〈食いしん坊が集う店〉

食べることが好きで好きで、四六時中食べ物のことを考えてしまう、愛すべき「食いしん坊」たち。おいしいものが食べたければ彼らに聞くのが間違い無し! 今お気に入りの、“とっておきのお店”を教えてもらった。

教えてくれる人

高橋 綾子
フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレスとして従事した中で肥えた“食”へのこだわりは、その後の素晴らしい人々との出会いと相まっていつしか人生そのものに。その間に培った食のデータと人脈を武器に“喜ばれるレストラン”の発掘に勤しむ日々。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。

職人たちの心と技で完成した「Merachi(メラキ)」が赤丸急上昇中!

ギリシャ語のスペルは「Meraki」ですがイタリア風に「Merachi」に変えたそう

西麻布の交差点から少し歩いた隠れ家エリアにオープンした「Merachi」。まだ1年も経っていないのにもはや予約困難、あっという間に人気店の仲間入り! 今年に入った頃、何人もの食通仲間から「予約が取れなくなるから早く行ったほうが良い」と薦められていたので、当然の結果だと言えるでしょう。それにしてもなぜ、こんなに人気なのか? 答えは扉を開ければわかります。

見事な一枚板のカウンター

「店名はギリシャ語で“職人が魂や愛情を込めて何かを作る”という意味なんです。だからこの店には職人の心と技があふれています」とシェフの杉本功輔さんが言うように、店に入った途端、目に飛び込んでくる一枚板のカウンターはまさに職人が為せる業。「20〜30年乾燥させ表面が真っ黒だったので、削ってみないと中がどうなっているかわからないと言われました。でも削ったら空洞も腐りもなく、奇跡のような一枚板だったんです」と杉本さん。シックなボルドーカラーのタイルの壁と料理をおいしく見せるハロゲンライトが、このカウンターをより一層美しく輝かせています。

見てよし、食べてよしの手打ちパスタ

パスタ作りを目の前で見られるのは楽しい!

このスペシャルな席に座れるのは1日にたった8人。その8人を杉本さんと精鋭のスタッフたちがもてなします。ハイライトはコースの中盤に目の前で手打ちするパスタ作り。グラスをスプーンでチーンと鳴らして「注目〜」と言う訳じゃないですが、パスタを打ち始めると全員の目が一斉に杉本さんへ集まります。

本日はトロフィエです

あれよあれよと言う間に生地はできあがり、小さくちぎってまな板の上でクルクルと1往復転がすとトロフィエが成形されます。一つ作るのに時間にしてほんの数秒。見ていると簡単なのですがやってみると非常に難しい。ましてやこんなに美しく、しかも大きさも揃えられるとはさすがの職人技です。

警察犬訓練士から料理人へ!

杉本さんの笑顔と人柄もこの店に通う理由の一つ

味も技もトップレベルなのに偉ぶることが微塵もない杉本さんのキャリアは料理業界では異色中の異色です。18歳から21歳まで警察犬の訓練士として活躍されていましたが思うことがあって退職。たまたま歩いていた自由が丘でイタリア料理店のキッチン募集の貼り紙を見て働き始めます。初めは包丁も握れなかったそうですが、毎日の努力によってすぐにひととおりできるようにはなり、2年後にはイタリアに渡ります。

常に食材に真摯に向き合う杉本さん

イタリア語も話せず、料理も一人前とはいかないレベル。昼は語学学校、夜はレストランで働きながら数年経った頃から「リストランテ TOKUYOSHI」など、食べ歩いて「ここで働きたい!」と思った店で修業し腕を磨いていきます。そして帰国前にコペンハーゲン「ミエルケ&ホッティカール」、バンコク「ガガン」で研修し30歳で帰国。すぐに銀座「FARO」のオープニングスーシェフに迎えられたと聞けば、その実力のほどはおわかりになるでしょう。そして2021年12月、ここ「Merachi」を誕生させました。

必ず手打ちパスタをメニューに取り入れると決めていたそう

「イタリアそのものの料理に新しいニュアンスを加えると革新的と言われますよね。でもトマトソースだって最初は革新的だったわけで、様々な新しい味が作られ、残ったものが伝統的と呼ばれているのです。そういう伝統料理となる新しい味を作り出しています」と、自由が丘のレストランから始まり各国で得た心と技のすべてを糧に、イタリア郷土料理の中に新しいニュアンスを感じる独自のスタイルを生み出したのです。