【THEご褒美スイーツ 〜知っておきたい通な店〜】

「食事と同じくらい、スイーツにも絶対手を抜きたくない!」と、日々美味なるスイーツを探し求める甘いもの好きさんにお届けする本連載。スイーツの歴史研究のみならず、製菓にも精通するお菓子の歴史研究家・猫井登さんが太鼓判を押す、ご褒美スイーツを紹介します。

〈第19回〉「Gelato 9. (ジェラート ナイン)」

今回猫井さんが紹介するおすすめのフレーバー6種

「Gelato 9.」は、二子玉川駅より徒歩7分ほど、玉川高島屋横に2021年9月オープン。フレンチのシェフとして活躍された山崎裕太氏が独創的なジェラートを提供している。季節によりフレーバーは異なるものの、常時9種類のフレーバーが用意されている。今回は、この時期おすすめのフレーバーとドリンクを紹介したい。

【ご褒美スイーツその①】「スイカ・フランボワーズ」+「日田梨&パルミジャーノレッジャーノ」

まずは、ピンク色が美しい「スイカ・フランボワーズ」から。このお店ではメニュー名の最初に書かれたものが主役の素材。つまりこちらは「スイカ」が主役のジェラート。

「スイカ・フランボワーズ」+「日田梨&パルミジャーノレッジャーノ」700円

夏の日にスイカを丸かじりしたような味わいを出すために、水分も糖分も極力控え、スイカの味わいを前面に。口に含むと最初に一瞬フランボワーズが香るが、味わいはスイカ。スイカの味わいの最後にやってくるウリの青っぽさを、フランボワーズの香りと味わいが上手に消し、華やかな後味に転化させている。

フランボワーズは敢えて粗めに切ってスイカのジェラートに加えられており、双方の味わいがランダムにやってくる。そのため味わいが平坦にならず、1つのフレーバーの中でも味わいの変化を楽しめる。

次に「日田梨&パルミジャーノレッジャーノ」。梨とチーズというと、奇抜な組み合わせのような気もするが、フレンチのシェフでもあった山崎氏は「前菜で、梨に薄くスライスした硬質チーズをのせ、黒コショウを振ったサラダが出てきてもそんなに驚かないでしょう? それと同じ発想ですよ」と説明する。

異なる食材同士が生み出す味わいの妙は、フレンチシェフ時代の経験が生かされている

口に含むと、香りはチーズだが味わいは梨という、何とも不思議な感じがするが、違和感なくするすると食べ進めることができる。白ワインと合わせても良さそうだ。

九州出身のシェフにとって「日田梨」は、小さい頃から身近にある品質が高く安定した味わいのフルーツだった。ただリンゴなどに比べると味わいが淡白なので、塩味とうまみを持つチーズを脇役に据え、味わいをグレードアップ。

パルミジャーノレッジャーノチーズは粉状にして使うことが多いが、シェフは極薄の板状に削ることにより表面積を大きくし、より味わいと香りが立つようにして使用。これにより、日田梨の味わいとチーズの味わいの段階が生まれ、食べ応えが感じられるジェラートになっている。

さて、2種のジェラートを別々に味わってきたわけだが、最後に2つが一緒になったところを味わうと……これが何とも絶品! スイカの瑞々しい甘み、フランボワーズのベリー系特有の華やかな香りと酸味、日田梨の爽やかな淡い甘み、硬質チーズのうまみとコク、これらが一体となり複雑ながらなんともエレガントな味わいに。レストランのコースの締めくくりのデセールとして出てきてもよい完成度であった。この組み合わせは、是非試してほしい。

【ご褒美スイーツその②】「緑茶・セミドライイチジク」+「チョコレート・山椒」

「緑茶・セミドライイチジク」の緑茶は、大分県「お茶の川谷園」のものを使用。製菓でお茶を煮出すとき、生クリームを使用することが多い。生クリームを用いるとコクが出るが、乳脂肪分が高いと素材の香りが抑えられてしまう。そこでシェフは、お茶の香りを大切にするため敢えて牛乳を使用して、じっくりと煮出す。

「緑茶・セミドライイチジク」+「チョコレート・山椒」700円

味わってみると、抹茶と言われても疑わないくらいの高い香りと濃厚な味わい。色合いも美しく、お茶の甘みと上品な苦みが、余すところなく引き出されている。

緑茶のジェラートに加えられたセミドライのイチジクのうまみとプチプチした感触が、味わいと食感にアクセントを与えて、これまたいい仕事をしている。セミドライのイチジクは、ジェラートに合わせたときに硬さに違和感が感じられないよう、一度軟らかく煮てから加えられている。

次に「チョコレート・山椒」。一般にチョコレートのジェラートといえば「○○産のカカオを使用」と、カカオの産地を前面に出す店も多いが、シェフはカカオの産地よりも、カカオの量が大切だという。「通常の店の4倍以上のクーベルチュール・チョコレートを使っています」とシェフ。

和を感じさせる彩りも美しい2種の組み合わせ

実際味わってみると、ジェラートというよりは、チョコレートそのものを食べているような感覚だ。そんなチョコレートに合わせるのが「山椒」。

「山椒って、日本を代表するスパイスなのに、和食を食べるときにしか使わないなんてもったいない。もっと山椒の良さを知ってもらいたくて、使ってみました」

もちろん、ジェラートに加えるにあたっては、シェフなりの工夫が。「山椒を直接入れてしまうとピリピリ感が強いので、ホワイトチョコレートを薄く板状に伸ばして、そこに山椒を振り掛けて固めたものを砕いて入れています」

ホワイトチョコレートが山椒の尖った部分を包み込み、ふわっとした香りを残しつつも辛みを抑え、子供でも楽しめるように仕上げられている。こちらも最後に緑茶とチョコレート2種のジェラートをミックスして味わってみることに。それぞれに苦みはあるのだが、緑茶の甘みを持った苦みとカカオの濃厚なうまみを伴った苦みは別物で、異なった苦みの二重奏を味わうことができる、まさに大人の味わいへと変化した。濃いめの赤ワインやウイスキーと合わせても面白いかもしれない。

【ご褒美スイーツその③】「ポップコーン・ソルト」+「アールグレイ・ミント」

「ポップコーン・ソルト」+「アールグレイ・ミント」700円

「ポップコーン・ソルト」。ジェラートとしては何とも珍しいフレーバーだが、なんと、こちらがお店の定番商品となっている。作り方としては、大量のポップコーンを70~80℃の牛乳でだしを取るようなイメージで1時間ほど煮出した後に裏ごしし、エキスをしっかりと搾り出して冷やす。これでポップコーンのミルクジェラートは完成だ。最後に味を締めるために塩を加えるが、混ぜ込むのではなく表面に加えて、敢えて味わいにムラを作るように仕上げる。

味わってみると、最初にポップコーンの香ばしさが感じられ、それを包み込むようにミルクの優しいうまみがやってくる。一口ごとに感じられる塩味の量が異なり、映画館で映画を見ながらポップコーンを口に放り込んでいるような楽しい気分にしてくれる。

初来店なら、是非定番人気の「ポップコーン・ソルト」にトライしてみて!

「アールグレイ・ミント」は、まずミントの爽やかな香りが鼻を抜けていくのが印象的。次いで、アールグレイ特有のベルガモットの香りと落ち着いた穏やかな味わい。なんだかほっとした気分にしてくれるジェラートだ。ジェラートを口に含んで、ゆっくりと味わっていると、最初にベルガモットの香りと味わいがやってきて、その延長線上で、ミントの香りと味わいにバトンタッチ。爽やかさを残して去っていく。いつの間にか気分を落ち着かせてくれる、そんなジェラートであった。

フレンチ出身・山崎シェフによる独創的な味わいのジェラートを堪能できる「Gelato 9.」を詳しく知りたい!

2021年、二子玉川に誕生した「Gelato 9.」

店名の「Gelato 9.」の「9」は、シェフの出身地である九州から。大分県の“生の、旬真っ盛り”の素材を用いてジェラート作りをしている。

山崎氏は、中学生のときフレンチのシェフに憧れ、高校は調理師免許を取得できる学校を選択。卒業後は、芸術的センスを目指すため一時はアパレル業界に身を置くも、食の世界にカムバック。実務経験を積むため、大手の飲食企業に就職。真摯に働く姿が認められ、27歳という若さで有名フレンチ店の料理長に抜擢される。

さまざまなフレーバーを楽しめるジェラートは子供から大人まで大人気

その後、自分の作るものでもっと幅広い人々を喜ばせるにはどうすればよいかを考察するように。行き着いたのが「ジェラート」だった。ジェラートならば咀嚼も容易で、小さな子供から高齢者にまで楽しんでもらえる。お店もみんなに気軽に来てもらえる「暮らしの町」の路面に出すことに。

店内はまるでサロンのようなスタイリッシュな雰囲気

店内は、コンクリ―ト打ちっぱなしのお洒落な内装。ショーケースには店名の「9」と同様、常時9種類のジェラートが用意されている。

ショーケースには店名の「9」にちなんで常時9種類のフレーバーが並ぶ

「グラニュー糖の甘さが感じられたら甘すぎです」。そう話すシェフが作るジェラートは、糖分が抑えられ、主役である素材の味わいがしっかりと感じられるフレーバーばかり。フレンチ出身のシェフだけあって、素材の組み合わせも独創的だ。お店では、バーテンダーである篠原誠人さんが手掛けるハイボールやカクテル等のドリンクとジェラートのペアリングも楽しめる。

「レモネード」はジェラート(2種)とセットで1,000円

こちらの「レモネード」も独創的で、甘さはきび砂糖、スパイスにはハーブやバニラを使っている。トッピングにも手を抜かない。浮かべられたレモンスライスは、塩とハチミツで漬けこんだものに山椒を振ったもの。添えられたレモングラスは、供する直前に火で炙る。色合いが良くなり、香りも立つのだという。

山崎シェフの今後の展開にも期待が高まる

最後にシェフに今後の方向性について伺った。「肉の専門店、魚の専門店……という風にジャンルごとに独創的なメニューを提供する専門店を出していければいいなぁと思っています。すべてのお店の名前に『9.』を付けて……」 。今後、街で「○○9.」というお店を見かけたら、それは山崎シェフのお店かもしれない。

※価格はすべて税込

食べログマガジンで紹介したお店を動画で配信中!
https://www.instagram.com/tabelog/

文:猫井登、食べログマガジン編集部

撮影:外山温子