【第3週のカレーとスパイス】名古屋特別編「デリー プラナーリ 名古屋」「カレーと民藝と酒 TeTe」

東京と大阪の中間地点である名古屋。東名阪という言葉もあるものの、カレーに関しては東京や大阪と比べると店舗数も話題店も少なく、札幌や福岡と比べても出遅れている印象があったのですが、ここのところ名古屋エリアでもレベルの高いお店、注目すべき新店舗が増えてきているというのは今年1月にもお知らせしました。

その後さらに話題のお店が生まれているのですが、今回は2024年4月にオープンした、名古屋の新店を2店舗ご紹介いたしましょう。

「デリー プラナーリ 名古屋」

最初にご紹介するのは、4月23日に栄の中日ビル地下飲食店街「栄めし小路」内にオープンした「デリープラナーリ名古屋」。

こちらは店名の通り「デリー」の姉妹店。デリーと言えば1956年創業の東京・湯島に本店を構える、日本のカレーの歴史において外すことのできない老舗の名店です。直営店は東京にしか無く、のれん分けのお店は北海道や富山にもあるものの、名古屋での店舗は期間限定の催事営業を除けば初で、こちらはフランチャイズ店となるそうです。

「八丁味噌コルマカレーのタンドーリチキンセット」

デリーの看板メニューと言えば激辛のカシミールカレーですが、僕の一押しは玉ねぎのうまみが存分に味わえるコルマカレー。そしてこちらデリープラナーリには、名古屋限定メニューとして八丁味噌コルマカレーもあるとなればこれを頼まないわけにはいかないでしょう。「八丁味噌コルマカレーのタンドーリチキンセット」1,580円を注文。サラダとドリンクもついてこの価格はお得です。

ジューシーなタンドーリチキン

タンドーリチキンはご飯の上にのる形。ヨーグルトとスパイスで味つけされたジューシーなチキンは食べごたえあるトッピング。

八丁味噌を使用したコルマカレーには長ネギをトッピング

メインの八丁味噌コルマは大きくカットされた豚肉がゴロゴロと入り、デリーのコルマらしい玉ねぎのうまみと八丁味噌の奥深いコクと甘みがスパイスによって見事に調和した逸品。長ネギがあしらわれているのですが、見た目的にも味的にも意味を感じる薬味となっています。

カレーをご飯にかければ、一気に食欲の湧き立つビジュアルに

ちなみにこの八丁味噌コルマはデリーの取締役が名古屋店のためにレシピ開発したそうで、当初はもっと辛い仕上がりだったのが、多くの方に食べてもらうために辛さを抑えた現在の形に着地したとのこと。名古屋ならではの味に大満足でした。そして今後各地にデリーが広がり、その土地らしさのある限定メニューが増えていったら楽しいだろうなという夢も広がります。卓上には定番の玉ねぎアチャールときゅうりのピクルス。すべてのせて一気にかきこめば、それは至福の時間。ドリンクにもサラダにも手抜きがなく、流石のクオリティでした。

サラダ

場所が栄めし小路の中の少々奥まった場所にあり、わかりにくいこともあってか、時間によっては並ばずに食べられる穴場デリーです。

「カレーと民藝と酒 TeTe」

続いてご紹介するのは千種区高見にて4月3日にオープンした「カレーと民藝と酒 TeTe」。こちらはビルの屋上で間借りカレー店として営業していたお店が好評となり、同じビルの3階に独立店舗としてオープンした形。4階の「カサブランカ」と姉妹店のため、店舗の一部はギャラリーやイベントスペースとして3階と4階と合わせて展開しているそうです。

民藝とは手仕事によって生み出された日常づかいの雑器。インドの食器をはじめ、世界各国の雑貨が購入できるのも楽しいです。

「ラムチャイ」
「茄子のアチャール」

店名に酒も入るのでまずは「ラムチャイ」600円を注文し「茄子のアチャール」300円をアテに。ラムチャイはラムと紅茶とスパイスの香りの三位一体。心落ち着くような甘みで身体の芯から温まります。茄子のアチャールも程よい酸味とスパイス感。

「2種プレート」

メインは「2種プレート」1,300円。この日のカレーはレモンチキンとチャナマサラ。レモンチキンは爽やかで軽やかなテイストが印象的。チャナマサラは基本的に北インド料理で濃厚なテイストなのですが、こちらのチャナマサラは実にさっぱりとしていて南インドを感じました。聞いてみるとシェフは南インド料理の名店「エリックサウス」の名古屋店に長年勤めていたそうで納得。ご自身も全国的にカレーの食べ歩きをしているそうで、だからこそのオリジナリティも感じるおいしさに仕上がっていました。

チャナマサラ(写真左)とレモンチキン(写真右)

店内の雰囲気がとても良く、女性客が多かったのも印象的。シェフは「人から人へ伝えていく手仕事の温もりを感じていただけるような空間を目指していきたい」と語ってくれましたが、まさにそんな空間。

天気の良い日は屋上でゆったりとカレータイムを

天気の良い日は今も屋上で食べることもできるそうで、他に無いカレータイムを楽しめるお店です。

【第4週のカレーとスパイス】間借り出身の人気店が心機一転! 学芸大学にインド・ゴア地方の料理がベースのカレー店がオープン「表面張力」

2024年4月20日にオープンした「表面張力」

2024年4月20日に目黒区鷹番の地にオープンした「表面張力」。何とも興味深い店名ですが、インド南西部のゴア地方の料理をベースとしつつも独自に表現したカレーを中心としたスパイス料理のお店であり、元々は下高井戸で間借りカレー店としてスタートし、東池袋の公園内に移転した「プラマーナスパイス」が名を変えて現在の地に移転、再スタートを切ったという形になります。

音響設備も充実の店内

開放感ある雰囲気でカウンターメインの店内にはレトロで趣のある音響設備もあり、BGMにもこだわりを感じる空間。

「イワシのオイルマリネ」

まずは前菜として「イワシのオイルマリネ」480円を。文字通りのシンプルな料理ですが、だからこそお店の個性や主義を感じるものとなっていました。塩気は控えめに、素材の味を感じさせる引き算の味付け。青唐辛子の爽やかな辛さが意外性も感じさせて、前菜から楽しいです。

前菜風な一皿

また、こちらとは別にカレーにはそれぞれ前菜盛り合わせ的な一皿がつく形。この日は茄子のアチャール(スパイス漬物)、じゃがいものサブジ(スパイス炒め煮)、ししとうのパコラ(インドの天ぷら的な料理)の3種。やはりこちらもそれぞれ絶妙な引き算の味付けだからこそ、この後に待ち構えるメインのカレーへの期待度がさらに高まるという仕上がり。

メインのカレーは基本的に3種類で、ポークシャクティカレー、旬の魚のカレー、チキンビンダルー(それぞれ前菜付き1,760円)。ゴアの三大名物料理と言えば、ポークビンダルー、チキンシャクティ、フィッシュカレーと言えますが、ポークとチキンを入れ替えてあるのが面白いです。

「ポークシャクティカレー」

ポークシャクティはトマトの柔らかな酸味と程よいココナッツ感が印象的。スプーンでホロッと崩れる豚肉は、強くない味付けだからこそ豚本来のおいしさをダイレクトに感じます。

鯖を使用した「旬の魚のカレー」

旬の魚のカレー、この日は鯖でした。こちらはレモンの酸味が程よく、鯖の臭味はスパイスとレモンでマスキングされ、鯖のフワッとした食感と奥深いうまみがじわじわ広がってくる仕上がり。ご飯少なめで頼むとパコラをサービスしてくれる心遣いもうれしいです。

「チキンビンダルー」

チキンビンダルーはモルトビネガーとココナッツビネガーのミックスでやはり酸味が程よく、それぞれのカレーがベクトルの違う酸味を感じるのもとても楽しいです。

食後に「チャイ」460円でしめくくり。これがまた独特の風味を感じるもので、他にない仕上がりかつ個性あるおいしさのチャイ。チャイ好きならマストで頼むべき逸品でした。

店名の通りギリギリを攻めつつ破綻することない絶妙な味付けが印象的。さまざまなカレーを食べている人ほど楽しめる味ではないでしょうか。また、カレー初心者にとってもおしゃれな空間で他にないカレーを楽しめるということで行って損なし。

ちなみに店名の由来を聞いてみると「特に意味はないんです。語感が良くてみんなが知ってる言葉で、自然現象であるという3つから選びました」と実に自然体。センスを感じますし、その自然体のセンスが料理にも活きていると言えるでしょう。

ここのところ学芸大学駅エリアのカレー界隈も盛り上がりを見せてきています。こちらも要注目の新店舗ですよ。

※価格はすべて税込です。

撮影:カレーおじさん

文:カレーおじさん、食べログマガジン編集