【噂の新店】新楽記
本場の香港の「焼味」とヴァン・ナチュールが味わえるとフーディーを虜にした「楽記」。惜しまれつつ閉店しましたが、その味を引き継いだ「新楽記」が四谷にオープン! あの味を求める人、香港料理好きな人たちで連日賑わいを見せています。
扉を開ければ香港へトリップ!

外苑前にあった「楽記」を覚えているでしょうか。ヴァン・ナチュールの立役者、故・勝山晋作さんと年間100日以上滞在していた香港通のカメラマンであり茶人の菊地和男さんが「焼味(シウメイ)」と呼ばれる広東式焼烤(肉のロースト)とヴァン・ナチュールという未知なる美味を作り、一世を風靡した伝説の店です。オーナーの勝山さんが他界されやむなく閉店してから4年半を経て今年1月、菊地さんが「新楽記」として復活させました。それを聞いて心躍ったフーディーがどれだけいたことでしょう。

「新楽記」ももちろん「焼味」をはじめとする香港料理をワインで楽しむスタイル。紹興酒は置きません!と潔い。香港で毎日食べる家庭料理や屋台料理から、特別な日に食べる高級料理や宮廷料理まで食べ尽くした菊地さん選りすぐりの料理は3〜4人でシェアするのにちょうど良いボリュームなので、本場に倣いグループで訪れたいもの。

店内は八角や五香粉の香りが漂い、カウンターには調味料がずらりと並び、厨房の本場でもお馴染みの焼物を吊るした光景に、いやが上にも高揚してきます。東京にいながら香港気分を味わえるなんてうれしい限り。
定番から未知なる料理まで、香港のすべての美味がここにある!

野菜は千葉県でエスニック野菜を生産している「テラ・マードレ」と中国野菜を専門に作っている農家から採れたてを送ってもらっています。「テラ・マードレ」の野菜はとにかく力強い。特にパクチーの根っこは他に類を見ないおいしさで、素揚げすると甘くてホクホクしてパクチーが苦手という人でもおかわりしたくなるほど。ナンプラーで香りをつけたドレッシングも美味。

看板メニューは香港製の明炉(中国のオーブン)で豚や鶏を焼いて吊るしておく「焼物」です。おいしくするコツは「火加減」と「下味をつける時間」だそうですが、食材や肉の厚さ、使うタレによってベストを見極めるのは至難の業。「例えば『クリスピーポーク』は皮目に塩を揉み込み水分を出してから乾燥させて一晩寝かせます。翌日、300℃の強い火力で一気に焼き上げてカリカリにするのですが、個体によって匙加減が違うのでそこは感覚です」と、焼き手の技術と経験でクオリティーが約束されます。

「焼豚」も「ローストダック」も麦芽糖、黒糖、蜂蜜などをブレンドした水飴をかけてパリッと焼き上げた皮の後から、追いかけるようにしっとりとジューシーな身が口中をいっぱいにします。甘みといい香りといい仕上がりに申し分なし! 仕込みに時間がかかる「焼味」は“売切御免”のメニュー。予約時にオーダーすることをおすすめします。

こちらは日本ではあまり馴染みのない豚の肺を使った古典的な広東料理です。豚の肺と聞くと驚いてしまうかもしれませんが、湯通ししてしっかりとにおいを取った豚の肺を「南杏」と「北杏」(※)と一緒に3〜4時間蒸してミキサーでなめらかにしたスープは甘い杏仁の香りで、口にするとさっぱりとした塩味というギャップがクセになる一品です。豚の肺はフワフワで、クタクタになった広東白菜の食感もたまりません。このような今まで出会えなかった美味なる香港料理を味わえるのが最大の魅力です。
※「南杏」と「北杏」:杏の種の中にある種の中にある核の部分の事。中国の北方で取れる物を北杏、中国の南方で取れる物を南杏と言う。
よき時代の香港食文化を体験!

厨房を守る阿部 司さんは「聘珍樓」「赤坂璃宮」などで20年、清瀬広晃さんは「ジャスミン中目黒」などで11年、中国料理一筋で腕を磨いてきました。「調味料は現地から取り寄せています。やはり日本のものとは一味違うんです」と本場の味にこだわります。

「焼味」や「咸魚蒸肉餅」などの定番料理もさることながら、四季折々の名物料理があるのもうれしい。ぜひオーダーしたいのが「ハタの蒸し物(時価)」です。長崎港から朝5時に出荷し、午後に店に到着した新鮮なハタを蒸し、白髪葱と生姜をのせ甘辛いタレで味を付け、仕上げに高温に熱した胡麻油をかける香港名物料理は2日前に予約必須。香港ではタレを白飯にかけるのですが、これが実にうまい! 牛スネ肉や豚タンを「滷水」で炊いた煮込み料理も他ではなかなかお目にかかれない逸品です。

まずは「焼味」を食べながら名物料理を数品選びワインと共に味わう。お腹に余裕があれば定番料理から炒飯や麺をオーダーする、こんな感じがこちらの一番の楽しみ方。メニュー選びはぜひスタッフに相談を。料理の組み立てだけでなくボリュームの調整もしてくれます。西洋と中国が融合したよき時代の香港の食文化を体験できるこちら、来店するなら焼物がずらりと吊るされている早い時間がおすすめです。
食べログマガジンで紹介したお店を動画で配信中!
https://www.instagram.com/tabelog/
文:高橋綾子 写真:菊地和男
※価格は全て税込