お菓子博士・猫井登のスイーツ白書Vol.1「苺のショートケーキ」

 

お菓子の歴史研究家・猫井登先生が毎回ひとつのスイーツを取り上げ、その成り立ちについて解説し、「食べログ スイーツ 百名店 EAST 2018」と「食べログ スイーツ 百名店 WEST 2018」からオススメのお店を紹介してくれるという、なんとも美味しいこの企画。連載第一弾となる今回は、ケーキの定番「苺のショートケーキ」編です!

国によって個性が様々!苺のショートケーキの定義とは?

編集(以下、編):苺のショートケーキといえば、定番中の定番ですよね!

 

猫井先生(以下、猫):洋菓子店の代名詞みたいにいわれる、苺のショートケーキですが、実は日本生まれなんですよね。

 

編:ええっ!? 西洋のお菓子じゃないんですか?

 

猫:イギリスやアメリカに「ストローベリーショートケーキ」というお菓子は確かにあるんですけど、日本のものとは全く違うんですよ。

 

編:同じ名前なのに? どこが違うんですか?

 

猫:一番違うのは「生地」ですね。あちらのものは、ショートブレッドのようなビスケット状の生地に生クリームと苺を挟んだものです。これが日本に伝わったときに、日本人はあまり硬いものは好まない、高級感を出したいという理由で、生地がスポンジにすり替えられてしまったというわけです。

 

編:へぇー! フランスでは、どうなんですか?

 

猫:フランス菓子にも日本のようなショートケーキはありません。苺を使う代表的なケーキとしては「フレジエ」がありますね。

 

編:フレジエ? どんなケーキなんですか?

 

猫:まず、「クレーム・ムースリーヌ」といって、カスタードクリームとバタークリームを混ぜたクリームを使います。生地も濃厚なクリームに負けないようにアーモンドパウダーが入ったスポンジを使うことが多いですね。苺の断面が外側から見えるように並べて、間にクリームを流し入れ、これを生地で挟むようにして、さらに上部の生地の上に薄く伸ばしたマジパンをのせるというのが基本構造ですね。

 

編:かなり濃厚で甘そうですね…

 

猫:日本人はそう感じる人が多いでしょうね。それで、問題が起こる。

 

編:どんな問題ですか?

 

猫:日本人はあっさりとしたショートケーキが好き。でも、フランスなどヨーロッパで修行したパティシエからすると、日本生まれの西洋菓子は作りたくない。

 

編:なるほど。で、どうするんですか?

 

猫:大きく2つに分かれますね。うちはフランス菓子店だから「絶対に作らん!」という店と、お客様が望むのなら「作りましょう」という店です。後者の場合は、作り手の考え方が色々とお菓子に反映されていて、そこが見どころです。

 

編:面白いですね! どんなお店に行けば食べることが出来ますか?

 

猫:「食べログ スイーツ 百名店 EAST 2018」と「食べログ スイーツ 百名店 WEST 2018」の中から紹介しますね!

和と洋両方の美味しさを取り入れた苺のショートケーキが食べられるお店3選

絶妙な引き算のバランスにより引き出される素材の力「リリエンベルグ」(神奈川)

出典:中辛さん

出典:まりゅたさん

 

神奈川県川崎市にある映画「となりのトトロ」に出て来そうなメルヘンチックなお菓子屋さん。まず、こちらの「フレジェ」のクリームはバターを使いながらもあっさりとした味わいに仕上げられ、上下の生地も軽やかなビスキュイが用いられている。上部もマジパンではなく、粉砂糖でさっと仕上げられ、日本人の口にも合うようにキッチリと引き算がなされている。

 

出典:とんこんばっこんさん

 

一方の「いちごのケーキ」は、卵黄の味わいがしっかりと感じられるスポンジにコクのある生クリームを合わせた素材の力が感じられる逸品。なにより、苺に「酸味」がしっかりとしている「女峰」を使う一方で、苺のコンフィチュールの層で「甘み」を加え、単調になりがちなショートケーキの味わいの構造に「酸味」「甘み」のコントラストを与えているのが素晴らしい。

クリームの美味しさをしっかりと感じられ食べ応えも抜群「シャンドワゾー」(埼玉)

出典:ジョルノ☆さん

出典:ぽちのかいぬしさん

 

埼玉県の川口駅から少し歩いたところに出現する白い瀟洒な外観のパティスリー。ショーケースに並ぶケーキは、どれもやや大ぶりで力強い美しさが感じられる。こちらの「フレジエ」は、クレームパティシエール(カスタード)の味わいがしっかりと感じられるコクのあるクレーム・ムースリーヌに苺がたっぷり。上部にはマジパンの代わりに美しくグラサージュが施されている。

 

出典:ぽちのかいぬしさん

 

一方の「クレームフレッシュ・フレーズ」は、ふわっとした口溶けのよい生地に、北海道産の生クリームとスライスした苺を2層はさんだもの。ポイントは下のクリームの層。こちらにはカスタードクリームの層が加えられ、全体にあっさりとした味わいにコクを加えている。ヨーロッパでの修行経験があるシェフが日本型のショートケーキに、フレジエの味わいの要素を加味しているといってもいいだろう。

究極のショートケーキに出会うなら「ロトス洋菓子店」(京都)

出典:Mハルさん

出典:yama-logさん

 

京都の街並みに溶け込む小さな洋菓子店。こちらの「いちごのショートケーキ」は、卵の黄色が色濃く反映された生地に淡い口溶けの生クリームと苺が挟まれた上の層とカスタードクリームが挟まれた下の層により構成されている。これもフレジエの要素を「加えた」苺のショートケーキのひとつと考えてもいいだろう。

 

出典:「まっすん」さん

 

しかし、この店はさらに考える。今度は「苺」のショートケーキから「苺」を「引いた」らどうなるか? 純粋な「ショートケーキ」とは何か? ここに、スポンジ、カスタード、生クリームの3つのみから構成される究極のショートケーキ「たまごのショートケーキ」が生まれた。シンプルであるが故に全てに自信がないと作れないケーキだ。口に入れる前から、スポンジやカスタードから卵の香りが押し寄せ、口の中でふんわりとしたスポンジ、コクのあるカスタード、生クリームが混然一体となって溶けていく逸品である。

編:う〜ん。奥深いですね・・・。

 

猫:「美味しい」「綺麗」と思うことは、もちろん、いいんですけどね。「なぜ?」ということを考えながら食べると、スイーツがもっと楽しくなりますよ!

 

文:猫井登