微生物や植物がつなぐ食と農業の循環

まずは「水の循環」。「KURKKU FIELDS」内のレストランやベーカリーなど飲食店から出る下水は、敷地外に流すのではない。地下に設置された浄水層を通った後、バイオジオフィルターと呼ばれる水路で濾過(ろか)される。

きれいになった水は、ビオトープと呼ばれる小川や池などに集まる。「ビオトープでは、クレソンやマコモダケといった植物が、下水などの栄養分を吸収することで、さらに水が浄化され、魚が住めるくらいの水質に。ここにはメダカやドジョウ、アメンボやカエルなどが生息し、豊かな生態系が築かれているんですよ」と吉田さんはうれしそう。

水辺が生きものたちのすみかになり、プランクトン、虫、魚、鳥へと生態系はどんどん豊かに広がっていくのだ。

これがバイオジオフィルター。瓦のチップに棲みついた微生物が下水のなかにある有機物などを分解。植物が分解された栄養を吸うことで、水が浄化するという循環の仕組みが繰り広げられている

いっぽうで「土の循環」には、愉快な仲間たちが活躍。

ダイニングなどの外に設置したこの木箱は「ミミズコンポスト」。箱の中をのぞけば、落ち葉などに混じるのは、野菜の端っこなどの生ゴミ。「この中をミミズが動き回ることでフカフカになり、微生物が生ゴミを分解しやすくなるのです。数カ月後には、養分豊富な堆肥になるんですよ」とにこやかに話す吉田さん。「KURKKU FIELDS」では生ゴミだって貴重な資源になるのだ。

「ミミズコンポスト」。生ゴミなどの有機物を、ミミズと微生物の力を借りて分解。栄養価の高い堆肥(コンポスト)に変える
完成した堆肥がこちら。ミミズのフンには、作物の成長に関わる栄養素が多く含まれている

「堆肥といえば、これ何だと思います?」と吉田さんが案内してくれたのは、土のようなものが山積みになった建屋。

なんと、これらはすべて牛や鶏などのフンを発酵させた堆肥! 木のチップなどを混ぜ、空気を含ませながら放置すると70℃ぐらいまで熱くなる。この熱気こそしっかり発酵が進んでいる証拠!

堆肥舎には、牛や鶏のフンを発酵させた堆肥が山積みに

「場内で飼育している牛は40頭、鶏は1,000羽います。ミルクや卵などを恵んでくれると同時に、副産物として1日1tほどのフンを出します。それも、大切な資源なのです」と吉田さん。約半年かけて完熟した堆肥はフカフカで、フンの臭いは全くない。

つまり、生ごみや動物のフンも微生物の力で発酵・堆肥化させ、「KURKKU FIELDS」で実践する循環型農業に用いるのだ。土の栄養をしっかり蓄えて作られる有機野菜は、私たちを食の本質へと導き、おいしい感動を楽しませてくれる。

次に吉田さんが案内してくれたのは、そんな「農」の現場。

「KURKKU FIELDS」の農業部門「耕す」。農場長・伊藤雅史さんがオーガニックファームで育てるのは、化学肥料や農薬を使わず、環境への負担が少ない農法で作られる野菜や穀物だ。

「KURKKU FIELDS」の農業部門が「耕す」。土質の異なる畑で、四季を通して約30〜40種のオーガニック野菜を栽培する
農場長・伊藤雅史さん。「耕す」で作り上げるオーガニック野菜は、肉や魚にも負けないしっかりとした味わいが印象的

「自然の力を借りて浄化した水はもちろん、動物たちの排泄物やミミズコンポストから作り出された堆肥など、なんでも再利用することができます。本当に捨てるものが無いんです」と伊藤さん。ファーム内でのびのびと暮らす牛や鶏なども、畑にとっては大切なパートナーなのだ。

エディブルガーデンでは、ハーブや食用花が育ち、ハウスには春菊、赤軸ほうれん草が実る。これからの季節はトマトもお目見え。さらに、千葉・君津市の小糸川流域で守り育てられてきた、大豆の在来種「小糸在来」も栽培しているし、自家栽培の小麦は年間1t! もちろん畑で収穫される農作物の全ては、有機JAS認定取得済みだ。

これら大地の恵みはファーム内にあるベーカリーやレストランなどで日々使われ、「KURKKU FIELDS」にしかない味を生み出している。

人間が暮らすことで自然環境にマイナスの影響を与えるのではなく、人と自然が共生するためのサステナブル。そんな「KURKKU FIELDS」ならではの取り組みが、おいしい感動に繋がり、これからの食の豊かさとは何か?を私たちに気づかせてくれるのだ。

「KURKKU FIELDS」内にあるベーカリー「Lanka(ランカ)」。オーガニックファームで採れた小麦や野菜をふんだんに用いる。パンからあふれ出すのは、畑と生産者への思い。詳しくは後編で

文:船井香緒里 撮影:山田大輔