森山氏のおすすめ4軒とは

入社以来「アピシウス」一筋の森山氏。勉強のために行く店はたくさんあるそうですが、今回紹介するのは同郷、同僚でつながりのある4軒。料理のおいしさは言わずもがな、おもてなしの真髄は何かを知るシェフの人柄に心もお腹も癒やされると話します。

おすすめ①「モナリザ」

完璧なるフランス料理の技法で革新的な皿を提供し、25年以上もの間、日本のフランス料理界を牽引し続けている「モナリザ」。オーナーシェフの河野透氏は同じ宮崎県出身とあって、森山氏は修業時代から上京した際に店に訪れており「アピシウス」に勤務してからはプライベートで食事に行くようになったそう。恵比寿店も丸の内店もお気に入りで、河野氏の世界観あふれる皿にいつも刺激を受けていると話します。

らっしーK
モナリザ 恵比寿店   出典:らっしーKさん

1997年にオープンした恵比寿店は手入れの行き届いた薔薇が咲き誇る庭が出迎えてくれます。本格的なフランス料理を笑顔で楽しんでもらいたいと、フランス「ギィ・サヴォワ」、スイス「ジラルデ」などの名店で修業し、日本の「タイユバン・ロブション」初代シェフに就いた河野透氏が、ランチコース8,228円〜、ディナーコース10,043円〜とリーズナブルな価格で提供しています。
一方の丸の内店は2002年にオープン。こちらは丸ビル36階に位置し、メインダイニングへ入ると目の前に広がる皇居や副都心の絶景パノラマに高揚します。両店ともに料理を彩る器は河野氏デザインのオリジナル。料理の美しさと相まって、さながら芸術作品のような皿がアミューズからデセールまで展開します。

丸の内店からの景色
丸の内店からの景色   写真:お店から

森山氏が一番印象に残っている皿はスペシャリテでもある「牛ロース肉のグリエ 香味野菜のダミエをのせて」だそう。グリルした牛ロースの上にトマトフォンデュをのせ、その上に菱形にカットしたトマト、イエローパプリカ、ズッキーニ、ナスをダミエ状に並べ、じゃがいものピューレで周りを飾り、ジュ・ド・ブッフをかけて仕上げたカラフルな皿は伝統を土台に革新に挑戦し、あらゆる美意識をもって完成された、まさに“芸術”です。

料理(丸の内店)
料理(丸の内店)   写真:お店から

「特に丸の内店は景観や色とりどりの器など、うちの店にはないものにあふれていてワクワクします。絵や柄のある色皿の盛り付けはソースや食材の色を考えなければならないので難しいのですが、河野シェフはいとも簡単に仕上げてしまう。大先輩とはいえ同じ料理人として羨ましく思うほど見事で、いつも勉強させていただいています」(森山氏)

おすすめ②「かさね」

赤坂にある「かさね」も店主が同郷ということで行きはじめたそう。全国から選りすぐった旬の食材で作る料理とこだわりの日本酒に、週に数日通う常連客がいるほど。知る人ぞ知る名店です。

店内
店内   写真:お店から

店主の柏田幸二郎氏は料理人になってから44年、独立し「かさね」を開業して27年という大ベテラン。それだけに、料理もさることながら、店主の人柄も人を引きつけ、人気を後押ししています。白木の一枚板を挟んで交わす会話や、心温まるもてなしに客足が途絶えることがありません。季節を感じてほしいと玄関や床の間、カウンターにも四季折々の緑や花が飾られ、心地よい時を約束してくれます。

鮮度抜群の無農薬野菜を使用
鮮度抜群の無農薬野菜を使用   写真:お店から

全国各地から旬の食材を仕入れていますが、とりわけ出身の宮崎から届く無農薬野菜は使用する分だけを収穫するので鮮度抜群。それらを匠の日本料理の技術で時には洋風にアレンジしたりと、目で舌で楽しませます。森山さんの推しは言わずと知れた宮崎県の郷土料理の「冷や汁」。元々は朝早く田畑に出かける農家の人が残りご飯に、すったいりこを加えた味噌と水を混ぜてかきこんで食べる簡単な料理。今でこそ鯵やカマス、豆腐、すりごまなどさまざまな具が入るようになりましたが、あくまでも家庭料理。それを柏田氏は牡蠣を焼いて潰して作った焼味噌を使い、冬には河豚を入れるなど選び抜かれた食材で高級日本料理へと導きます。

「冷や汁」 出典:ゆびちゃん117さん

「〆の『冷や汁』が最高においしくて、どうしても食べたくなると駆け込みます(笑)。大将にしかできない食材の組み合わせ方や盛り付けにいつも驚かされますね。こちらでは日本酒をいただくのですが徳利からお酒を注ぐと『ピー』という鶯の鳴き声がするんです。鯛をモチーフにしたお皿を使っていたり、うちの店では絶対に使わないので、そういう楽しみもあります。でもこちらに来るのは大将と女将さんに会いたいからですね。何というか、ホッとするんです。相手を思いやる心が料理にも空間にも表れていて本当に心が和みます」(森山氏)

おすすめ③「レストラン レザルデ」

2024年6月にオープンした「レストラン レザルデ」。シェフの永田宏氏とは宮崎県人会で出会ってから親しくしているそう。コロナ禍でオープンするまでに4年費やし、その苦労を見ていただけにレセプションパーティーでは感極まったと話す森山氏の今“イチオシ”のレストランです。

parisjunko
店内   出典:parisjunkoさん

フランス語で「日向ぼっこ」という意味の店名そのままの雰囲気に自然と人々が集まります。永田氏は横浜、福井のレストランで修業し渡仏。帰国後は銀座「アルバス」で料理長を12年間務め独立しました。開店準備期間中に専業主夫で育児に専念していたこともあり、日曜日は小さな子どももOKのファミリーデーに。周りを気にすることなく家族でフランス料理が食べられると評判です。

kazutakupapa
料理   出典:kazutakupapaさん

メニューはコース(8,800円、12,000円)とアラカルトが選べ、ガストロノミーの技術で繊細に仕上げた、前菜や炭火で焼いた塊肉が人気です。魅力は自ら南九州の生産者を訪ね歩いて仕入れたこだわり抜いた食材。市場に出回ることが少ない「八崎牛」や「都萬牛」が手に入るのは生産者との強い信頼関係があればこそ。しかし永田氏は食材のポテンシャルに頼るだけでなく梅干しや牛醤など調味料も手作りし、フランス料理人歴24年の卓越した技巧で体に優しい美味なるフランス料理に仕立て上げるのです。

港区グルメ散歩OL
生産者一覧が載ったカード   出典:港区グルメ散歩OLさん

「料理に使う食材はすべて永田シェフの目利きによるものです。どんな育ち方をしたのか実際に目で見て舌で味わう、だから食材への思い入れがより強く、自分の理想とする皿に仕上げることができるのです。私はフランス産の食材も多く扱っているのですべての生産者を訪れることができないから、ちょっと羨ましくもあります。21時からバータイムも設けていて『自家製のソーセージ』800円や『トントロテリーヌ』1,400円とワインでゆっくりシェフと話をするのも楽しい!」(森山氏)

おすすめ④「ソリレス」

「ソリレス」は長野県上田市街地を一望できる小高い丘にひっそり佇むレストラン。夫婦で営むアットホームな雰囲気ながら本格的なフランス料理を提供し、普段使いからハレの日使いまで利用できると評判の店です。森山氏が「アピシウス」で苦楽を共にした心友の店だそうです。

がえたのこんぷり
高台の住宅街ある   出典:がえたのこんぷりさん

上田駅から1.5kmほどの坂を上った高台の住宅街に「ソリレス」はあります。店に入ると目に飛び込んでくるのは全面ガラス張りの大きな窓からの眺望。昼、夕方、夜とそれぞれ美しい一枚の絵画のような景色とマダムの細やかなサービス、そして一流店で経験を重ねたシェフだからできる信州の食材をふんだんに使った気負いのない料理に、地元だけでなく県外からも多くの人が訪れます。

一流ホテルや「アピシウス」で研鑽を積んだシェフの遠藤広樹氏が長野県上田市に移住し、信州食材のクオリティに心底惚れ込んで作るのは“ワインが飲みたくなるような料理”。カジュアルなビストロ料理から本格的なフランス料理まで、どんなニーズにも応えてくれ、食べた人みんなを笑顔にします。

Foodie’s log
ワインが飲みたくなる料理   出典:Foodie’s logさん

「私より後に入店した遠藤シェフとは仕事終わりや休みの日にいつも一緒に食事や飲みに行っていました。今でも試飲会などで東京にいらっしゃる時には朝イチで店に寄っていただいたり、長野の野菜を送っていただいたり……、あれだけ時間を共にしたから仕事を離れても変わらず付き合える、本当に大切な存在です。『信州サーモン』『ジャンボン・ド・ヒメキの太郎ポーク』や野菜、果物、これこそテロワールだなと思います」(森山氏)

※価格はすべて税込です。

文:高橋綾子、食べログマガジン編集部