〈静岡グルメかくありき〉第3回

静岡の酒と肴をとことん味わうならSAKABAへ

旅先でおいしいものを食べたいなら、「地元の人でにぎわう店を訪れろ!」は鉄則。静岡グルメを巡るシリーズ3回目は、地元の人に愛されている隠れ家的酒場を2軒ご紹介。なぜ酒場?と思われるかもしれないが、実は静岡のおいしいものは、酒場に集結している。新鮮な海と山の幸やローカルフードを、地元ならではの食べ方で味わえ、その料理に合う静岡の水で作られた日本酒とのマリアージュも楽しめる。そして、明るくおっとりとした静岡の人々との触れ合いも、素敵な心のご馳走になるはずだ。

地元の酒ツウ&魚ツウに聞いた、行くべきSAKABAはこの2軒

静岡市にあまたあるSAKABA。“静岡ビギナー”が訪れるべき店はどこか。地酒のラインナップが豊富&魚料理自慢のお店を、地元のツウに聞き込み調査したところ、あがってきたのが今回紹介するこちら。独創的なメニューが楽しい「薊」と、釣人であり店主の男前で直球な魚料理が出迎えてくれる「しば田」。スタイルは異なれど、静岡SAKABAの実力を堪能できる2軒を紹介する。

 

地元食材を使ったユニークなメニューと、手の込んだ料理が自慢

1. 居酒屋「薊」

繁華街から少し離れた通りにある「居酒屋 薊」。落ち着いた雰囲気の中で、店主の伏見恵之介さんが選んだ素材で作った和食料理をいただける、隠れ家風の酒場だ。伏見さんは、生まれも育ちも静岡。市内の和食店で修業を積んだのち15年前に独立のチャンスを得るが、その際、「静岡には海も山もあり、季節ごとのいい食材がある。この土地の食材の魅力を知っている自分だからこそ、やはり静岡で店を開きたい」と思ったそう。

 

店名の「薊」は、「野原に生えている薊のように、素朴で気取らず、でも目を引く何かがある店にしたい」という思いから。その名の通り、今では連日幅広い層の地元の人々で賑わう名店となった。出かけるときは予約をしたほうが良さそうだ。

カウンター席の前にあるショーケースには、その日揚がった新鮮な魚が並ぶ。「自分は地元でとれた魚が大好きなので、気づいたらそれがおすすめ料理の中心になっていました。駿河湾でとれた魚は、刺身はもちろん、煮ても焼いても最高です」

 

野菜は、できるだけ旬のものを使うのも伏見さんのモットー。「理想は、地元産の旬の野菜。その時季に最もおいしいものを取り寄せて、お出しできればと思っています」

自分がおいしいと思うものを、安心して楽しみながら食べてほしい

「しめさば(真サバ)」850円 ※添えものは季節によって変わる

 

「今、静岡はサバが旬。焼津の小川港ではいいサバが揚がるんですよ」と伏見さん。塩を振り、お酢で一時間寝かせたサバは、脂がのっているのにさっぱり。厚く切られた身は、鯖の味をしっかりと味わえる。この日、添えられていたカブの酢漬けとの相性も完璧だ。

 

サバを調理するにあたり、安全面でも工夫している。新鮮な生のサバは、真空パックをした後、店の冷蔵庫で2日間しっかり冷凍し、寄生虫を死滅させてから提供。「サバに不安がある方でも安心して食べていただけるようにと、一手間加えています。食の安全も、食事を楽しむためには重要ですから」。

「黒はんぺんチーズフライ(2枚)」440円

 

イワシを丸のまますり潰して作る、静岡のソウルフード、黒はんぺん。煮たり焼いたりもできるが、地元の人にたずねると、多くの人が「黒はんぺんはフライが一番!」と答える。

 

実は伏見さんもその一人。「大好きな黒はんぺんのフライにチーズを挟んでみたら、思いのほか好評で。今では人気メニューの一つです」。アツアツの黒はんぺんの香りと味、そこに絡まるチーズのコクは、お酒にぴったり。静岡県民でなくても、夢中になる一品だ。

「純米吟醸 臥龍梅」850円、「天虹」600円。静岡市内にある酒造場のお酒も数種類取り揃えている。

 

柔らかい旨味とキレのいい味わいの「純米吟醸 臥龍梅」、安倍川の伏流水で仕込んだ辛口の「純米酒 天虹」は、共に静岡市内にある酒造場のお酒。他にも数種、地酒を揃えている。「食事に合う味と香りのお酒をと思って選んでいます。地元の魚を、地元の酒で楽しんでください!」

 

また、メニューのネーミングからも伏見さんの個性を感じる。某女性アイドルグループに因んだアルコールメニューもあるが、特に内容についての説明がない。質問してみると、「どんなお酒が出てくるのかなって、楽しんでください」と照れ笑い。伏見さんがおいしい、楽しい、おもしろいと感じたものがたくさん詰まった空間は、訪れた人すべてのお腹と心を幸せにしてくれる。

 

※金額は、すべて税抜価格。料理内容は季節によって変わることあり

釣り人でもある大将の、新鮮な魚で作る“男前”な海鮮居酒屋

2. 酒肴呑喰処「しば田」

鮮度抜群のボリューミーな刺身と家庭的なサイドメニュー、居心地のいい空間が地元の人に大人気の「酒肴呑喰処 しば田」。静岡のおいい魚とお酒好きたちが集う、隠れた名店だ。板前として修行を積んでいた店主の柴田利二さんが独立し、「地元の美味を食べてもらいたい」と、約33年前にこの店をオープン。

 

当時から魚料理がメイン。と言うのも、利二さんは釣人歴30年のベテラン釣り師。今も月に3〜4回は船で海に出ているそうだ。「釣ってきたばかりの新鮮な魚もお出ししています。それを楽しみにきてくれるお客様もいらっしゃるんですよ」と、一緒にお店に出ている奥様の幸代さん。職人気質だが釣りの話になると笑顔になるご主人と、明るく優しい奥様の掛け合いも、「しば田」のおいしい一皿だ。

「お刺身盛り合わせ」2人前2200円(一人前は1人前1200円)

 

「ウチにいらっしゃる方の9割は刺身の盛り合わせを頼まれます。是非召し上がってくださいね」と奥様。取材時の盛り合わせは、マグロ、カツオ、シメサバ、生シラス、ハタ、アジ、赤エビ、ブリ、マグロ、マグロのすき身の10品(魚の種類、品数は、日によって変わります)。切り身は肉厚で、新鮮なので身の弾力も強い。魚の風味も濃厚だ。これは奥様の言う通り、盛り合わせをオーダーし、いろいろな魚の味を楽しむのが正解だろう。

 

これからの旬の魚を尋ねると、「イサキやカツオだな」と微笑むご主人。きっと釣り上げたときのことを想像しているにちがいない。

「はすのはさみ揚げ」750円(右下)、「うしお汁」180円(左下)、「利き酒セット」680円(上)

 

お酒のお供におすすめなのが「はすのはさみ揚げ」。たっぷりのエビしんじょうをレンコン(はす)で挟み、片栗粉をつけて揚げた一品。手作りのエビしんじょうは、香りもよくてふっわふわ。柔らかなレンコンの食感との組み合わせも最高だ。

飲んだ後の締めに是非おすすめなのが、たっぷりの魚のアラで取った「うしお汁」。薄味にして魚の香りを立たせていて、豪快なビジュアルに反してとても繊細な味に。

 

また、いろいろな地酒をちょい飲みしたいなら、気になるお酒3種類を飲み比べできる「利き酒セット」を(ただし開運と志太泉は除く)。好みのお酒を見つけてから、本格飲みをスタートできるのは、お酒好きにはうれしい。

「特別純米 國香」680円、「辛口純米 正雪」680円、「特別純米 喜久酔」680円

 

「静岡は、水がおいしいから、お酒もおいしいんです」と奥様。なかでもこの3本の地酒は人気で、魚にもよく合うそう。「特別純米 國香」はしっかりとしたお米の旨味とキレがあり、「辛口純米 正雪」は滑らかな口当たりとキリッとした味わいが、「特別純米 喜久酔」はふくよかな香りと旨味が特徴。「気になる地酒があれば特別に入れていることもあるので、聞いてみてくださいね」

 

 

写真:本多康司
取材・文:神山典子