基礎知識からレストランまで。専門家に聞いたロカボと食事のおいしい関係

「食べる喜びをしっかり味わいながら健康になってほしい」という思いから、糖質を緩やかに制限する食事「ロカボ」を提唱する山田悟医師。今では名だたる人気レストランでロカボメニューが続々と提供されている。そんな山田医師に、あらためてロカボの基礎知識を教えてもらうとともに、レストランでの低糖質メニュー開発裏話も語ってもらった。

山田 悟(やまだ さとる) 1970年東京都生まれ。食・楽・健康協会代表理事。北里大学北里研究所病院糖尿病センター長。日本糖尿病学会糖尿病専門医。日々、多くの患者と向き合いながら、食べる喜びが損なわれる糖尿病治療においていかにQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を上げていけるかを研究している。2013年に、一般社団法人「食・楽・健康協会」を立ち上げる。著者『糖質制限の真実』(幻冬舎)ほか多数。

おいしく楽しいから継続できる「ロカボ」。糖質制限と何が違うの?

 

――「ロカボ」という言葉を聞いたことはあるけれど、「糖質制限」との違いがよくわからない、という人も多いかと思います。まずはこの2つの違いを教えていただけますか。

 

山田(以下、山):「糖質制限」という言葉は、緩やかに制限するもの、極端に制限するもの、すべてを含めた言葉となります。世界共通の定義はなく、研究者ごとにその定義は異なります。いっぽう私が提唱する「ロカボ」は、緩やかなものに限定し、「1食20~40gを3回、これに間食10gを加えて、1日の糖質量を70~130gにおさめましょう」というもので、1食ごとに糖質量を定義しているのがポイントです。医学的な研究においても、「極端な糖質制限はリバウンドを起こす」ことがわかっています。リバウンドをするということは、その生活がつらかったということが予測されます。私自身、食いしん坊でおいしいものの誘惑に弱いタイプです(笑)。だからこそ、おいしく楽しい食生活であってこそ、継続できると思うのです。

 

――ダイエット目的でロカボに興味を持つ方もいるかもしれません。ロカボを続けると、健康面でどのようなメリットがありますか?

 

山:太っている人においては体重減量が期待できます。また、空腹時血糖値はもちろん、日本人に多い食後の隠れ高血糖を抑え、高脂血症にも改善効果が得られることが医学的に証明されています。今後、研究成果が得られるのではないかと期待しているのは、脂肪肝の改善、認知症予防、睡眠時無呼吸症候群の改善、肌の糖化を防ぐことによるアンチエイジング効果などです。また、食後の血糖値が上がりやすい妊婦さんにとっても、血糖値上昇に全くブレーキをかけないカロリー制限よりも、ロカボをおすすめしたいですね。

 

――ロカボを実践したいと思ったとき、まず何を変えていけばよいでしょうか?

 

山:主食の量を意識することから始めてみてください。糖質20gというと、ごはん半膳(70gまで)、8枚切り食パン1枚に相当します。主食を抑えるぶん、おかずをしっかりと増やして、おなかいっぱい食べてください。定食屋さんでご飯を半量にすると物足りなくなるので、唐揚げや冷や奴など小鉢を足すこと、このとき、カロリーを意識したり、脂質を抑えたりしないことが大切です。脂質も、タンパク質も、血糖値上昇にブレーキをかけてくれる大切な栄養素だからです。ブランパン、糖質オフ麺、アイスクリームなど、糖質を抑えたロカボ商品もたくさん登場しているので、ぜひ役立ててください。

メニュー監修のきっかけは一流レストランのシェフから教わった“低糖質のおいしさ”

――医師である山田さんが、レストランなど、飲食店での低糖質メニュー監修を行われるようになったきっかけは何だったのでしょう?

 

山:2002年に北里研究所病院に赴任したときに、77歳の糖尿病の男性が、「喜寿のお祝いで家族が祝いの席を用意してくれたのに、自分だけはワンプレートのお子様ランチのような食事しか食べられなかった」と悔し涙を浮かべられたのです。このような思いを味わうことのないよう、糖尿病の方でも食べられる食事法はないものかと探し続けていたところ、2008年に世界的に有名な論文で「糖質制限でおなかいっぱいに食べると、カロリー制限よりも脂質や高血糖状態が改善する」という画期的な報告がされました。時を同じくしてわが国初のミシュランガイド『ミシュランガイド東京2008』が出版されました。

 

出典:リストランテ ASO

 

私は、これらの一流店には“隠れ糖尿病メニュー”があるのではと期待し、掲載店舗の全150店舗にお手紙を出したのです。そんな中、イタリアンレストランの名店「リストランテASO」の阿曽達治シェフから電話がかかり、「うちは糖質制限食を始めています」と。妻とともに食べに伺うと、パンもパスタも、デザートもある! いずれも、シェフ自身がふすま粉など素材を探し、お客様に出せるレベルの味にするために100回以上試作を重ねたものでした。私は食後血糖値が上がりやすいのですが、実際にいただきながら血糖値を測ったところ、確かに上がりません。素晴らしい、と確信しました。

 

――その後、奥様とともに「食・楽・健康協会」を立ち上げられ、無料でレストランのメニュー開発の監修を行われています。低糖質メニューに挑戦するシェフにはどのようなアドバイスをされるのですか。

 

山:コース料理であれば、レストランの看板であるスペシャリテはそのままに、それ以外のものでどのように糖質を抑えていくか、という視点でアドバイスをさせていただきます。たとえば薄餅に包んでいただく北京ダックの場合、糖質40gのほとんどをそこに置き、ほかの品を低糖質にするように工夫するという発想です。どのお店も、低糖質メニューは健康への意識が高い方に好評で、リピート率も高いと伺っています。

 

――低糖質を実現するのが難しい料理のジャンルなどはありますか?

 

山:うーん、そば屋さんですね。

 

 

 

そばの場合、そば粉の含有率の定義があったり、かえしは砂糖とみりんでできていたりする。そば湯にもたっぷり麺からの糖質が溶け込んでいます。とはいえ、職人さんと一緒に知恵をこらし、楽しみながら、開発をさせていただいています。

山田先生がおすすめするとっておきのロカボレストランはここ!

――ロカボメニューのあるレストランで、おすすめのお店を教えてください。

 

山:特別な日にご利用いただけるレストランとしては、コースのパスタを低糖質に変更することが可能な「リストランテホンダ」、「アロマフレスカ」では全体の糖質量を23g以内に収めた低糖質フルコースを実現されています。

【1】「リストランテホンダ」

出典:toritama_uさん

【2】「アロマフレスカ」

出典:代々木乃助ククルさん

 

また、「赤坂璃宮銀座店」では、名物メニューのフカヒレや鮑のメニューも、うまみたっぷりのスープをベースにすることによって片栗粉のとろみや他の甘みを加える必要がなく、低糖質を実現されています。同じ中華料理店の「中国飯店 琥珀宮」にも、根菜の量を抑え、低糖質甘味料を使うなど工夫を凝らしたロカボコースがあります。スープには大ぶりのフカヒレが使用されており、ロカボでもお腹が十分に満たされます。

【3】「赤坂璃宮銀座店」

出典:curuさん

 

【4】「中国飯店 琥珀宮」

出典:ROSE BANKさん

 

また、「銀座寿司幸本店」では、刺身盛り、焼き魚、小鉢、お椀もの、握りなど、季節の魚介を楽しむことができ、寿司に合う白ワインもつく「低糖質すし献立」があります。和食の「青草窠(せいそうか)」にも低糖質コースがあるんですよ。

【5】「銀座寿司幸本店」

出典:りとるみいさん

 

【6】「青草窠」

出典:ともぞー。さん

 

細かく挽いたパン粉をごく薄くつけることによって、串揚げ15本を食べても糖質は21g。ウニ、キャビアやフォアグラ、シャトーブリアンといった串揚げコースをいただける「銀座串かつ凡」も。デザートではノンシュガーのチョコをナッツの衣で揚げた秀逸なものです。

【7】「銀座串かつ凡」

出典:銀座の夜の物語さん

 

世界で一番おいしい朝ご飯で有名な神戸北野ホテル内のダイニング「イグレック」のロカボ朝食は、ジュースやコンフィルチュールやクロワッサンなど盛りだくさんで、「泊まってでも食べる価値がある!」と妻とともに感動した素晴らしい朝食でした。

【8】「イグレック」

出典:うさうさこ303さん

 

「つるとんたん」も、プラス180円で全品を糖質60%オフのロカボうどんに替えることができます。独自の製法で作られたうどんは、もちもちで、しっかりとコシがあります。

【9】「つるとんたん」

出典:ウェイクさん

今後もロカボ×レストランのコラボレーションに注目

山:「健康になりたければ我慢をして質素なものを食べるしかない」という常識が、この10年で大きく変わり、「おいしいものと健康は両立できる」という社会になったと感じています。そこには、ロカボという考え方に賛同してくださったシェフの存在が欠かせなかったというのが実感です。これからも、さまざまなジャンルに広めていきたいと思います。

 

取材・文:柳本操