2024年1月1日、正月ムードの日本列島にまさかの能登半島地震が起こりました。半島というアクセス難な立地も影響し、全体の被害の把握や復興もなかなか進まないと聞きます。そんな中、被災後間もなくしてシェフたちが自発的に炊き出し活動を行い、厳しい冬の能登の地で温かい料理が被災者の方を励ましているようです。実際に活動しているシェフにお話を聞きました。

川嶋 亨さん(一本杉 川嶋)

外観
外観   写真:お店から

石川県七尾市、一本杉通り沿いにある日本料理「一本杉 川嶋」は全国から食通が集まり、数カ月先まで予約が埋まる大人気店です。「The Tabelog Award 2023」では「Best New Entry」に選ばれ、先日発表された「The Tabelog Award 2024」では「Silver」に輝きました。「食べログ 日本料理 WEST 百名店」の選出店でもあります。

お店は築94年の有形文化財でもある元万年筆屋をリノベーションしたとても素敵な一軒家で、能登産の食材にこだわったお料理の数々を提供します。「チーム川嶋」と呼ばれる生産者さんから届く食材は唯一無二の新鮮さとおいしさを誇っています。

店主の川嶋 亨さん
店主の川嶋 亨さん   写真:お店から

店主の川嶋 亨さんは七尾市で炊き出しチームを結成するなど、被災直後から精力的に活動をされています。川嶋さんに現状を伺いました。

※七尾市周辺の状況となります。エリアによってインフラ・流通事情などの状況は異なります。(取材時:2024年1月22日)

炊き出し活動について

七尾の炊き出しチーム(川嶋さんのFacebookより)

最近まで毎日、七尾駅前商業施設パトリアにて炊き出しを行っておりました。現在、各避難所は生きていくための食べ物は行き渡るようになってきており、次のフェーズへ移行しつつあります。「おなかを満たす食事」から「心を満たす食事」へと移行していく必要があると感じています。

僕が毎日行っていたキッチンの様子ですが、ものすごく明るくとてもチームワークも良いのが特徴でした。2024月1月1日に震災が起き、1月2日にチームを立ち上げ、そこからメンバーを募り準備をし、1月4日から七尾駅前商業施設パトリアに集結し炊き出しを開始しました。

多くのシェフがサポートに駆けつけている(川嶋さんのFacebookより)

地元の料理人さんや近くに暮らす方々を中心に結成していました。金沢からもたくさんの料理人がサポートに駆け付けてくださり本当に感謝しております。最初は面識のない方も多く不安でしたが、3日4日も過ぎた頃には仕入れ、仕込み、調理、配達、片付け、水汲み、事務作業、物資振り分けの役割分担もしっかりでき、チームとしてもとても連携が取れ、仕込み時間も短時間で終わるようになりました。誰かがもし急に休んだとしても全く問題なくキッチンはスムーズにまわる強固たるチームでした。

「笑顔で楽しく」が活動のモットー(川嶋さんのFacebookより)

僕たちのキッチンでは、結成時から午前中しか活動しないと決めていました。音楽もガンガンかけながら皆で笑顔で楽しく炊き出しの準備をしました。僕たち自身が被災者であり、自分の時間や自身のお店の時間なども必要ですし、心のゆとりが必要です。もちろん衛生上のことは最大限に気を付けていました。一日にたった数時間だけど仲間が集まり、笑顔で前向きに励まし合うことがめっちゃ大切な時間でした。

温かい料理が心も温める(川嶋さんのFacebookより)

避難所へはキッチンのそのままの笑顔と元気を料理と共にお届けしました。温かい料理を食べ、涙される避難者の方々も多いですが、僕らが帰る頃にはとても笑顔になっていただくことが多かったです。

今の状況

イラストとコメントにホッと癒やされる(川嶋さんのFacebookより)

七尾駅前パトリアで作った料理を各避難所へお届けするシステムの炊き出しは1月21日で終了し、チームは解体することとなりました。

サポートくださりました、たくさんの皆様本当にありがとうございました!

避難所の皆様におなかを満たすと同時にたくさんの笑顔と元気をお届けできたと思います。避難所から返ってくる用紙にはお礼のメッセージが書かれていることが多く、避難所との交換日記のようでいつもワクワクしていました。それも終わりかと思うとちょっと寂しいですが、炊き出しが終了することはすごくポジティブなことです。前へと進んでいる証拠。パトリアでの炊き出しは終了しましたが能登の復興が終わったわけでもなんでもなく、むしろスタートで、これからも復興に向け、引き続き自分ができることに突き進んでいきたいと思っています。

そして今回このチームで得た経験と仲間との絆はかけがいのない財産です。ありがとうございました。

七尾市内のほとんどの避難所は、食事はある程度ちゃんと行き渡るようになり、県外チームや企業なども入ってきており、飽和状態となりつつあると感じております。フェーズは確実に変わりました。命をつなぐための食事を作る最初の役割は十分果たせたと思っております。これからは料理で、被災された方々の健康面や自立をより促すための活動や、微力ですが経済を少しずつまわしていけるような活動をしていけたらと思っています。

自分ができることなんてほんのほんの微力ですが。皆様には引き続き食で元気と笑顔をお届けできるような楽しいことも少しずつ増やしていけたらいいなと思っています。
あと、少しずつ自分のこともしていかなきゃなと思ったりもしています。

今、困っていること

飲料水はあるが、生活用水が不足(川嶋さんのFacebookより)

ずっと断水しており、解消は4月以降と言われています。とても不便で、飲食店をやっている人たちも、建物が大丈夫なので復活再オープンしたいが、水がきていないため営業できないと言っている人が多いです。

現在の店舗の様子(一本杉 川嶋のInstagramより)

私の店は建物自体かなりダメージがあるので、まだまだ当面難しそうです。建て直すにしても、まずは解体するにもなかなか順番もまわってこないですし、国や県からの援助金があるかもわからないままです。

pateknautilus40
美しい器も割れてしまった   出典:pateknautilus40さん

再建には時間とお金が必要です。数千万〜数億円かかると覚悟しております。開業し3年しかたっていない私には当然まだまだ借金もありますし、オーベルジュも建設中でしたので、ただただ借金まみれです。修業時代からコツコツ集めてきた、お宝級の器も7〜8割割れてしまいました。今後再建するための資金集めをどうしていくか、困っているというか、今不安なことです。

助かること

お店を復活させるためにも……
お店を復活させるためにも……   写真:お店から

上記でも回答させていただきました、援助金や義援金にご協力いただけるとすごく助かります。お金の問題はとてもデリケートな部分ですが、自宅もかなりの被害があり、今は実家に住ませてもらっています。そちらの工事費もかかりそうです。

マイナスからの再出発

(川嶋さんのFacebookより)

1月22日、心の拠り所にもなっていた炊き出しボランティアも終わり、なんだか寂しい気持ちもありますが、ホッとした気持ちがしました。

なかなか気分がのらずお店の方には気持ちが向かなかったのですが、気持ちを少し奮い立たせ勇気を振り絞り、安全対策をし、数日ぶりに店に来てみました。店の中は1月1日のあの時のまま。時がとまったようにぐちゃぐちゃ。しばらく放心状態のまま立ち尽くしました。何から手をつけたらいいのやら……。

散乱する厨房の様子(川嶋さんのFacebookより)

有形文化財だった建物の外観内装もそうですが、大切にしていた器やグラス、お茶道具、設え、調理道具、備品、いろんなものが壊れてしまいました。衝撃が大きくSNSにのせるのも迷いましたが、今の「一本杉 川嶋」の現状を一部ですが少しずつ記録に残していこうかなと思い投稿しました。数年後に見返したときに笑い飛ばせるように、今はできることをコツコツ少しずつ頑張るしかない。

七尾市街地、和倉温泉の水道復旧は4月以降とのこと。まだまだ復興への道のりは険しく長いですが、心が折れないようなんとか踏ん張ります。

これからの能登とともに……

能登の海(川嶋さんのFacebookより)

阪神淡路大震災が起きてから29年。私が小学校4年生の時のことでしたが、当時テレビから流れてきた衝撃的な映像は今でも鮮明に覚えています。「令和6年能登半島地震」が起き、今度は自分が被災者となるとは正直想像もしていませんでした。妻は大阪の出身で今でも地震のことがトラウマとなっています。今でも毎日のように余震が続いており、ちょっと揺れるだけでも恐怖で怯えてしまうようです。そんな妻のお父さんは当時神戸で勤めており、当時街は壊滅し大変なことになっていたが、どんな状況だろうと街の人たちは決してめげずに、何度も何度も挫けそうになっても立ち上がり諦めなかったと話を聞きました。

今自分が被災者となり、目の前が真っ暗になり心が折れそうになることも正直ありますが、諦めずに一歩ずつ前へ前へと進みたいと思います。毎日たくさんの仲間に囲まれ過ごす日々。街のために人のためにできることはなんだろうかと自問自答する日々。つらい話もたくさん聞きますが、神戸が復興したように、きっと諦めなければ時間がかかっても必ずまた元の生活ができると信じて前を向いていきたいと思います。

写真:お店から

僕の夢は能登をはじめ、一本杉通りを24時間周遊できる街にすること、食を中心にいろいろなジャンル(お土産屋さんにランチを提供する飲食店やバー、お菓子屋等など)のお店が連なる通り小さな世界都市にすることが夢でした。そのための第一歩として一本杉川嶋オーベルジュプロジェクトを皮切りに発展させていく予定でしたが、今回の地震でゼロに戻ったどころか、マイナスからのスタートとなりそうです。

まだまだ道のりは長いです。何度も何度も次から次へと試練が待ち構えていて、心が折れそうになります。ピンチはピンチですが、この大ピンチを必ず乗り越え、更にパワーアップしていきたいと思います。

食で元気をお届けできるよう、七尾市から、内側からたくさんの元気を発信していきたいと思います! 外側からの元気はたくさんいただいてはいますが、実際に被災している人たちが元気でないと復興できないと思いますので、僕たち料理人ができること、内側から元気になってもらえることをしていきたいです。

一本杉川嶋が街の希望となれるよう灯火を燃やし続けていきたいと思います。

食関連の寄付・支援先

Facebookグループにまとめられている食関連の寄付先情報の一部を記載します。また、各シェフへの直接支援も広がっているようです。お店の再開に向けてかなり重要な支援になりますので、お店やシェフのSNSもチェックしたりDMでお問い合わせしてみていただければと思います。

また、2月からはREADYFOR(https://readyfor.jp/)で「一本杉 川嶋」のクラウドファンディングも開始するそう。こちらも要チェックです。

一本杉 川嶋 Instagram:https://www.instagram.com/ipponsugi_kawashima/

※県や市、Yahoo!募金など検索できるものは除いています。
※寄付・支援はホームページやSNSなどで内容をよくご確認の上、ご自身の判断の元お願いします。

■北陸チャリティーレストラン
用途:被災地で炊き出しをする能登・金沢のシェフの活動費になります。

<口座情報>
金融機関:ゆうちょ銀行
支店:三ーハ(読み サンイチハチ)
店番:318
預金種目:普通預金
口座番号:2059061
口座名:ホクリクチャリティーレストラン

ゆうちょ銀行からの振込は下記
記号:13110
番号:20590611

■日本飲食団体連合会
用途:「石川県令和6年能登半島地震災害義援金窓口」をはじめ、飲食店や食産業に携わる事業者・団体へ食団連で決定し、100%寄付をさせていただきます。

<口座情報>
金融機関:三井住友銀行
支店:青山支店
預金種目:普通口座
口座番号:7376525
口座名:一般社団法人日本飲食団体連合会

■石川県酒造組合連合会
用途:石川県の被災された酒造蔵元への支援。

<口座情報>
金融機関:北國銀行(ほっこくぎんこう)
支店:金沢城北支店
預金種目:普通預金
口座番号:036977
口座名:イシカワケンシュゾウクミアイレンゴウカイ

■富山県酒造組合
用途:富山県の被災された酒造蔵元への支援。

<口座情報>
金融機関:北陸銀行
支店:富山丸の内支店
預金種目:普通預金
口座番号:6046799
口座名:トヤマケンシュゾウクミアイ ノトハントウジシンシエンキンウケイレコウザ

■日本酒造組合中央会
用途:被災された蔵元が所属する各県酒造組合を通じて、被災された蔵元へ届けます。

<口座情報>
金融機関:三井住友銀行
支店:日比谷支店
預金種目:普通預金
口座番号:8646691
口座名:ニホンシュゾウクミアイチュウオウカイ ギエンキンクチ カイチョウ オオクラハルヒコ

文:川嶋 亨・食べログマガジン編集部