「銀座 しのはら」の良さを引き継ぎながら、新たな試みにチャレンジ

「銀座 きた川」店内
店内はカウンター席のみ。10人まで。

銀座マロニエ通りのビルの3階に、9月1日にオープンした「銀座 きた川」。名前に冠されている北川とは「銀座 しのはら」の大将である篠原さんが東京進出前に営んでいた滋賀県の店を引き継ぎ繁盛させていた北川さんのことだ。

しかし、店名は店長の北川さんから取っているが、店は料理長の島袋さんとの2人がメインとなる。さらにここに二番手の桜井さんや焼場担当の金城さんも加わり、それぞれの得意分野を活かした料理が楽しめる店になっている。

「銀座 きた川」料理長
料理長の島袋さん。焼き物、揚げ物以外の料理全般を取り仕切る。

「銀座 きた川」のメニューは、コース1種のみ(3万800円)。2ヶ月に1回大きく変わり、スタートとなる9月は夏の名残りと初秋の味わいを楽しめるコースとなっている。なお、10月も基本は9月と同じメニューになるが、旬に合わせて食材などが少しずつ変化していく予定だ。

「銀座 きた川」料理
6品ある前菜のうちの一つ「赤貝の燻製ぬた和え」。

「銀座 きた川」では「銀座 しのはら」で培ってきた独創的な懐石料理に新たな挑戦が施されている。例えば前菜。魚介類を中心としたいくつかの料理の中には、燻製で香り付けした料理があり、存在感を見せていた。一般的に日本料理の香りと言えばゆずや山椒などを思い浮かべるが、ここでは燻製の独特の香りをポイントに据えているのだ。

「赤貝の燻製ぬた和え」は、ぬたで和えた赤貝を茶葉で燻ることで、茶葉のさわやかでありながら渋みもある香りが加わり、赤貝独特の風味を包み込んでいる。それでいて、赤貝の旨味はしっかりと引き出しているのだから、風味の相乗効果に驚く。

コースにはこのほかにも燻製した食材が時にアクセントとして、時に全体をまとめるようにして登場する。食材に合わせて様々なチップや茶葉を使い、風味を数倍にもさせていく試みと言える。

コース中盤を締める、天ぷらの名店で学んだ揚げ物

「銀座 きた川」料理
赤座海老の揚げ物。このまま食べても良いが、一緒に出てくるお酢をつけることでさらにおいしくいただける。

料理はその後、向付、椀と続き、しのぎでは大トロの炭火炙りが提供される。そしてコース中盤の軸として、北川さんが静岡の天ぷらの名店「成生」に研修に行って学んできた揚げ物が登場する。

北川さんは「銀座 しのはら」でも高い技術で揚げ物を担当していたが、研修によって食材ごとに異なる衣や揚げ時間など、これまでに学んできたことをより体系的に学ぶことができたそうだ。

「銀座 きた川」店長
揚げ物と握りを担当する店長の北川さん。

この「成生」への研修もそうだが、同店の職人たちは新店オープンにあたり、様々な店で研修を受けてきているのが特徴だ。揚げ物の前に提供される寿司は、その1貫のためだけに寿司店に研修に行っている。また、同店と同じビルに入っているフランス料理店にも赴いており、そこで学んだフレンチのソースの技術などが料理に絶妙なアクセントを加えているのだ。
異なるジャンルや専門店で学ぶことで料理一つひとつの完成度を高めているのが同店の強みとも言える。

「銀座 きた川」料理
赤座海老の天ぷらは、薄めの衣で外はサクサク、中はしっとりと揚がっている。

赤座海老は客の目の前で捌き「成生」仕込みのタイミングで仕上げる。殻ごと揚げることで水分が逃げ過ぎずにほどよく蒸され、しっとりとやわらかい出来栄えとなる。殻の香ばしい香りも引き立ち、海老の旨味を凝縮して味わうことができた。

そのお客様のためだけ。1回だけの器でおもてなし

「銀座 きた川」料理
大将、篠原さんのおもてなしの心を表す氷鉢は、若手にも引き継がれている。

「銀座 しのはら」で客の目と舌を楽しませてくれた氷鉢は、ここでも健在だ。手間暇かけて削り出してつくる器は時間が経てば溶けてしまう。たった1回限りの器は、贅沢なおもてなしと言えるだろう。

冷たい出汁に浸した素麺は、細めでコシのある「蜘蛛の糸」。そこに揚げた賀茂なすとみょうがが添えてある。氷の器なのでぬるくなることなく、最後まで冷たいままいただけるのがうれしい。

生から火入れしてプリッとした食感を生かした、すっぽんの串焼き

「銀座 きた川」料理
上から、身、皮、ネギ、肝、腸、身。あっさりとしたタレでいただく。

氷鉢でさっぱりした後の強肴は「すっぽんの炭串焼き串」。同店では焼き物にも力を入れており、特注の炭台を導入して、焼場を担当する金城さんも人気店で研修をしてきている。研修先の店は、師匠の篠原さんの知り合いばかりなのだから、腕の確かさは折り紙付きと言えよう。

すっぽんは、焼く前に煮たりせず、生から火を入れる。そうすることで独特の歯ごたえが生まれ、すっぽんの旨味が引き出されるそうだ。

コースはその後、肉料理、ご飯もの、香物、止め椀と続き、菓子で終了となる。「銀座 しのはら」仕込みの、料理の多彩さ、ボリュームともに申し分ない構成となっている。

様々な要素を取り込み、新たな懐石料理へと進化

「銀座 きた川」店内
店内にはフランス料理店並のワインセラーが設置されている。

同店の特徴とも言える、職人たちの得意分野を活かしつつ、異ジャンルの要素も大胆に取り組んだメニュー展開は、アルコールにも通じている。

料理人たちが研修に行ったフレンチ「銀座 大石」のシェフがワインリストを整えてくれたおかげで、日本料理店ながらワインも豊富だ。ブルゴーニュなどの白を中心に、スパークリングなども取り揃え、好みに応じて自由な組み合わせを楽しむことができる。

もちろん日本酒も「十四代」などの希少な酒を含め、とっておきのラインアップとなっている。どんな日本酒があるかは、直接教えてもらうと良いだろう。

「銀座 きた川」店長と料理長
店長の北川さん(左)と料理長の島袋さん(右)。

「銀座 しのはら」の系列店としてスタートした「銀座 きた川」だが、これから店は若手4人それぞれの得意分野が合わさって、新しい展開を見せていく。例えば、懐石料理に燻製を取り入れたのは4人で一緒に考えたアイデアだ。今後はさらに4人らしいアイデアがコースに反映されていくだろう。それぞれのアイデアや技術を合わせた、同店ならではの料理が楽しみだ。

※価格は税・サービス料込。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。
※営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、最新の情報はお店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

取材・文:岡崎たかこ(UP SPICE)
撮影:中込涼(UP SPICE)