本田直之 グルメ密談―トップシェフが内緒で通う店

グルメ界隈で話題騒然の本連載。予約困難店のシェフたちはどんな基準で店を選び、通っているのか。今回、話を聞いたのは「ペレグリーノ」のシェフ、高橋隼人さん。「The Tabelog Award2018」では、ゴールドを受賞し、今最も予約のとれないイタリアンレストランのオーナーシェフである高橋さんの店選びの基準は意外なところにあった。

 

ランチや家族と行ける店選びの指針

本田:1日6席のみのプラチナシート、どまんなかにおかれた生ハムのスライサー、目の前で繰り広げられる、まるでワンマンショーを見ているようなペレグリーノの料理。そんな隼人が普段どんなところに食べに行っているのかはすごく興味があるね。

 

高橋:普段よく行くといったら「(中華香彩)JASMINE」さん。近いのと、気軽だけど美味しいというところが大きいですね。

 

本田:店終わってから行くの?

 

高橋:いえ、お昼に行くことが多いですね。

 

本田:営業前ってそんなに昼を外で食べるの?

 

高橋:いや、普段は店で食べることが多いんですけど。たまに気分を変えたくなって。あとは休みの日で夜の予定があって、それで昼どこも動けない時なんかは「ジャスミン」に行くっていうのもありますね。

 

本田:昼、夜ってしっかり食べるんだ。

 

高橋:結構食べますね。食べられるなら食べたいですね。本田さんはどうですか?

 

本田:俺最近1日2食も食えなくなってきてるんだよね。基本は東京いるときはほぼ1食。その代わり夜にとにかく集中して、朝は食べず、昼はサンシャインジュースのD.J.を飲んで。そうしないと体重もキープできないし。

 

高橋:本田さんでもそうなんですか?

 

本田:そう、それでやっと。旅行に行ったときはもちろん昼夜食べたりするけどね。

 

高橋:東京だったらできれば胃を休ませたいとかもありますもんね。

 

本田:昼のJASMINEではどんな感じに食べるの?

 

高橋:昼のショートコースがあるので、それを食べたり。あとは、JASMINEのシェフがすごく好意的で、仲良くしてくれるので、「今日の季節の一品」を出してもらったりもします。

 

 

本田:好きな料理は?

中華華彩 出典:お店から 

高橋:「よだれ鶏」が有名ですけれど、僕は麻婆豆腐が好きですね。

 

本田:うん、シンプル。

 

高橋:仕事が終わってからのご飯には、「鮨 さいとう」の齋藤さんが薦めている「52」も行くことはあります。僕はJASMINEも両方好きですね。やっぱり本田さんも52はよく行きます?

 

本田:うん。でも、最近は全然取れなくて。ほかにお薦めの料理は?

 

高橋:小さな点心みたいなのもいいし、フカヒレもちゃんと調理している。こういう組み合わせもあるんだっていう発見もちょこちょこあって嬉しいですね。

 

本田:ジャンルが違うとインスパイアされることもあるんじゃない?

 

高橋:ええ、そう思います。

 

本田:ほかには?

トップシェフを唸らせる、子供の味覚

Hachi Hachi広尾店 出典:お店

高橋:焼肉店の「 HACHI HACHI」には、昨日も行きました。家族で行けて、気を遣わなくてすむというか。

 

本田:お子さんって今いくつ?

 

高橋:8歳の娘と2歳の息子がいるんです。家族がいるときは、やはり一緒に行きたいなって。 HACHI HACHIはちゃんと炭を入れてくれるし、自分で焼くから好きに焼けていいな、と。

 

本田:自分の焼きたいように焼ける。シェフだしね(笑)。

 

高橋:そうなんですよ。クリーンな場所で、肉質も悪くなくて、炭で自由に焼かせてくれるっていうところがいい。しかも高くない。

 

本田:シェフだから、食べたら肉質もわかっちゃうもんね。そこではどんな風に食べるの?

 

高橋:牛肉は安いものから、結構値段のはるものまであるんですけど、値段の高いものだけを注文するのがいいのかなと。実は高い肉の方がコスパがいいんです。通の人もターゲットにしてるから、そういうところは特に気を遣ってるのかもしれません。

 

本田:その中で選べば、かなりお得にいいものを食べられるわけだ。肉選ぶってなかなか難しいよね。肉質って一般の人にはなかなかわからない。こういうカジュアル店でいい肉を選ぶって、ちょっと面白い考え方だね。“お得にいいものを”って感じで。確かにアリかもしれないね。

 

高橋:あと、指針となるのは子供の食いつき。

 

本田:それでわかるんだ。

 

高橋:自分たちはなんとか食べられる感じのものでも、子供だと絶対に受け付けないものがあったりとか。逆にすごくいいものは、なくなり方が違うので、そういうのを見ていても、ある意味勉強になります。

 

本田:面白いね。子供は正直だね。しかも、子供の時からいいもの、ちゃんとしたものを食べているだろうから、味覚が鋭い。ケミカルなものを受け付けないのかな。

 

高橋:そうですね。ほんと憧れちゃいますよ。自分はそんなんじゃなかったので。

 

本田:じゃあ自分の子供たちすごいことになるんじゃない?

 

高橋:いや本当にそうですよね。いくらうまくても、何日か続くともう食べなくなったり。

 

本田:へぇ~。自分のところの生ハムも食べさせているの?

 

高橋:そうなんですよ。生ハムを「美味い」って言われて、何日も続けて出したらもういらないって。

 

本田:贅沢だな。

 

高橋:生ハムは骨を抜く日があるんですが、骨を抜いた日の骨の周りの肉の、すごく綺麗なピンク色をした空気に触れていないものだけが食べたいって。

 

本田:とんでもない話だな! 一番いいところじゃん。

高橋:毎朝、必ずブロードを取るんですけど、ブロードができ立ての、濾し立てを飲んでるんです。次の日になると、「あんまり要らない」とか言って。

 

本田:えーっ! 純粋にそれが美味しいって感じてるってことか。その価値が理屈でわかってるわけじゃないもんね。すごいね。

 

高橋:そういうのを見るためにも、こういうカジュアルなお店に行って、食べられるものと食べられないものをみると、なんかヒントになったりするんですよ。

 

本田:ああ、なるほどね。それ面白い、店の新しい見方だね。

 

高橋:自分の中では、「こんな使い古された食材同士の組み合わせのパスタいけるのかな?」って思ったりしても、子供達に食べさせてみて、「すごい美味しい」って言われたりするんです。それを店で出してみると、すごくお客さんに喜ばれたりして。「あ、すごいな、自分はかなわないのかな」なんて思ったりしますね。

 

本田:味覚はね。HACHI HACHIのいい肉は子供達も喜んで食べる?

 

高橋:ええ。

 

本田:それは「ちゃんとしてる」って思えるね。

 

高橋:それで他のカジュアルな肉屋さんもイケルのかなと思って行ったら、何も言わずに一口も食べなかったことがあって。

 

本田:となると、HACHI HACHIが値段は安くてカジュアルでもいい肉を使ってるって、めちゃくちゃ説得力ある。新しいなこれは。ほかには?

知る人ぞ知る、ワンオペイタリアン

高橋:「SABA」というイタリアンはいいですね。

 

本田:知らないなあ。どういう店?

 

高橋:もともと僕が働いていた徳島のイタリア料理の店に、その後入ってきた人の店。30過ぎから料理を始めた人だったんですが、徳島のあとはイタリアに行って、その後は東京。SABAというお店の前は「LA PRIMA PAGINA」っていう店を自分で開業して。本当に知る人ぞ知るって感じなのに、こんなに何年もやれるなんてすごいなって思うんですよ。最初の店はリストランテ形式で、コースで出すような感じだったんですけど、今の店は、カジュアルにアラカルトを頼む感じです。すごく実直に良い料理をする人なんです。丁寧で味もとてもいいんですよね。

 

本田:イタリアのどの辺にいたの?

 

高橋:それこそ僕が修業したパルマにいらっしゃって、あとはロンバルディアやピエモンテなど、北中心にいて。ロンバルディアの3つ星の店で働いていたのですが、確か、青山「PRISMA」の齋藤さんとも同じ場所で働いてたと思います。

 

本田:そうなんだ。じゃあ、ああいう感じの料理も作れる人なんだ。

 

高橋:カジュアルな入り口で、一品は簡素に仕上げてあるけれど、味はカジュアルな作りではないところがいいですよね。

 

本田:へぇ~。1人でやってるの? シェフは。

 

高橋:そうなんです、まったく1人でやってる。

 

本田:サービスも1人? 完全ワンオペなんだ? どういう時に行く感じ?

 

高橋:仕事終わって夜に行ったりしますし、あとはオープンしてすぐ、18時とか19時くらいに行って、1、2杯飲んで、シェフとちょっと話して、1品、2品食べて。

 

本田:なるほどね。そういう使い方もできる。

 

高橋:アナグマとか、珍しい食材も。それで夜は3,000円とかなんですよ。

 

本田:へぇ~。なんで知られてないんだろう。

 

 

高橋:ぜひ行ってみてください。「生ハムを出したいけれど、どうしたらいいか」って相談されたので、僕が何本か生ハムを食べさせると、ナチュラルに一番高いものを選ぶんです。子供のような感性の持ち主なんですね。でも、最終的には「値段に合わないから」とかなっちゃったりするんですよ。そういう値段のタガがあって、すごく工夫をする人なんで、いまの僕とはまた違うところで、ためになるところがあります。シェフがもっとみなさんと仲良くなって、お客さんがいっぱい来たら、もっといい素材を使って、いい料理が出せるんじゃないかなって思います。

 

本田:もうちょい単価も上げられる。ちょっと上げるだけでもだいぶ違うでしょ、3,000円とかだとかなり難しいから。制約がだいぶあるよね。

 

高橋:そうなんです。ワインにしてもすごく制約のある中で、ちゃんと美味しいグラスワインを何種類か開けて持っていて。

 

本田:1人でやってるからできるんだよね。彼の料理で美味しかったのは?

 

高橋:手打ちパスタのレベルが高いですね、それも1種類出すだけじゃなくて、何種類も打たなきゃ気が済まないとか………。

 

本田:そういうとこまでするんだ。めちゃめちゃいいじゃん。

 

高橋:野菜はいつも青山のファーマーズマーケットへ買いに行ったり、キントア豚とかもちゃんと使うし………。

 

本田:そんな人がいるんだねえ。今度、行ってみますよ。

おまかせで身を委ねる焼き鳥店

ぎたろう軍鶏  炭火焼鳥たかはし 羊のもも肉(出典:ドクトル麺坊さん

高橋:「ぎたろう軍鶏  炭火焼鳥たかはし」は昔から通っています。

 

本田:親戚じゃないの?

 

高橋:いえ、違います(笑)。徳島での修業時代に知り合ったフランス料理のシェフが、高橋さんと知り合いで、こちらで僕が店を始めてすぐの時に、引き合わせてもらったんです。本当に、高橋さんにはお世話になっているので。

 

 

本田:あそこはいいよね。

 

高橋:ええ。本田さんも、行ったりしました?

 

本田:今もたまに。ワインも揃ってるしね。もともとフレンチのシェフだったんだよね?

 

高橋:はい。「プリムール」っていうお店のシェフだったので。

 

本田:そのあとに焼鳥屋になるって珍しいよね。

 

 

高橋:そうなんです、はい。高橋さんが、僕の前の店の時から気に入ってくれて、月1ぐらいの割合で来てくださって。「ぎたろう軍鶏の『林種鶏場』に連絡しといたから」って、ぎたろう軍鶏を送ってくれて。で、使わせてもらったら実際すごい美味しい軍鶏で、感激して、それから9年間ずっとぎたろう軍鶏を使っています。

 

本田:ああ、そういうことなのね。知らない人が聞いたらやっぱり親戚だと思っちゃう(笑)。

 

高橋:ぎたろう軍鶏以外にも、いろいろな肉を使っているんですけれど、常時あるのが、仔羊のモモや、鴨。予約をするとハトを仕入れてくれたり。すごく勉強になります。本当に頭の上がらない人です。

 

本田:いろいろ勉強にもなるってことだね。普通の焼き鳥屋のレベルじゃないよね、選択肢の幅とか。ワイン×焼き鳥って、高橋さんの所が初めてだよね?

高橋:そうですよね。だからもっと忙しく有名になってもいいと思うんですけど、高橋さんがあえてそれをセーブしているのか。メニュー以外のワインとかも、いいものがゴロゴロあって。12月には、ブレスのシャポンに黒トリュフを忍ばせてくれたりとか。

 

本田:通いまくって、そういうの出してもらえるようになったら嬉しいよね。

 

高橋:僕も出してもらったことないですけど、隣を見ると、黒トリュフ入りのオムレツが出てたりして、すごいなって思いまして。どうやったらこれを頼めるのかなって。

 

本田:仲いいんだから頼めばいいじゃん。「あれ食べたい」って。

 

高橋:僕、行って頼んだことないんですよ。行ったら最初っから最後まで出てくるので。

 

本田:おまかせにしたほうが楽しいんだよね。あと、もう1軒くらいある?

予約の取れない店のシェフが予約をする名店

てんぷら 成生 出典:bottanさん
てんぷら 成生 出典:みるみんくさん

高橋:最後に挙げたいのは静岡の「成生」ですね。

 

本田:最初に行ったのいつ頃?

 

高橋:去年の秋口くらいから立て続けにご縁があって。地場の野菜の美味しさがいいですね。最初に行った時、太いごぼうが美味しかったんですけれど、来月来たらもっと美味しくなるよって言われて。なかなか来月っていうのは取れないんですが、たまたま行けることになって。そしたら一回りもごぼうが太くなっていて、格段に甘くなって、まったく違うものなんだなって。あと、こちらは、鯵を天ぷらにしてくれることが多いんですけれど、季節が深くなるにつれて、脂の乗り方が変わることをダイレクトに感じました。

 

本田:それは面白いね。

 

 

高橋:揚げてから時間をおいて蒸らすネタもありますね。

 

 

本田:昔は揚げ立てを食べるのが鉄則だったのにね。

 

 

高橋:そう。時間を置いてもまだアツアツだし。

 

本田:独自の天ぷらだね。あの場所で、よくやってるよね。

 

高橋:名古屋の「くすのき」さんとはまた違いますもんね。

 

本田:方向性の違う天ぷらだね。毎月ぐらい行ってるの?

 

高橋:いや、ちょっと空いちゃってますけど、次は5月とまた7月伺う予定です。

 

本田:おお! もうそこまで押さえてるんだ。予約のとれない店の大変さは、隼人もよくわかるでしょう。貸し切りで来た客全員がその場で「予約取りたい」って言ったら困るもんね。

 

高橋:はい。以前は全部受けてたんですけど、もう大変なことになってしまってですね、はい。

 

本田:今どうなんですか?

 

高橋:「後日連絡する」って言って、なかなか連絡できてない状況になっちゃってますね。

 

 

本田:1日1回転だしね。本当は週に3日くらい休みたい?

 

高橋:週3日休んで、いろんなところを回って生活していけたら最高だなって思いますけど。

 

本田:自分のペースでね。今回、話を聞いて隼人の研ぎ澄まされた味覚や、素材の組み合わせは、子供たちの鋭い味覚のセンサーが一つの基準になっているというのは、すごく新しいし、驚きだった。ペレグリーノの料理を貫くピュアでナチュラルな感覚がそこに起因しているのだとわかって、すごく腑に落ちたというか、納得しましたね。

 

★ペレグリーノの高橋隼人さんが通う店はこちら

・中華香彩 JASMINE

・HACHI HACHI

・イタリアンバル SABA

・ぎたろう軍鶏 炭火焼き鳥 たかはし
・てんぷら 成生
構成・文:小松宏子
撮影:大谷次郎