大間といえば“マグロ”のイメージが強いかもしれないが、あわび、ブリ、真イカ、真昆布など、さまざまな名物があることは、あまり知られていない。

 

たびたびスポーツの世界で、「ドリームチーム」「銀河系最強軍団」などと称される最強布陣が誕生するが、まさしく大間の食材はそれに近い。マグロという王様(司令塔)を軸に構成される“スター食材軍団”、それが大間グルメなのだ。

 

大間に行ったら、マグロ以外も食べるべし! キングの陰に隠れがちなスター食材&料理の数々も予習して、ぜひ大間を訪れてほしい。

“本州最北端で大間のソウルフードを食べる”という旅心

一休食堂

大間の隠れた名物「あわびラーメン」。

青森のラーメンといえば、こってりとした煮干しのスープに、中太のちぢれ麺が絡まる「煮干しラーメン」が有名だろう。ところが、一休食堂で味わえる「あわびラーメン」1,600円は、あっさり塩風味&細麺という真逆のラーメン。

 

器の中に、宝島の如くゴロゴロと眠っているあわびの存在感のまぶしいこと! キレのあるすっきりとしたスープと、歯ごたえと旨味が抜群のあわびがコラボする「あわびラーメン」は、飲んだ後の〆の一杯としてもパーフェクト。

こちらも「一休食堂」。好きな具材を選べる「自家製おでん」のラインアップも鮮やかで、あわびのおでんを筆頭に、つぶ貝、サザエ、昆布といった大間の食材が、“これでもか!”というくらい楽しめる。ソウルフードならぬ、青森のソウルタケノコ「ネマガリタケ」のおでんもあるように、このおでんの中に大間と下北半島の旨味と豊かさが凝縮されている!

 

大間は、海洋プランクトンやミネラルに恵まれており、真昆布などの海藻も特産品として名高い。ウニやあわびは海藻などを餌にして育つため、当然、美味しい海藻類が育つ大間ではあわびも美味しく育つ。大間は、“正の連鎖”によって魚介類が育まれる環境があるというわけだ。

 

ボトルキープがたくさん陳列している店内は、昼は食堂、夜はスナック居酒屋という具合に、本州最北端の二刀流を実現している。魅惑の空間の中で時が止まっているかのように黙々とプロフェッショナルな仕事をこなすママさんたちの立ち居振る舞いは、今すぐ無形文化遺産に登録するべきだと思うほど。何十年と続く「あわびラーメン」とともに、昭和の空間を完飲できる「一休食堂」。酒場を放浪するのが大好きな人は、絶対に行って損のないお店と断言できる。

 

いそ舟

地場の珍しい魚介類を提供する「いそ舟」も是非訪れてほしいお店だ。

写真の「キンコナマコ」(時価)は、金のナマコを意味するとも言われる珍味。部位によってコリコリとした食感と柔らかい食感があり、七味をかけてちょいと醤油をたらし、カイワレといっしょに口の中に入れると劇的に美味い。磯の風味が辛味によっていっそう引き立てられ、日本酒がススム、ススム!

 

シャイな人柄にもかかわらず、細かな心遣いが伝わってくるご主人の温度感も最高。都会とは無縁の地で食べる珍味と日本酒の旅情感。いつまでもオチのない話をし続けられるような、優しさと安心感が広がっている雰囲気が、本当に心地よい。

こちらの「メカジキのスモーク」(時価)は、やわらかさはそのままに燻製ならではの旨味がギュ~ッと詰まっている。少しわさび醤油をつけて食べると、さらに美味さが引き締まる。驚きはスモーキーなのに、切り身が刺身とほぼ遜色がないほど柔らかいという点。口の中で燻ったメカジキの美味しさがとろけていく……スモークなのにとろけていく。今流行の“アウフヘーベン”の意味を知りたければ、いそ舟で「メカジキのスモーク」を食べれば解決するだろう。

もちろん、握りも揃っている。あわび、いくら、カニ、ブリ、甘えび、トロ……メッシとマイケル・ジョーダンとボルトが同じチームにいるような状況だ。大間でこのラインアップは、夢の布陣である。お好みで一貫ずつ頼むこともできるが、なんといってもマグロのトロはキング・オブ・キングスだった。

 

(この日だけかもしれないが)写真の通り、身の部分に網の目状の包丁跡があることが分かると思う。これによって、口の中に入れた瞬間、トロが全壊する。高層ビルが美しく爆破解体される映像を見たことがある人は多いだろう。口の中に入れた瞬間、あの映像のようにトロが美しく全体的に崩れていくのだ。

 

何を言っているか分からないと思うが、とろけていくというよりも、とにかく崩れていく感じなのだ。大間では結構なマグロを食べたが、「いそ舟」のこのマグロは衝撃的な食体験だった。グルメ漫画だったら、この体験は“食べた瞬間に服が破れて裸になる描写”で表現されていると思う。

 

宮野甘盛堂

なんと(!!)大間は魚介類だけではなく、指折りの絶品パンまで味わえる場所でもある。「宮野甘盛堂」の「クリームパン」140円は某誌のクリームパン部門ベスト3に輝くなど、知る人ぞ知る名品。ふわっふわのパン生地の上に、ほどよくまぶされたココナッツフレークがアクセントになっており、トロ~リととろけるクリームとの相性が美味!

“本州最北端のパン屋さんが、美味しいパンを作っている”。この字の並びから伝わる素朴さと力強さ。その象徴とも言えるパンが、写真の「アンドーナツ」140円である。実はこちらの「アンドーナツ」は、地元では「あぶらパン」として知られ、大間の漁師の栄養補給食であり、海の男たちから愛されるソウルフードでもあるのだ。

 

何時間も海の上で仕事をし続ける漁師たちが口にできるものは限られている。「あぶらパン」は、糖分をはじめ栄養補給も考えながら漁に出なければいけない漁師たちを支える食べ物として重宝されてきたそうだ。なんてことのないパンに見えるかもしれないが、海の上では玉食。このあぶらパンがあるからこそ、大間の豊かな魚介類は漁獲されてきたというわけだ。陸と海はつながっている……本州最北端のパン屋で、ぜひロマンあふれる口福の瞬間を味わってほしい。

 

大間は、遠い。そう思う人は少なくないはずだ。「大間だけを訪れる」というのは、たしかにハードルが高いかもしれない。だが、函館と大間をセットで考えたらどうだろうか?

 

函館から大間へは大函丸というフェリー(約90分)が運航しており、現在、函館は成田・関空からLCCが離発着している旅先である。

北海道新幹線が新函館北斗駅まで開通したことを機に、青森県は函館を中心とした道南地方とのリレーションシップを高め、県を越えてさまざまな取り組みを行っている。

大間との距離はどんどん近くなっているのだ。

 

青森県は魅力が少ないのではなく、分厚いベールに包まれていたに過ぎない。現に大間を訪れると、マグロだけの町ではないことが分かる。

今後、ますます青森県の魅力が解き放たれていくことは想像に難くない。その中で船頭役として大間がどんな魅力を発信していくのか、楽しみで仕方がない。

 

 

取材・文:我妻弘崇(アジョンス・ドゥ・原生林)