3年先までスケジュールが埋まっているという超多忙なミュージカルスターたち。やり直しも修正もできない舞台上を活動の主軸とする彼らにとって、体調管理は当たり前。節制だって当たり前。
でも「もし何も気にせずに食べられるなら、何を食べたいんだろう……」という疑問からスタートした本企画。
お越しいただいたゲストは井上芳雄さん。リクエストされたお店は、六本木の「S’ACCAPAU」です。
―――「夢はお姫様。いつか王子様と出会って、ふたりきり、大豪邸で優雅に楽しく暮らすの」
あまたの童話に洗脳され、女の子は誰しも幼少期にこんな未来を夢見てしまいます。でも、大人になってから振り返ってみると、突っ込みどころ満載だったりしませんか。
「お嬢様ですらないのにお姫様? 大きく出たね。」とか「2人きりは本当に飽きるよ。」とか。
あとあと、「(日本に)王子様なんているわけない。」とか。
でも、3つ目だけ例外でした。 (結ばれる訳ではないけれど)
日本にもプリンスがいたんです! それがミュージカルスターの井上芳雄さん。
「清廉潔白ってこと? それだけじゃ物足りないかも。」と思った現代の欲張りプリンセスの皆さま。安心してください。このプリンス、ちょっと辛口です。いや、かなり……。(このギャップ堪らないでしょ! よだれが垂れちゃうでしょ!)
そんな王子の魅力を前編・後編に分けてお届けしたいと思います。
前編のテーマは……。
「ブラックジョークと現代プリンス」
美味しい仕事は迷わず自慢
井上芳雄(いのうえ よしお) 1979年福岡県生まれ。俳優。東京藝術大学音楽部声楽科卒業。大学在学中にも関わらずミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役で異例のデビューを果たす。以降、その実力が認められ、これまで数々の賞を総なめにしてきた。現在は、ミュージカルや舞台を中心に、ドラマ、CM、バラエティーなど幅広く活躍。
編集部、以下・編 経歴が超絶エリートですが……。
井上芳雄、以下・井 そうなんです。有難うございます(笑)。
編 謙遜しないところが素晴らしい! バラエティーどおりのイメージでうれしいです。
井 こんな美味しい仕事をもらえるなんて、テレビには出るものですね。
編 美味しい仕事って言っちゃうところが素敵。さて、今回「S’ACCAPAU」を選ばれた理由は?
井 最初は「ただで食べられるなら高いお店に行かなきゃ損だな。」って考えたんですけど(笑)。
編 王子、さすがです。
井 でも、記事を読んでくださった方たちが行きにくいお店じゃ意味がないかなって。僕自身も高級なお店は行かないし。自分のお金では(笑)。
そこでグルメな友人に相談したら「S’ACCAPAUがお薦め」と教えてくれたので、リクエストしました。ワイン好きなので、イタリアンは結構行きます。
編 グルメな友人、お目が高いですね。こちらのお店は去年オープンしたばかりなのですが、既に話題沸騰中のようです。
井 お店への期待値が高すぎて、朝ごはんを抜いてきました。
編 もう15時ですよ!?(撮影当日の時間) 本気度をビシビシ感じます。
井 撮影の前、ミュージカル俳優仲間と対談のお仕事だったんですが、しっかり自慢してきました。
編 (テレビよりさらにSだなぁ……)。
王子、空瓶に埋もれる
編 先ほどワインがお好きとおっしゃっていましたが……。
井 はい、自宅にワインセラーを置いているほど。そこからその日の気分や料理に合わせたワインをチョイスして、くつろぎながら飲むのが至福の時です。
編 お酒が好きな人の飲み方ですね。昔からワイン派ですか?
井 いや、割と最近かな。なので、マネージャーがワインに精通しているんですが、自分がハマる前は「なんでだろう」と思っていることがありました。
編 たとえば?
井 ワイン通の人と飲んでいる時にやたらとウンチクを語られると、「どうしてワインを飲みながらワインの話をしたがるのかな?」と不思議に思っていました。
だってワインを知らない人にとっては、あんなに面白くない話はないでしょ(笑)。いまは、自分がまさにそうなっているので何とも言えないですが……。
編 そうかもしれません(笑)。ワインだけを淡々と飲めるタイプですか?
井 いえ、何か食べながらじゃないと飲めないタイプなので、お酒に合わせて料理を変えています。そうすると、知らないうちにお酒が進んでしまって、ゴミの収集日にワインの空瓶が多過ぎて恥ずかしいことに。
それぐらい毎晩飲んでいます(笑)。
編 節制しているイメージがあったので、すごく意外です! 酔っ払うことってありますか?
井 最近は少なくなりましたが、若い頃はよく酔っ払っていましたね。お酒のペースやキャパシティーなんか考えずに、勢いとノリで飲むのがイケてると思っていたやんちゃな時代です。
先ほどソムリエの方に、酔っ払いのロジックを教わって驚きました。いろんな種類のお酒を混ぜて飲むから酔っ払うと思っていたのですが、真の原因は違う種類のお酒を飲むと気分転換になって自然と酒量が増えることだと。
編 ちゃんぽんには要注意ですね。
マーライオン芳雄
編 酔っ払うとどうなります?
井 普段は言っちゃいけないタブーなことを言いがちかもしれません。例えば、同業者(ミュージカル俳優)の悪口とか。あと、同業者の悪口とか。他にも同業者の悪口とか(笑)。
<一同爆笑>
昔は、二日酔いがひどく、ガラガラ声のまま舞台に立ってしまった時もありました。王子様役にもかかわらず……本当にひどいですよね。
編 ファンの方にとってはある意味貴重な舞台かも。
井 あと、一時期、隣に座っている人に向かってビールを「プーッ」と吹き掛けるという、イタズラ、いや悪行にはまっている時もありました(笑)。シンガポールのマーライオンみたいに。
さらにタチの悪い僕は、「もしかしたら周りの人は喜んでいるんじゃないか?」って、大きな勘違いをしていたんですよね。
編 ガキ大将のような。
井 下ろしたての高いコートをダメにしたりしていたらしいです。ある日、マネージャーに本気で怒られて「あ、ダメなんだ。」とやっと気付きました(笑)。
編 更生したわけですか。
井 その後はピタッとやめました。
ただ、一度舞台で酔っ払っているシーンを演じることがあって、この得意技のマーライオン・ビールをアドリブでやってみたことがあるんです。思いっ切り吹き掛けてみると、「ドッ」と観客席のお客さんが盛り上がってめちゃくちゃウケた経験もあります。
どうしようもない失敗や経験も無駄ではなく、すべて「芸の肥やし」になることがわかりました。
編 ポジティブ。
カメレオン王子
編 井上さんが一番“キリッ”とする瞬間は?
井 公演前に30分ほどトークショーをする時があるのですが、その時は集中力を高く保ち、誰かがボケないか突っ込むタイミングをずっと見計らっています。
なので、人の揚げ足を取る瞬間が一番「キリッ」としているかもしれません。なんせ人の揚げ足を取るのが得意なんです(笑)。
編 確かに「ぼー」っとしてたら取れない。
井 そう、むしろ取られちゃうので。ミュージカルだけでなく、トークのスキルやセンスも磨いて、ファンの皆さんにより公演を楽しんでいただきたいです。
編 努力の範囲が広い……。
井 バラエティー番組に出演させていただく機会が増えて、収録中のタレントさんや芸人さんの軽快で巧妙なトークを間近で勉強できるようになりました。あまりにも本音をさらけ出し過ぎて「ブラック王子」なんていう別名もできちゃったようですが(笑)。
ただ、ネガティブな情報は言わないように心掛けています。自分が言われて嫌なことは言いません。トークショーでは、ブラックユーモアも大切にしますが、稽古はいつも真剣勝負。プロフェッショナルらしく振る舞います。
そういう意味では僕ひとりの中にもいろんなタイプの自分がいて、目的やシチュエーションによって使い分ける“カメレオン”なのかもしれません。
“ジェラシー”より“リテラシー”
編 バラエティー番組などで同年代のミュージカル男優に対する「嫉妬」っぽい発言をされていますが、人のことをうらやむタイプですか?
井 いえ、その場を盛り上げるためのリップサービスの面が強く、実際は人のことをあまりうらやんだりしません。
サービス精神、エネルギー、愛嬌……など個人が持つ長所や特性として部分的にリスペクトすることはありますけど。
編 「この人になりたいとかはない」と。
井 偉そうな話に聞こえてしまうかもしれませんが、あえて意識的にやっていることでもあるんです。
“ジェラシー”のような本能的でちっぽけな感情を、理性的に理解・解釈・分析して、むしろ自分のエネルギーとして活用できるような正しい「リテラシー」を持つ。その方が自分にとってためになると思うから。
クリエーティブなリストランテ!?
2016年6月に西麻布にオープンしたばかりの「S’ACCAPAU」。地下1階にあるお店の扉を開ければ、気分が高揚する。海外へトリップしたのかと錯覚するほど、既視感のない空間なのだ。
テーブルや個室もあるが、一番人気は今回井上さんに座ってもらったカウンター。テーブルには引き出しがあり、フォークやナイフ、スプーンがセットされている。席に座った瞬間からコースはスタートしているということを念頭に置いておこう。
何度も感嘆の声を上げてしまう料理たちについては次回ご紹介。
後編のテーマは?
ブラック王子と表現しましたが、撮影現場での振る舞いは礼儀正しく低姿勢、どんな所作も美しい……。と、まさにプリンスそのものでした。
後編では「ミュージカルスターの食生活」に迫ります。滅多に見られない!? 貴重な井上さんのお食事写真にも注目です。
■スーツ 49,000円、ベスト 15,000円、シャツ 30,000円、ネクタイ 16,000円/すべてTOMORROWLAND その他/スタイリスト私物
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写真/宮崎健太郎 @REP ONE、スタイリング/吉田ナオキ、ヘアメイク/川端富生