TOKYO トレンドスイーツVol.4:ヴェリーヌ
「スイーツ百名店 TOKYO 2018」の中から毎月一度、お菓子の歴史研究家である猫井登先生に、今のトレンドを反映したお菓子を解説&紹介していただくこの連載。第4回は、夏にぴったりな涼しげスイーツ「ヴェリーヌ」を紹介します。
編集(以下、編):ジメジメして蒸し暑い日が続きますが、スイーツのラインナップに変化はありますか?
猫井(以下、猫):そうですね。多くの店で「ヴェリーヌ」を見かけるようになりましたね。
編:ヴェリーヌってどんなスイーツですか?
猫:透明なガラスやプラスチック容器に入ったカップ型のお菓子のことですね。イメージしにくければ、とりあえず、プリンとかゼリーを思い浮かべていただければわかりやすいかと…。
編:なるほど! イメージできました。透明な容器に入っていると涼し気な感じがしますよね。「ヴェリーヌ」って、フランス語ですか?
猫:そうですね。元々ヴェリーヌ(verrine)は、フランス語で「船のランタン」「温度計用のチューブ」「保存瓶」といった意味を持つ語のようですが、いわゆるグラスデザートとしての「ヴェリーヌ」の語源については、 Verre(グラス)+Terrine(テリーヌ)という説、 Verre+小さなものを示す語尾(ine)=「小さなグラス」を意味するという説があります。
編:いつ頃から、あるんでしょうか?
猫:はっきりと答えるのが難しい質問ですね。トレンドの発端を作ったのは、フランスのパティシエ、フィリップ・コンティチーニ氏だといわれていますが、一般に広がったのは、フランスよりも日本の方が早く、2002年頃には見られました。
編:フランスで作られたのに、なぜ日本の方が早く一般化したのでしょうか?
猫:日本では、昭和の時代からカップ型のプリンやカップ容器にスポンジやクリームを入れたお菓子があって、抵抗が少なかったからと思われますが、ある意味、日本の方がフランスよりも早くヴェリーヌの原型を作り出していたともいえるかもしれません。
編:スイーツ素人からすると、単にケーキのパーツをグラスに入れただけのような気もするんですけど……。
猫:あはは〜。それはそのとおりです。別に世紀の大発明というわけではありません。でも、ケーキ屋さんにとっては、ある意味救世主だったし、パティシエの創作意欲を大いに刺激するものだったわけです。
編:どういうことですか?
猫:夏場は、甘ったるいものは敬遠されがちなので、どうしてもケーキ屋さんは売上が落ちるわけです。その中で、涼し気で爽やかな外見を持つヴェリーヌは、売上アップに寄与してくれる救世主となってくれたわけです。
これに加えてヴェリーヌというのは、グラスに入れることから崩れやすい素材でも層に積み上げることができて、さまざまな「断層の美」を作り出すことができるわけです。また伝統的なお菓子でもグラスというものを使うことにより、新たなかたちに作り替えることも可能となります。
こういったことがパティシエの創作意欲を刺激するわけです。さらに言えば、気温が高い時期は、生菓子をお客様が持ち帰る際、崩れやすくなり、ケーキ屋さんとしては気をつかうわけですが、グラスに入っていれば、崩壊のリスクも軽減されます。
編:ヴェリーヌって、凄い! 早速買いに行きたいのですが、素敵なヴェリーヌを売っているお店を教えてください!
猫:それでは、とっておきの2店を紹介しましょう。ただ、注意していただきたいのは、ヴェリーヌというのは、基本的に季節限定商品で、時季により、場合によっては日によっても変わってくるもので、ライナップがかなり変化します。販売状況については、事前にお店に問い合わせることが必須ですよ!
ロートンヌ 秋津本店
「サバラン」写真:ロートンヌ公式サイトより
「仁 -JIN-(ブランマンジェ)」写真:ロートンヌ公式サイトより
「いちごのティラミス」写真:ロートンヌ公式サイトより
こちらの神田シェフは、「上質なスイーツは『一瞬のアート』」と捉える。食べた瞬間、カタチは消えてしまうのに、食べたその一瞬の感動は、一生残っている。味はもちろん、その形状の美しさ、その時感じた香りや音、食感まですべてが記憶に刻まれるからだ。そんなシェフが季節感を大切にして作り出すヴェリーヌも素晴らしい。伝統菓子「サバラン」もヴェリーヌ仕立てに!
ジャン=ポール・エヴァン 伊勢丹新宿本店
「ヴェリーヌ マスカルポーネ カフェ」756円(税込)
「ヴェリーヌ ショコラ トラント」780円(税込)
「ヴェリーヌ ショコラ アブリコ」780円(税込)
ショコラティエとして有名なジャン=ポール・エヴァン氏は、1986年にフランスでMOF(フランス国家最優秀職人章)を受章されたフランスでも有数の実力派パティシエ。毎年、色々な種類のヴェリーヌをラインナップ!
文:猫井登