いま肉好きの熱視線を最も集める肉といえば……羊肉。食べて損ナシの注目店はこの2つ

「羊サンライズ」のジンギスカン

 

ジンギスカンにラムしゃぶ。東京都内を中心に、ここ数年で羊肉専門店が続々とオープンしていることは、肉ラバーならお気づきだろう。その独特の風味や赤身肉の締まった食感はもちろん、脂肪燃焼の効果があるといわれるL-カルニチンが豊富などの理由から、ヘルシーな食材として女性からの注目度も上昇中なのだ。

 

そんなブーム到来中の羊肉を、これまでに数々食し、羊肉好きを公言するフードライター・森脇慶子氏に、新・旧それぞれを代表する羊肉専門店を厳選して教えてもらうこの企画。今回は、1年以内にオープンした2つの注目店を紹介したい。

一度食べたら必ずまた食べたくなる!羊に恋した料理人が腕を振るう「羊サンライズ」

羊に恋した料理人。それが、「羊サンライズ」オーナーの関澤波留人さんだ。20歳の時、生まれて初めて口にしたジンギスカンのマトン。それが、彼の運命を変えた。

 

「初体験は、地元茨城の土浦に、当時できたばかりのジンギスカン料理店。今から思えば、従来の臭くて硬いマトンだったのかもしれませんが、僕にとっては、それまで味わったことのない衝撃的な味わいでした。単純に、肉として旨いと思ったのです」と関澤さん。

 

一枚ずつ丁寧に捌かれる羊肉

 

以来、サラリーマンをしながら趣味でジンギスカン食べ歩きを続けること十数年。
30歳を過ぎた頃、ついに一念発起! 自らジンギスカンの店を手がけるべく、一番のお気に入りだった「札幌成吉思汗 しろくま」の門下に。ここで新橋店の店長まで務めた後、2016年11月、晴れて麻布十番に同店をオープンした。

 

羊サンライズの店内カウンター

 

「羊は、家畜歴の古い動物。食材としてだけでなく、その生態から歴史まで羊の全てが好き。生き物として魅力的なんです」。取材の初っ端から、この熱烈ラブコール!

 

日本では、食肉としての歴史も認知度もまだまだ低い羊肉。どうにかしてもっと世に広めたい––羊への迸る思いが、関澤さんの言葉の端々からうかがえる。

 

オープンに際して、北海道の大地を“羊飼い”(羊牧場の人たちを関澤さんはこう呼んでいる)を尋ねて車で縦断。「3,000km走って15軒の羊飼いの方々とお話できた」そうで、現在、お付き合いのある羊牧場は日本だけで13軒ほど。いずれも自ら現地まで足を運び、その目で放牧地を見、生産者と直に言葉を交わして、その想いに共鳴した羊牧場ばかりだ。だからこそ、大切な羊を余すところなく使い切る。そんな羊愛に満ちたメニューがまた楽しい。

 

最高の焼き加減で提供されるジンギスカン

 

国産の羊からオーストラリア産、更には去年解禁になったフランス産まで3ヶ国の羊を取り揃えているのは、おそらくここが日本初? 国産羊に至っては、ラム、ホゲット、マトンと月齢、牧場違いでラインアップ。それも、日々変わるマニアックさには、思わず身を乗り出さずにはいられない。

 

「北海道白糠産ホゲット14ヶ月齢 サフォーク×チェビオット(羊まるごと研究所)」2,800円。手前から時計回りにロース、バラ、腿

 

ちなみに、ラムは生後12ヶ月未満、ホゲットは12ヶ月〜24ヶ月未満、マトンは24ヶ月以上と羊肉は、月齢によって呼び方が変わり、当然、味わいも違ってくる。関澤さん曰く「ラムは肉質の柔らかさ、マトンは味の濃さ、そしてホゲットはそれらのいいとこ取り。ラムの肉質の柔らかさを兼ね備えながら、マトンの濃い味わいもあって旨いですよ。各々に持ち味があるので食べ比べてみるのも面白いと思いますよ」とのこと。

 

「オーストラリア産パスチャーフェッドラム」 1,680円。こちらはロースのみ。国産に比べ、草の風味が色濃くやや野生的

 

一方、オーストラリア産との食べ比べも一興。ここで扱うオーストラリア産仔羊は
、日本ではまだ珍しい“パスチャーフェッドラム”。パスチャーとは、イネ科、マメ科など一般的な牧草より栄養価の高い牧草のこと。これらを食べて育つ羊は健康そのもの。当然、その肉も柔らかく美味しくなるというわけだ。

 

「国産羊のホルモン」 1,800円。(左上から時計回りに)ハツ、ハラミ、タン、レバー。内臓は、希少ゆえある時とない時がある

 

いうまでもなく羊はすべてチルド。しかも、国産羊に至っては一頭買いしているそうで、店で捌くこともしばしば。当然、鮮度もバツグンだ。レバーやハツ、タンなどの内臓まで食べられるのも、一皿にバラや腿、ロースなどいろいろな部位を盛り合わせられるのも、一頭買いの恩恵。羊フリークなら、見逃せないところだろう。

 

肉に下味をつけず塩で食べるスタイルは、新鮮な羊ならではの風味をストレートに味わってほしいとの思いゆえ。甘さをグッと控えたオリジナルのタレも用意されているので、部位や品種によって食べ比べてみてもいいだろう。

 

首やスネなど、焼きに使えない部位を煮込んで作る「ひつじのカレー」700円は、程よくスパイスの効いたサラサラ系。思いの外さっぱりいただける(写真左)。「羊の塩煮込みスープ」900円(写真右)

 

ジンギスカンのほか、焼きに使えない部位を活用した「国産羊の炙りユッケ」1,800円や、モンゴルのシュウパウロウ(羊の塩茹で)をアレンジした「羊の塩煮込みスープ」900円、「ひつじのカレー」700円など野菜とごはん以外は、ほぼ羊尽くし。スタッフの心地よいサービスと共に羊をめぐる冒険を堪能したい。

ワイルドな羊肉料理を味わいたいなら「月下爐」

「羊肉餃子」680円に「羊の串焼」1本450円(注文は3本〜)、「羊肉と葱鉄板炒め」1,580円は、まだまだ序の口。「羊肉とナンのクミン炒め」1,580円から、「羊とフェンネル焼太麺」1,280円、「ひつじ肉スープ」780円に「羊肉香味チャーハン」1,380円などのマニアックなメニューまで、なんと10品以上の羊肉料理がずらりと揃う中国料理店「月下爐」。

 

「月下爐」の店内

 

去年の7月、牛込神楽坂にオープンした趣溢れる一軒家レストランだ。数ある羊メニューの中でも、同店ならではの逸品といえば、自家製煉瓦の窯で焼き上げる羊料理。炭火で焼けばこその、燻したような香りをまとった羊肉の味わいは実にワイルド。

 

「羊の串焼」1本450円(注文は3本〜)。(写真:月下爐)

 

また、羊の背肉がさそりに似ているところからその名がある「羊しゃぶしゃぶ蠍鍋」3,800円(一人前)も珍しい一品。羊の様々な部位をじっくり煮込んで旨味を引き出した出汁でいただく、今話題の鍋だ。

 

 

「羊しゃぶしゃぶ蠍鍋」 3,800円(一人前)

 

ちなみに羊しゃぶしゃぶ蠍鍋は、注文は2名からとなっている。「羊肉の窯焼き吊るし肉の鉄塔グリル」は1,980円。北京っ子の愛する庶民的な羊料理を是非味わって。

取材・文:森脇慶子
撮影:上田佳代子