブ、スパイスなど素材の味の組み合わせによって味付けを仕上げます。

豆を擦って揚げたドーナツ「メドゥワダ」は、ココナッツをペースト状にした「チャトニ」をつけて食べるのがおすすめ。見た目のインパクトよりもかなりマイルドな味でヘルシー。このランチミールスはワダ以外の好きなものを好きなだけお代わりできるというのも特徴です。

 

スリランカと南インド、偶然の縁で始まったシェアスタイルのお店はどちらも毎日でも通いたくなる、やさしくマイルドな味。居心地の良い空間で日本人の好みに合った2つの地方の家庭料理に出会い、飲食業界の新しいスタイルを覗いてみてはいかがでしょうか?

撮影:竹之内祐幸(とびうおkitchen)