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〈食べログ3.5以下のうまい店〉
巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー! 食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。
食べログでは、口コミ数が少なかったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり、点数が上がると予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。
そこで、グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介するのが本企画。今回は食べログ グルメ著名人の本田直之さんから、名だたる名店を渡り歩いたシェフが率いるフレンチを教えてもらった。
教えてくれる人
本田 直之
ハワイ、東京に拠点を構え、日米のベンチャー企業への投資育成事業を行いながら、仕事と遊びの垣根のないライフスタイルを送る。これまで訪れた国は60カ国、200都市以上。屋台・B級から三つ星レストランまでの食を究め、著名シェフのコラボディナーなどのプロデュースも手がける。著書にレバレッジシリーズをはじめ「トップシェフが内緒で通う店150」「なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか」「オリジナリティ 全員に好かれることを目指す時代は終わった」他多数。
感度の高い人々が集う表参道の複合ビルに2020年1月オープン
本田さんが教えてくれたお店は「élan(エラン)」。表参道、ケヤキ並木の大通りに面した「GYRE(ジャイル)」の4階にある。そう、鉄板料理の名門「うかい亭」の表参道店をはじめ、グルメ、ファッション、アートなど感度の高いショップが入っている建物だ。
この施設に2020年1月、新たにオープンしたファインダイニングが今回紹介する「élan」。開業すぐにコロナ禍となったためか口コミの数が少なく、4.0以上の評価がほとんどだが、点数は3.13となっている。その知られざる魅力とは?
※点数は2022年10月時点のものです。
同店に足を踏み入れて、まず驚かされるのが自然味あふれる内観だ。手掛けたのは、フランスを拠点に活躍する建築家の田根剛氏。壁や柱の一部に土を用い、多彩な緑を生い茂らせた空間が、心地よい安らぎを与えてくれる。
本田さん
田根剛さんデザインの、森の中にいるような落ち着いた内装に、表参道のど真ん中とは思えない天井まで大きく取った窓から見えるアーバンな景色。グランメゾンに相応しい空間美です。
日本を代表するグランメゾンから受け継ぐエスプリ
料理人もスペシャリストだ。オーナーシェフの名は信太竜馬(しだりょうま)。辻調グループフランス校を主席で卒業したのち、ロアンヌの三ツ星店「MAISON TROISGROS(メゾン・トロワグロ/現トロワグロ)」で研修。帰国後も銀座の三ツ星店「L’OSIER(ロオジエ)」などで研鑽を積み、2012年からは銀座の二ツ星店「ESqUISSE(エスキス)」にオープンより参画し、やがてスーシェフに就任した人物である。
本田さん
最初は、信太シェフの輝かしい経歴が「élan」を訪れたきっかけです。「トロワグロ」「ロオジエ」「エスキス」と、彼が修業したレストランはすべて僕好みのお店です。
信太シェフに、名店を渡り歩いてきた中で心に残っていることなどを聞いた。すると、数ある中から一例として挙げてくれたのが「ロオジエ」のエスプリについて。「お客様の思いに寄り添い、応える気持ちですね。『ロオジエ』で学んだ働く姿勢は、私が料理人として生きる指針になっています」と語る。
「国内トップクラスのグランメゾンですから、重厚感もあるのですが、いっぽうでホームパーティーのような温かさもあって。その雰囲気を、お客様に接するサービスマンはもちろん、キッチンにいる私たちにも自然とつくり出させてくれるのが『ロオジエ』です」(信太シェフ/以下同)
おもてなしの心は、料理に関しても同様。一人ひとりの客に対しオーダーメイドのように仕上げ、食べた際の思いを想像する。信太シェフは「ロオジエ」の現・調理マネージャーの山下泉氏から受けた薫陶を振り返る。
「山下さんがよく言っていたのが、その一皿をお客様がどう召し上がり、どう感じるか。そのために、例えば食材を切る際にも、お客様が最後口に運ぶところまでイメージして作ることが料理人の仕事であるという考え方は、今でも強く記憶として残っています」
生命力を飛躍させ、ポジティブなエネルギーへと昇華する
また「élan」という店名は「エスキス」でエグゼクティブシェフを務めるリオネル・ベカ氏からいただいたものだという。これはフランス語で「想像力の飛翔」を表す哲学用語だが、そこに込めた思いを教えてもらった。
「生命力を飛躍させ、ポジティブなエネルギーへと昇華するイメージです。コロナ禍という思いがけない逆風もありましたが、今思えばいっそう当てはまりますし、まだスタートしたばかりの私のキャリアなども踏まえると、まさにぴったりな言葉だなと思っています」
信太シェフが自身のルーツを紡ぎながら具現化する、新たなるガストロノミーの世界。産地や素材、作り手などすべての思いを汲み、味覚を通して想像力を羽ばたかせるクリエーションはどんな料理なのか。ある日のコースから見ていこう。