ぷっくりツヤツヤな仔牛肉に、季節のハーブと春の山菜が寄り添う

3月のメインの肉料理には、シェフオリジナルの解釈で作り上げる「仔牛のブランケット フィーヌゼルブ」が登場した。ブランケットというと、肉を出汁や香味野菜とともに煮て、小麦粉や生クリーム、バターで味付けしたフランス料理だ。しかし、國長シェフはバターの中で仔牛を泳がすように火入れすることで、ブランケットのように表面がうっすら白い色合いに仕上げることからこの名をつけた。

 

繊維が細かい仔牛は、本来の身のやわらかさを引き出すのが難しい。火入れしすぎると硬くなってしまうし、低温調理器を使ってしまうとハムのような仕上がりになってしまう。そこでシェフは、2段階の火入れを行う方法を取った。ブルゴーニュ産の仔牛のロース肉約140グラム(2人分)に、塩をして香りづけにヘーゼルナッツオイルとバターで1時間ほどマリネした後、たっぷりのカルピスバターの中に入れ、弱火のフライパンで30分ほどじんわり肉を包むような優しい火入れを行う。その後、サラマンダー(電気ヒーターによって、グラタンなどの料理に仕上げの焦げ目をつける熱器具)を使い30秒〜1分間隔でコロコロ肉を転がしながら、20〜30分程度じっくりと低温で火を通していく。その結果、肉をカットしてもジュースがこぼれ出ることなく、表面がぷっくりと膨れ上がる最高の仕上がりを実現した。

ソースのフィーヌゼルブは、仔牛のフォンドボーにコニャック、苗目さんの一画で、シェフやスタッフ自ら野菜などを育てている自社農園で取れたハーブを、この日はセルフィーユ、イタリアンパセリ、ディル、エストラゴンを使用。つけあわせにはこごみ、うるいをサッと茹でてオリーブオイルで和えた春の山菜を添え、仔牛のミルキーさに合わせ、熟成が進んだコンテチーズを削って皿に敷いた。

ナイフで押さえただけでプルプルとみずみずしさが伝わってくる仔牛は、驚くほどやわらかい食感で、ピュアでミルキーな味わい、芳醇なカルピスバターのコクが広がる。4種のハーブの爽やかさに、ほろ苦い山菜が芽吹の季節を思い起こす。

フレッシュな香りを追求し、ゲストが来店してから仕立てる滋養のコンソメ

フレンチでは一般的にコースの前半でスープが登場するが、ここではデザート前の締めとしてコンソメが登場する。「ル・マンジュ・トゥー」でコンソメ番を長年務めた國長シェフがたどり着いたのが、素材の味を存分に引き出すだけでなく、鶏の新鮮な香りまでをも楽しめる、炊いてから2時間後のコンソメだった。

使うのは、福島県産の川俣シャモの中でも、卵を産まなくなった母鶏のロードアイランドレッド種。母鶏の肉は硬く、食肉としては使われないものだが、骨に関しては成長していて味が良いことに着目し、コンソメにして強い味わいを引き出すことにしたのだ。

丸鶏を捌いて、骨はオーブンで焼いて余分な油を落として香ばしさを足してから、出汁を取る。ひき肉にしたモモ肉、胸肉をこねて合わせ、出汁と合わせコンソメに仕立てる。通常のコンソメでは野菜や卵白を使うが、鶏だけの味わいを引き出したいと味付けは塩のみ。鶏皮は水で6時間炊き、濾してから油を取り出して火にかけて、上澄みの部分を鶏油として取っておく。お皿にはグリーンピースやスナップエンドウなど季節の野菜を盛り、そこに鶏の味を立体的に楽しめるよう鶏油をかける。ゲストの目の前にお皿がサーブされてから温かいコンソメを注ぐことで、鶏の豊かな香りが湯気とともに匂い立つ。

澄んだコンソメは鶏と塩だけの味付けとは思えないほど、コク深く力強い味わいだ。食べ進めるごとに鶏油も混ざり、うま味が増していく。そして小玉ねぎの中から、鶏ひき肉が現れるというサプライズもある。フレンチのコース料理を食べ終わった後の胃腸に優しく染み渡る、滋養のスープだ。

 

大木さん

コースの最後に仕上がるよう、時間を逆算して作っているので、澄んだ滋味、香りも印象深いもう一つのスペシャリテです。さらに最近は客のリクエストにより、セモリナ粉にトリュフを練りこんだ麺も登場。極上の“つけ麺”も楽しめます。

パスタの追加は+1,000円

大木氏が極上のつけ麺と評する自家製パスタ、3月まではイタリア・マルケ産の黒トリュフを使ったトリュフパスタが提供される。シェフはこれまでコンソメの良さを損なわず、引き立てるものとして、焼きリゾット、おこげ、揚げ麺などあらゆるタイプを試してきた。しかし開業半年ほど経っても定番メニューには至らず、シェフがやっと納得できたのが自家製のちぢれ細麺風のトリュフパスタだった。黒トリュフにセモリナ粉と水、オリーブオイルで生地を作り、1日寝かせることでトリュフの色と香りをパスタに移している。芳しいトリュフは力強いコンソメの味わいにも対等に渡り合えるが、スープの澄んだ味わいは壊さない上品さが魅力だ。

ちなみに4月からは菜花、もしくはケールを使ったグリーンパスタが登場する。

シェフの料理に合わせ毎回新たなペアリングを提案する若手ソムリエ、パティシエにも注目

 

大木さん

オープンキッチンは、営業終了後にシェフ自ら換気扇まで拭くというくらい清潔です。開放的でありながら、落ち着いた色調の店内は、椅子にいたるまで選び抜かれていて、ハレの日の楽しさを体感できます。シェフの料理を活かしきるよう、的確で印象深いドリンク選びをするサービスや、今後さらに伸びるのではと思わせるパティシエも注目です。

ドリンクを中心にサービスや、テーブルウェアなどの選定を行うのは、國長シェフと同じく30代前半のマネージャー・高木皓平氏。以前も一緒に同じ店で働いていたそうで、息の合ったサービスが魅力だ。

ワインはクラシックなフランス産をメインにしつつも、独自性の高いシェフの料理にも寄り添うペアリングを行っている。地下のセラーを含め、日本産をはじめとしたフランス産以外のワインなど常時500種類ほどのワインが揃う。

クラシカルなフレンチの技術がベースにありながらも、生産者や日本の食文化に真摯に向き合い、その食材、その季節ならではの美味を最大限引き出す調理法をどこまでも突き詰める國長シェフ。どの料理にも、その食材をその料理で使う意味、その盛り付けをする意味、その器を使う意味など、強いシェフの意志が感じられる。あくなき探求心を持つシェフが生み出す、「ゲスト」「スタッフ」「生産者」という3つの顔に敬意を示す料理をぜひ五感で味わってほしい。

※価格は税込・サービス料別。

撮影:佐藤潮
文:中森りほ、食べログマガジン編集部