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大石さんが心をつかまれた料理はこちら!
肉の味を堪能できる、本格派の「ブティファラ」
いちおしはカタルーニャのソーセージである「ブティファラ」。材料は平田牧場の三元豚と塩胡椒だけと最小限だ。生ソーセージの状態からオーブンに入れて、詰めたて焼きたてを提供。粗びきなので噛むほどに豚の味を感じられて、素朴ながら奥深い。
大石さん
つけ合わせやソースもなく“これでワインを飲んでくれ”と直球なのが最高です。カタルーニャ人が食べて“山の味がする”と言ったそうですが納得。自然に囲まれた修業先の環境が、シェフに染み付いているのかなとも思いました。こういうソーセージを手頃に日本で食べようと思ってもなかなかない。材料がシンプルだからカタルーニャ産のナチュールとも相性抜群。気分は現地の大草原です(笑)。
泡酒を誘うコロッケで今夜のつかみもばっちり!
ブティファラと並んで前菜の定番となっているのがコロッケだ。スペインで食べられるコロッケと同様に極力薄い衣で俵形。中には干し鱈にベシャメルソース、少しのジャガイモが入り、パン粉まで自家製。サクッとした衣と中の柔らかさのコントラストが絶妙だ。
大石さん
クリーミーな中に干し鱈の旨味やジャガイモの香りを感じて、コロッケってバランス勝負なのだなと実感します。泡酒を飲みたくなるけど、白ワインも合う。お酒を飲んでいるうちに、ひとりでパクパク4個は食べられちゃいます!
煮込み料理「フリカンド」からは“山”を感じる
「フリカンド」はカタルーニャでよく作られる煮込み料理。乾燥きのこを煮込んだものに、ナッツ類やニンニクが入った“ピカーダ”というソースを加えて作られる。
「ナッツが入るとカタルーニャらしくなりますね」と増渕さんが言うように、現地では松の実やアーモンドをはじめ、ナッツが多用される。フリカンドはピカーダのコクと肉肉しさが調和して、ボリュームのある赤ワインが欲しくなる食べ心地だ。
大石さん
茶色い料理好きとしてはたまらない煮込み。きのこ、ナッツ、牛と内陸で取れる食材が出会って煮込まれおいしくないわけがない。ほろほろのお肉にこっくりとしたソースがよく合います。米も欲しくなっちゃう。茶色いお皿に小さな花が咲くさり気ない盛り付けにも惹かれますね。
日本の魚介を使った〆の炭水化物もお楽しみ
パスタのパエリア「フィデウア」やイカ墨のパエリア「アロス ネグラ」など、カタルーニャらしいお腹を満たす料理にも注目。仲間と来て両方頼むのもおすすめだ。
「フィデウア」の具材はその日によるが、こちらはイカを使ったもの。イカの身やワタに玉ねぎ、ピーマン、トマト等を加えたベースでパスタを炒め、そこに鯛のスープを注ぎ仕上げている。中央はアリオリ。鯛のスープを使うのが日本らしく、イカの風味を品よくまとめる。
大石さん
ほろほろと口の中でバラける細いパスタの食感がたまらない。同時に具材の香りがして、熱々の出来立てをすぐに食べたい一品です。フィデウアやパエリアはここのように具材がごちゃごちゃしていないのがよいですね。炭水化物だけどつまみ的存在でもあります。
職人として17年以上追求し続けるプリンも必食!
デザートの名物は「私を狂わせるフラン」という名のプリン。「作るのが難しくて私が狂っているという意味なんです(笑)」と増渕さん。卵、牛乳、砂糖のみを使い、目指すは“なるべくやわらかいフラン”。蒸し器での火入れが難しく、毎回同じようにはいかないとか。
「スペインでは硬いのがトラディショナルだけれど、向こうでやわらかいものを作ったらみんなが“こんなにおいしいのか”と驚いて。そこから私のフランへの追求が始まり、シェフにも大事なお客さんが来る度に“出来のいいフランを頼むぞ!”と言われていました。やっと形を保つぐらいが理想なので、いまだに少し崩れて作りなおすこともあります」と増渕さん。
シンプルなだけに材料にこだわり、卵は相模原の平飼い卵の「さがみっこ」、牛乳は低温殺菌でナチュラルな味わいのものを使用。
大石さん
口に入れるとすっと消えて風味が余韻となるフラン。よく形を保っているなと思うほどやわらかい。とても繊細で優しい気持ちになります。最近は硬いプリンが流行りですが、増渕さんほどやわらかいプリンを長年極めようとしている方もいないのでは?
誰もがバルセロナは知っているが、「カタルーニャ」と言われると実態がつかめない人が多いかもしれない。そのヒントを増渕さんの作った店では感じられるはず。
遠い田舎のエッセンスが入っている料理だが、日本人が食べてもどこか懐かしくほっとする。それは飾らない一皿の裏にある丁寧で緻密な仕事あってこそ。
食べて飲んで笑って、スペイン人みたいに“時間を楽しむ”ディナーがここにはある。気の置けない友人やパートナーを誘って、玉川学園まで足を延ばしてみては?