〈これが推し麺!〉
ラーメン、そば、うどん、焼きそば、パスタ、ビーフン、冷麺など、日本人は麺類が大好き! そんな麺類の中から、食通が「これぞ!」というお気に入りの“推し麺”をご紹介。そのこだわりの材料や作り方、深い味わいの秘密に迫る。
今回ご紹介するのは、華道「未生流笹岡」三代目家元であり、京都の食に精通した笹岡隆甫さんがおすすめする「鴨せいろ」。ひたむきなそば職人が作る、石臼挽き手打ちそばと鴨油たっぷりの鴨汁。鴨せいろ好きな京都人である笹岡さんお墨付きの一軒だ。
教えてくれる人
笹岡 隆甫
1974年京都生まれ。京都大学工学部建築学科卒業。舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求し、日本-スイス 国交樹立150周年記念式典をはじめ、海外での公式行事でも、いけばなパフォーマンスを披露。2016年には、G7伊勢志摩サミットの会場装花を担当した。主著に『いけばな―知性で愛でる日本の美―』(新潮新書)。
喧騒から離れた町で、そば通も一目置く実力店
京都の北山大宮という、観光の方はわりと行きづらい洛北エリアにある「おがわ」。なのに連日店内は満席で、時には暖簾の前に並ぶ人も。
それもそのはず、同店はそば好きの間で必ず名前が挙がる人気店で「食べログ そば 百名店」にも選出される実力派。オープンは2003年ですが、開店当初から話題になっていました。
店主の小川幸伸さんはとても控えめで「何も特別なことはしていないので……」とあまり表に出ない謙虚な方。今回は笹岡さんのご紹介ということで登場してくださいました。感謝……!
笹岡さん
ご主人と奥様のお2人で切り盛りされており「混むとお待たせするなどご迷惑をおかけしてしまうので……」とメディア登場も控えておられます。お客さん思いなんですね。
店主の小川さんは「あるきっかけ」でそば打ち職人を目指した
小川さんとそばとの出会いのきっかけは実にユニーク。たまたま催事でそば打ちを体験する機会があり、自分で打ったそばを持ち帰ったところ、そのおいしさに感動。「打ちたてはこんなにおいしいのか!」と自ら趣味で打つようになり、富山のそばの名店「達磨」へ修業に。
メニューは潔くそばと軽いアテのみ。「おろし」も人気ですが、京都人の大好きな「鴨せいろ」は冬でなくてもスタンバイしているのが魅力。ただ、夏季限定の「夏そば」を出している時はお休み。
笹岡さん
夏季にお休みされるのが玉にキズ、と言ったところですね。「まだなんですよ、9月ぐらいには」が挨拶代わりです。
「十割が良いというわけでも、産地で味が決まるというわけでもない」
こちらが鴨せいろです。そばは全て「外二(そとに)」という、そば粉が10割、つなぎが2割の配合です。なぜ外二にしたのですか?と尋ねると「初めての方でも食べやすいと思って。十割そばだから良いというわけではなく、その時のそばが良ければおいしくなるものかなと」との答え。
使うのは群馬県産の農家から仕入れる無農薬のそば。殻を剥いて芯を残した「丸抜き」を毎朝石臼挽きして、製麺室で手打ちしています。これもなぜ群馬産なのかと聞くと「ここの農家さんのそばが気に入ったから」とのこと。
何となく「十割=本格的」とか「信州産は旨い」などとそばに対してある種の信仰が浸透してしまっているのかもしれません。そばも作物なので育て方、その時の気候、作る人の技術によって味は全く変わるものなんですね。
そばは大きな釜で茹で、細切りなので一瞬で上げて水で締めます。撮影している間にも乾いてしまうため「すぐに食べてくださいね」と小川さんの優しいお声掛けが。
笹岡さん
そばはやや細め。端正で美しく、香りが良いんです。
この鴨汁が格別です。出汁はどんこ椎茸、羅臼昆布、枕崎産鰹節、鯖節で。そばの香りもつゆの香りもお膳の上でふわりと立って「香りだけでもおいしい……」とうっとりしました。