食感や味わいの異なる3種の海藻に、牡蠣のミネラルなうま味を合わせたタルト

3月のアントレとして振る舞われたのは、旬の海藻3種を使った「海藻のタルト」。シェフが10年以上お世話になっているという、東京や大阪の星付きシェフ御用達の北海道函館市・マルヒラ川村水産の川村さんから仕入れた海藻だ。全国的に取れる布海苔を除き、銀杏草、マツモはほとんど現地で消費されてしまうような海藻で、なかなか東京ではお目にかかれない。それぞれサッと下茹でして、青い味わいのするオリーブオイルで和えている。

「食感と香りがそれぞれ異なるので、その違いを楽しんで欲しい」というシェフの思いから、3種の海藻を引き立たせるために、海藻を食べて育つ牡蠣の中でも、海藻の味がしっかりと感じられる岩手県広田湾産の牡蠣をソースに使用。ソースは38%と乳脂肪分が低い生クリームと牡蠣を合わせて火入れし、昆布色に仕上げている。タルト、ソース、海藻の間にはアクセントで日向夏の果汁ゼリーを仕込み、仕上げに上からオレンジのパウダーを振りかけ清涼感と彩りをプラス。さらにタルト生地にはオイスターソースを練り込んで焼き上げることで、より海藻との親和性を高めた。

薄いタルト生地はパリパリで、肉厚な銀杏草、コリコリと小気味よい布海苔、ねっとりと粘り気のあるマツモの食感の共演が楽しい。牡蠣のソースのコク、ミネラルなうま味を日向夏ゼリーが爽やかにアシストし、アミューズの流れのままシャンパンと合わせたくなる。

えのきが主役に躍り出るスペシャリテ「極エノキのソーセージ」

同じくアントルメには、通年登場するシェフのスペシャリテとして、意外な食材を主役に据えた料理がある。「極エノキのソーセージ」だ。使用する高知県の横田さんが手がける「極みえのき」は、培地に海洋深層水を使用することでカルシウムなどの栄養素が豊富で、通常のえのきと比べてもうま味が強く歯ごたえも良い。キノコ独特の臭みが無く甘みが際立っているのが特徴だ。

この「極みえのき」を一度冷凍しうま味を引き出し、えのきの上部は粗く、石突きに近い方は細かく刻んで塩・胡椒で味付けし、フライパンで焦げ目がついたら混ぜるという火入れを30分間繰り返す。えのき8割に対し、細かくひいた豚ひき肉を2割ほど合わせ、腸詰にし大きな扇風機で1時間乾燥させ、弱めの中火にしたフライパンでコロコロ転がしながら、破裂しないよう丁寧に火入れをして仕上げている。

そうして仕上げた「極エノキのソーセージ」は、歯ごたえのある食感を最大限に引き出しつつも、えのきのエグ味を出さない火入れの妙に感嘆する。口の中で凝縮されたえのきのうま味が弾け、芳しい香りが漂う。少量混ぜ合わせた豚ひき肉がソーセージとしての完成度を高めつつ、しっかりと主役のえのきを讃えていることに、シェフのとてつもない食材への敬意を感じた。

合わせるソースは野菜の皮や端材を2日間煮詰めて、 コーンスターチでとろみをつけた野菜のブイヨン。季節に応じて作る料理の内容も変わるため、このソースに使用する野菜の端材も変わり、ソースの風味も変わってくる。訪れた3月はニンジンなどの根菜類、ハーブの茎も入っており、しっかり濃い色のソースだが、ハーバルな苦味と根菜のやさしい甘みがふわりと広がった。

さらにソーセージには、つくねに卵黄を合わせる感覚で、うずらの卵の半熟目玉焼きが添えてある。パセリの緑、砕いたピンクペッパーのピンク、卵黄の黄色が可憐な彩りで、ソーセージに軽やかな変化をもたらす。

 

大木さん

オープン当初からのスペシャリテなのですが、その進化が止まらないと食通の間でも評判です。配合にも日々研究を重ねていて、よりえのきとソーセージの旨味の一体感、香りが素晴らしくなりました。ソースも炒め方も季節によって変えているので、季節感も共に味わうと、より思い出深い一皿になると思います。