定食王が今日も行く!
新米の“煮えばな”を食らう!京都祇園「朝食 喜心」の朝定食
有名店で腕を磨いた料理人による
丁寧な朝食と味わいのある器たち
京都で和食というと、ハードルが高いイメージしかないが、最近では気軽に和食を楽しむことができる朝食に特化した店が増えつつある。そんななかでも2017年春に京都祇園にオープンし注目を集めているのが「朝食 喜心」だ。注目される理由のひとつとしては、料理監修を務めるのが銀閣寺の「草喰なかひがし」主人のご子息、中東篤志だからだ。父のもとで料理を学び、渡米後NYの精進料理店「嘉日」で研鑽を積んだ実力派なのだ。もうひとつは、米が一番うまいと言われる「煮えばな」の瞬間から、少し蒸したごはん、そしておこげまで、とことんご飯を堪能できるという点だ。
食器類はすべて鎌倉のギャラリー「うつわ祥見」の見立てによるもの。ご飯が炊き上がる前に、さまざまな飯椀のコレクションを見せてくれ、その中から自分のお気に入りを選ばせてくれる。今回、自分は写真にある三島茶碗をセレクトした。
90分かけて一品ずつ提供される
「一飯一汁」のスローフード定食
メニューは向付と一飯一汁といたってシンプルだ。京都らしいクリーミーな汲み上げ湯葉の向付が、優しく目を覚ましてくれる。こちらは南御所にある「ゆば工房 半升」のもの。
その後、米がご飯に変わる瞬間“煮えばな”のご飯が、小さなポーションで提供される。滋賀県「一志郎窯」の土鍋で炊き上げられたご飯は、パスタでいうとアルデンテで、ほんのり芯がある状態だ。一粒一粒がキリリッと自立していてしっかりとした食感があるため、ご飯だけでも十分に食べごたえを感じる。この後、少しずつ蒸らしていくことで柔らかさが増すご飯を、一品ずつ提供される副菜とともに時間をかけて味わうのがこの店の醍醐味だ。お米は山形産のつや姫を使用。その名前に恥じない輝く米のプリンセスだった。
3種類から選ぶことができる汁物は、「しま村」の味噌を使った京白味噌の豚汁をチョイス。具材は京都中勢以の豚肉と素揚したじゃがいも。ゆず、ブラックペッパー、みょうがと和辛子などの吸口が、白味噌の甘みと香りを絶妙に引き立てる。
つづいては山口県産のうるめいわしの丸干し。朝の目覚めたばかりの胃袋にも馴染むように、あまり脂身が多すぎない、あっさりめの干物を季節ごとに選んでいるそう。いわしをこんなにも時間をかけて食べたのは人生で初めてかもしれないというほど、ちょっぴりのご飯と一緒に堪能した。
90分の締めはTKGにおこげ!
人を良くする(=食)スーパースローフード
ご飯の締めは京都大原の山田農園のたまご。黄身だけを白いご飯にのせて出てくるため、その弾力が際立っているのがわかる。崩すのがもったいないほどの黄身に醤油で濃厚な卵の滋味深き味わい。そして、最後には土鍋に残ったおこげが、イギリスの岩塩と一緒に登場する。うまいご飯の最終形態をいただいて、90分の朝定食が終了だ。ご飯が少量ずつ提供されるので、おかずのたびに5杯くらいはお代わりした。しかし振り返れば全体の量は必ずしも多くはなく、一品ずつの満足度が高いのだ。
人を良くすると書いて「食」。食に喜びの心を持って向き合えますように、というこの店の思いが店名には込められている。自分が紹介する定食は、短い時間でガッツリパワーチャージできるファーストフード系が多いのだが、今回のように時間をかけてじっくり味わうスローフードにも定食の魅力が詰まっていると感じた。丁寧に炊き上げられたご飯や、出汁をとった汁物など実家の朝食のような、懐かしくて温かい気持ちを思い出す家庭料理。普段食べている美味しいものひとつひとつに感謝したくなる定食だった。