新保屋

細平打そばをスズッとたぐると、舌や上顎が「痛いっ」と、叫んだ。
辛いっ。とにかく辛いっ。
日本最強のおろしそばである。

福井の名物おろしそばには、2パターンの食べ方があって、そばつゆに大根おろしを入れてそばにつける食べ方と、大根おろしのつゆをそばにぶっかける食べ方である。
こちらは後者で、まず鰹節とネギを上にのせたそばが皿に盛られ、運ばれてくる。

次になみなみと大鉢に張られたそばつゆが運ばれる。大根おろしが入れられ、よく混ぜられたつゆである。

たっぷりと大根おろしが入っているのだろう。つゆは黒に近い茶色なのに、大根おろしの白が混ざって薄茶色となっている。
つゆをすくって、そばにかける。2玉分くらいかけ、よく混ぜて手繰る。

ああ。
甘いつけ汁の向こうから、辛味大根のおろし汁がやってきては口の中を殴打する。
その甘みと辛みのバランスがクセになる。
相当辛い。
これはある種の、良性マゾヒズムである。絶対安全とわかっている、危険な喜びである。そば界のバンジージャンプである。
そばを手繰るたびに味覚が刺激され、精神が引き締められる。ちなみにビールを飲んだら、舌がビリビリする。
いただいのは2月だった。
「辛いっ。辛いっ」と言いながら食べていたら、店のおばさんが言われた。
「辛い?そうねえ。でもこれでも夏大根の辛さの半分くらいよ」
そうなのか。
この辛みを堪能するためには夏にまた来なくてはいけない。
二日酔いだったが、一気に昨日の酒が逃げていった。みんな「辛い、辛い」と言いながらも、箸を持つ手が止まらない。いや逆に、加速していく。

タマモクロス
出典:タマモクロスさん

「天ぷらそば」や「にしんそば」もあるが、誰も頼んでいない。一同、おろしそばである。隣に座った地元の若者たちは、なんとおろしそばの大盛りを3人前ずつ頼んで、軽く平らげていた。
わかるよわかる。こりゃあクセになるわ。

文・写真:マッキー牧元