食べログ グルメ著名人」で渋谷区初のCEO(Chief Eat Officer)を務める小宮山雄飛さんに、デイリー使いできて満足度も高い、東京の“料理がおいしい酒場”を教えてもらう連載! 第9回は、池袋にあるディープな中国料理店「沙漠之月」のおいしいポイントを教えてもらいます。

【東京メシうま酒場 vol.9】「沙漠之月」

池袋にめちゃくちゃディープな中華料理屋さんがあります。ディープと言っても、最近でいう「ガチ中華」ともちょっと違う。どの駅からも少し遠い上に、目立たないビルの3階。調べて行っても最初はどこがお店か分からないでしょう。

店内はスナックの居抜きだろうか、カウンター5〜6席のみ。なかなかふらっと入るにはハードルの高いお店だけど、ここが他では食べられない絶品中華が味わえる超名店なのです。

店主の英英さん

こちらのお店の魅力は、店主の英英(インイン)さんの素敵さ! それに尽きます。終始楽しい話をしながら、すべての料理を一人で作り上げていく。食べもの以前に、英英さんのライブショーをカウンターという特等席で楽しめるお店と言ってもいいでしょう。

「前菜」300円

こちらの料理は英英さんの故郷である甘粛省の味付け。四川よりも痺れや辛さは少なく、あえて言うなら酸っぱ辛い。前菜で出てきた野菜の和え物も、程よい酸味とニンニクネギ油の香りが良く、たしかに香辛料が前面に出るような料理ではなく、どこか日本料理にも通じる穏やかなおいしさ。

「红烧排骨」600円

このお店に来たら、メニューを開く必要はありません。その日にある食材を、英英さんがお客さんのリクエストを聞きながら料理してくれるのです。

「メニューにあるものは全部できるけど、それ以外もなんでもできるよ!」といううれしい言葉どおり、例えばメニューにある料理でも、この食材で作ってとか、辛さを抑えてとか、そんなわがままも聞いてくれるのです。

1品目は豚軟骨の煮込み。骨までしっかり味の染み込んだ豚肉は、八角の香りが良く、いかにも中華な一品。

白酒「古河州」1,500円(グラス)

せっかくならお酒も甘粛省のものをということで、いただいたのが白酒(パイチュー)・古河州。

日本では手に入らない貴重なお酒で、なんとアルコール度数52度! 恐る恐る飲んでみると、これが実にフルーティー。白酒ってもっと無味無臭なイメージでしたが、これはふくよかな味で、すっと入って行きます(でも52度だから、気をつけましょう)。

「西芹百合」1,500円

「今日は百合根があるから炒めようか」と作ってくれたのが、百合根とセロリ・パプリカの炒め物。シンプルな塩味で、ほっとする家庭の味。

「韭黄肉丝」1,200円

「今日、おいしい黄ニラが入ってるけど、どうする?」

そうなんです、英英さんの決めゼリフは「今日◯◯あるけど」なんです(笑)。その季節、その日のおいしい食材を、あとは煮るでも蒸すでも炒めるでも、お客さんの好みに合わせて作ってくれる。英英さんのおうちにお邪魔しているような気分になってきます。

ということで、黄ニラは肉の細切りと炒めてもらいました。黄ニラのシャキシャキ感と甘味、それに合わせて細切りした豚肉がよくタレと絡んでおいしい!

「塌菜木耳炒鸡蛋」1,000円

お次は町中華でもよく見かける、キクラゲの玉子炒め。「何か、青いものも入れましょうか。なんでも合うよ、チンゲンサイ、空芯菜、ターサイ……」。ここら辺の自由さがうれしいです。ということで、ちょっと珍しいターサイを一緒に炒めてもらいました。

中華定食で出てくる味濃い目のキクラゲの玉子炒めと違い、あっさり自然な塩味。ご飯ではなく、お酒のツマミになるようにという気遣いでしょうか。

立派なターサイと英英さん

おいしい料理に合わせて、さらに強いお酒に挑戦!

白酒「紅星 二鍋頭酒」500円(グラス)

はい、来ました56度! これはいかにも白酒といった感じで、カーッと力強い味と香り。しっかり景気をつけて、お料理も後半戦へと向かいます。ということで、名物の餃子をお願いすると……。

生地を取り出し、切るところから!

なんと、冷蔵庫から細長くまとめた生地を取り出し、切るところから始まりました! テレビとかで見たことあるやつです。聞けばお店で使う餃子の皮も、麺も、すべて英英さんの手作り。その日の朝に粉から練っているという。

「甘粛省の家じゃ、皮も麺もみんな家で作ります、普通です」。 なるほど、これぞ本場の家庭料理なんですね。

みるみるうちに、餃子の皮に

目の前で生地を切って皮を作り、餡を包んで作った餃子をその場で茹でて。これがおいしくないわけありません!

正真正銘作りたて「猪肉韭菜虾餃子」400円(6個)

豚肉と海老のミックス餃子。中国の醤油・黒酢に加え、自家製のラー油(これがめちゃくちゃおいしい!)をお好みでつけていただきます。

自家製ラー油だけでいってみます

めちゃうま!! 茹でたてプルプルの皮に、豚肉と海老の旨味が詰まった餡。これだけ、いくらでも食べられそうなおいしさです。自家製のラー油がまた、ナッツやニンニクの香ばしさがあって、おいしさが倍増します。

「麻婆豆腐」700円

ここまで優しい味のものが多かったですが、辛い料理もあります。お次は名物の麻婆豆腐。

「うちのは辛いよ!」という言葉通り、確かに辛いのですが、辛さがめちゃくちゃすっきりしているのです。麻と辣が、すごいインパクトながら、食べたあとは頭の上にすっと抜けていく感じ。

ほんとめちゃくちゃおいしい。餃子に続き、これだけをずっと食べていたい一品です。

自家製の麺

〆の麺は、細い麺をさらに細かく切った自家製麺。やはり中国の麺文化は奥が深い! しかもこれが専門店ではなく、一般の家庭で作って食べられているというのですからすごいです。

「猪肉小飯」800円

先ほどの細かく切った麺を使った、スープご飯。 実際にご飯=お米は入っていませんが、食べ方としてはまさにスープご飯。

れんげですくって、雑炊のような感じでいただきます

酸味とちょっぴり辛味が利いた、あっさり味のスープと、ぷるぷるの食感の細かい麺が実に合って、おいしい! 様々な食材が、サイズを合わせて細かく切った状態で入っているのですが、聞いてびっくり。

麺の他に、茄子・大根・エリンギ・ニンジン・キクラゲ・百合の花・青ネギ・ターサイ・春雨。なんと、そんなに入っていたの!

どうりで、シンプルながら様々な味と食感を感じたんだ。甘粛省のおふくろの味、脱帽です!

お土産に激うま自家製ラー油「月ラー」1,000円

英英ママの最高のおもてなしで、最初から最後まで楽しくおいしい、甘粛省のフルコースを満喫! 池袋のビル3階に突如広がる甘粛グルメワールド、あなたもぜひ体験してください。

※価格はすべて税込

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

※営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、最新の情報はお店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

撮影:GENIUS AT WORK

取材:小宮山雄飛

文:小宮山雄飛、食べログマガジン編集部