〈食べログ3.5以下のうまい店〉

おいしいもの好きのあの人に「食べログ3.5以下のうまい店」を教えてもらう本企画。今回は、連載「森脇慶子のココに注目」でおなじみのフードライター・森脇 慶子さんがおすすめする、2024年6月24日に東京・神保町にオープンした「焼鳥 みどり」を紹介します。

名店出身の店主が目指すのは“町焼き鳥”の延長。おいしい鶏を適正価格で提供する「焼鳥 みどり」

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!
食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。

食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。
点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

神保町に2024年6月にオープンした「焼鳥 みどり」

神保町駅から歩いて5分ほど。白山通りを一歩横に入った路地に立つ威風堂々とした店構え、鶸色ののれんが一際目を引く一軒が「焼鳥 みどり」。昨年6月にオープンしたダークホースだ。食べログの点数は2025年9月時点で★3.21の隠れ家的存在だが、口コミを覗いてみれば★4以上を付けるレビュアーも多く、期待に胸が膨らむ。

落ち着いた雰囲気の店構えに期待が膨らむ
 

森脇さん

ご主人の緑川友也さんは「うちは“町焼き鳥”の延長でいたいと思っています」と仰っています。私も昨今の焼き鳥店高級化を見るにつけ、遅かれ早かれ町寿司、町焼肉に続く“町焼き鳥”という言葉が生まれるだろうと常々思っていました。そんな時に緑川さんの一言を聞き、焼き鳥も高級店の一つとしてカテゴライズされる時代が来たことを改めて実感しました。

無垢材のカウンターと古木の柱が、どっしりとした趣の中にも温かみを醸しだしている

現在41歳のご主人・緑川さんが焼き鳥の世界に入ったのは32歳の時。焼き鳥業界ではありがちな異業種からの転身組だ。ダイニングバーでのアルバイトをきっかけに、飲食の世界に興味を持った緑川さん。ここでワインやカクテルなどアルコールへの好奇心が芽生え、その後ナイトクラブで働きはじめる。マネージャーという立場上“お客様と一緒に飲むこともお仕事の一つ”とばかりに、毎日かなりの酒量を平らげていたようで「この調子でいくと、いつか体力的に限界が来ると思い、転職を決めました」と緑川さん。32歳で焼き鳥職人を目指すことに。料理の経験はなかったものの元々食べることは大好きだったという緑川さん、最初に修業に入った焼き鳥店は人形町「江戸路」。1760年創業の老舗にして、親子丼発祥の店でもある「鳥料理 玉ひで」の姉妹店だ。ここで3年半、焼き鳥のいろはをみっちりと学び、いざ独立というタイミングでコロナ禍に見舞われ、断念。

店主の緑川友也さん

ならば、さらに腕を磨こうと、大塚の名店「蒼天 南口店」の門を叩いた。「何軒か食べ歩いた中で一番おいしかったのと、店構えや大将の雰囲気にも引かれました」というのがその理由だ。ここでも3年半、業界のレジェンドとも言えるご主人・中俣照昭氏の薫陶を受け、精進。緑川さん曰く「(鶏への)探究心の強さ、焼きへのポリシーなど焼き鳥への向き合い方を教えていただきました」とのこと。“禍転じて福となす”ではないが、コロナ禍はある意味、緑川さんにとっては焼き鳥への思いを深めるいい機会を与えてくれたのかもしれない。

焼鳥 みどりで使用する鳥は「東京しゃも」「ホロホロ鳥」「地鶏 丹波黒どり」の3種

複数の鶏を焼き分ける修業先に倣い、同店でも「東京しゃも」「ホロホロ鳥」「地鶏 丹波黒どり」の3種を使用。緑川さんによれば「東京しゃもは脂肪分が少なく、地鶏ならではのシャキシャキとした繊維質を持つ引き締まった肉質が特徴。一方ホロホロ鳥は、うまみが濃厚でジューシー、それでいて硬すぎず脂が上品ですね。そして、丹波黒どりはちょうどこの2つの間をいく感じ。脂肪が程よくのり、うまみもあって軟らかい。きめ細かくシルキーな身質は、万人向きの味と言えるでしょう」。それらの特質を生かしつつ、その日の入荷状況を鑑みて串を打っているそうだ。炭は紀州備長炭。塩はゲランドの塩と細部にも抜かりはない。