〈噂の新店〉生まれ変わったアマン東京のレストラン。「アルヴァ」はどう楽しむのが正解?

世界中のアマンのイタリアンが「アルヴァ」に

大手町のラグジュアリー・ホテル、アマン東京の33階にあるイタリアンレストランがリニューアル。2018年1月26日、新コンセプトのレストラン「アルヴァ(Arva)」が誕生した。

 

世界中に31軒の小規模なラグジュアリー・リゾートを展開しているアマンの元祖、「アマンプリ」(タイ・プーケット島)は、今年で開業30年。これを機に生まれた「アルヴァ」は、アマンのイタリアンレストランの新ブランドだ。30周年に先駆けて昨年10月に「アルヴァ」の一号店が誕生したのは、イタリアのアマンヴェニス。続いてプーケット島のアマンプリ、上海のアマンヤンユンにも「アルヴァ」がオープンし、今年1月には遂にアマン東京にも「アルヴァ」がオープン。アマンのその他のホテルのイタリアンも、今後「アルヴァ」としてリニューアルする予定だ。

 

この「アルヴァ」のコンセプトは、「トレンドを追いかけることのないタイムレスな食空間」と「伝統的なイタリア料理への回帰」。その土地で最良の素材を用い、シンプルで誠実な料理を提供するのが、全「アルヴァ」共通のスタイルだ。

アマン東京33階の「アルヴァ」は、1名でアラカルト1〜2品とワイン1杯という気軽な楽しみ方もできるレストランだが、2名以上で色々楽しむなら、お値打ちなのは断然コース料理。ディナータイムのコースは3種類あり(9,000円〜)、中でも約8品構成の「収穫」(14,000円、2名〜)は、前菜2種とメイン料理、デザートをシェアして楽しむスタイルが好評だ。コースには様々な旬の野菜が取り入れられるため内容は随時替わるが、フルチェンジするのは2カ月おき。たとえば3月は、前菜は「ラディッキオと有機野菜のインサラータ パルミジャーノ レッジャーノ ヴィンコット」と「プンタレッラ」が登場する。

前者はヴェネト地方特産のイタリア野菜“ラディッキオ”と静岡県産のカブを合わせたヘルシーなサラダ。全体にかけられたヴィンコットソースは、南イタリアのブドウの汁を煮詰めた甘みのあるソースで、その甘みとラディッキオのほろ苦さが抜群の相性だ。さらに味の奥行きをもたせるために上からパルミジャーノ レッジャーノをかけるなど、味わいは緻密に設計されているが、盛り付けは無造作。後者の「プンタレッラ」に至っては、ローマの冬野菜“プンタレッラ”を丸ごとテーブルに出し、ゲストに自分でちぎらせ、特製のバーニャカウダソースにつけてスティックサラダのようにかじらせるという具合だ。

使い勝手のいい、通いたくなるレストラン

「コンセプトはファミリースタイル。シンプルでありながら通いたくなる、リピートしたくなる料理を心がけています」と語る平木正和総料理長は、イタリアで計17年間研鑽を積み、最後の3年間はヴェネツィアの5つ星ホテルの総料理長を務めた凄腕シェフ。守備範囲はガストロノミーから家庭料理まで実に幅広く、コース料理には、シェフの引き出しの多さを感じさせるような、バリエーション豊かな料理が登場する。

たとえばパスタは、平木シェフがイタリアで習った方法で作る「ラビオリ カチョ エ ペペ 黒胡椒とペコリーノ ロマーノ」。本来はスパゲッティで作るローマの郷土料理「カチョ エ ペペ」をアレンジし、ラビオリの中にペコリーノチーズと胡椒のソースを詰めたものだ。丸ごとひとつ口に入れれば、薄い生地の中からチーズソースが溶け出し、リッチなコクが広がるものの、さりげなくレモンの風味が利いているため後味は軽やか。一見シンプルだが、見えないところに工夫が凝らされているのが心憎い。

メインは、魚料理または肉料理の二択で、写真の魚料理は「カマスのグリル カリフラワーのアッローストとアッチューガ」。主役は脂ののったカマスのグリルだが、特筆すべきは丸ごと1株ローストされたカリフラワー。料理をテーブルに運ぶスタッフは、まず熱々のカリフラワーにアンチョビ(アッチューガ)バターをかけて中まで浸透させ、次にガーリックトーストをかけ、イタリアンパセリを振ってから切って取り分けてくれるのだが、カリフラワーの柔らかさといったら、ナイフを入れる時に一切抵抗を感じないほど。ここまで柔らかくするため、平木シェフは2時間かけてカリフラワーをローストしているとか。

「野菜に火を入れる時はとことん加熱し、クタクタに柔らかくするのがイタリア流。ゆっくり火を入れるほど甘みが凝縮するんですよ」

素朴なプレゼンテーションのスローフードを満喫すれば、気分はまるでイタリアの田舎を旅しているかのよう。

コースの最後には、平木総料理長が氷を詰めた木製の桶で作る自家製アイスクリームが供され、そのアットホームな光景にも心が和むはず。平木氏はカウンターの前のオープンキッチンに立つことも多く、ゲストとの会話に興じることもあるという。シェフとゲストの距離がこれほど近いホテルも珍しいが、これは元々リゾートとして出発したアマンのDNAが為す業だろう。

天井高8mの「アルヴァ」の店内は、リラックスした空気に満ち、あたかも都会のリゾート。アラカルト1〜2品とワイン1杯というような使い方もOKゆえ、ふと美味しいものを食べたくなった時や、日常からエスケープしたい時などに、是非どうぞ。

取材・文:小松めぐみ

撮影:大谷次郎