【食を制す者、ビジネスを制す】
“オヤジ殺し”になれるか
社長になる人には、様々なタイプの人がいるが、共通しているのは、“オヤジ殺し”の傾向が強い人が多いということだ。若い頃から上司になぜか可愛がられるタイプで、なかには、そのままずっとうまく組織内を泳いで社長になっていく人もいる。
しかし、ここで言う“オヤジ殺し”とは、可愛がられることを確信犯的に演じる人ではない。大事なことは、自分に正直に、真摯な態度で仕事に取り組むことで、紡ぎだされる懸命さだ。そのことによって、上司は、その人に対して「感心」するのではなく、「感動」する。それが、上司をして、その部下のことを信用するようになるのである。そこにプラスして、上司に気を遣う、何気ない可愛げがあれば、それが本当の“オヤジ殺し”の人だ。
むろん、これは社内だけでなく、取引先などの対外的な関係をつくる際にも必ず見られるところだ。プロジェクトが暗礁に乗り上げたときに、本当に困っていること、打開策を考えていること、そのためにあなたの力を借りたいと、計算を挟まずに言える人。そんな態度や姿勢が結果として、どの局面でも作用してくるのである。
大人の作法を学ぶ
その意味で、仕事をうまく進めていくには、年上の人とのコミュニケーションをとることが重要になってくる。若い人にとって、年上の人とコミュニケーションをとることは、なんとなく億劫に感じてしまうことも少なくないだろう。でも、仕事で人脈を拡げていくうえでは、年上の人と関係をもつことがどうしても大事になってくる。
そのために必要になってくるのが、大人の作法である。それは食事をしたり、話をしたりするうえで、前提となる礼儀作法と言ってもいい。そんなとき参考になるのが、うるさ型の作家たちが書いた「作法本」だ。例えば、山口瞳の『礼儀作法入門』(新潮文庫)や池波正太郎の『男の作法』(新潮文庫)などはぜひ読んでみてほしい。大事なことは、「他人に迷惑をかけないこと」、それに、飲食店や大人の社交の場では、知ったかぶりをせずに、何事も素直に真摯に対応して、細かい気遣いやちょっとした工夫をすること。そうすれば、自然と大人としての振る舞いを身につけることができる。
ちなみに池波正太郎は今でもファンが多い。そのせいか、池波御用達の店では、ときおり、池波正太郎の流儀を真似て、食事を楽しんでいる人たちを見かけることがよくある。
例えば、うなぎの名店の一つである銀座の「竹葉亭」では、日本酒のぬる燗、板わさ、うなぎの白焼きと続いて、〆に鯛茶漬けを楽しむことが、一つの池波風コースと言われている。竹葉亭は銀座では、5丁目の銀座店と8丁目の木挽町本店を持っているが、若い人なら、まずは入りやすい5丁目の銀座店をお薦めする。ちなみに名店でビールを頼む場合は、できるかぎり、生ビールよりも瓶ビールを注文することをお勧めする。どちらでも問題はないのだが、瓶ビールのほうが通の大人らしく、格好がつくし、名店では生ビールを置いていない店もあるから、瓶ビールでの注文に慣れておいたほうがいいのだ。
日本橋の利休庵はランチの「利久定食」がいい
うなぎ同様に大人の食事を体現するのが、蕎麦店だ。蕎麦と言えば、名店も多く、通の人も少なくない。だが、ここで言いたいのは、上司やおじさんと仕事などでちょっとした食事をするときは、蕎麦店が最も使いやすいということだ。相応の蕎麦店に行けば、落ち着いた雰囲気で、客対応に慣れたちゃきちゃきの江戸っ子のおばちゃんたちが世話をしてくれるから、大人は安心して食事を楽しむことができる。若い人でも、行きつけの蕎麦店を知っていれば、上司の受けもいいに違いない。
例えば、日本橋にある「利休庵 日本橋店」は、近くのビジネスパーソンたちが集まる店として有名だ。ときには名のある経営者や政治家を見かけることがあるが、入りやすく、お値段も手頃だ。こちらは蕎麦もおいしいが、かつ丼も絶品だし、昼のランチもお薦めしたい。
とくに「利久定食」がいい。餅の入ったすき焼きにおいしいごはんと味噌汁にお漬物が付いて、1200円(税込み)とリーズナブル。ランチ時は2階でのみ定食を提供しているので、店に入るとすぐに入口近くの階段で2階に上がって、注文すること。近くにある三越の社員たちも、利久定食のファンが多いと聞く。昼のど真ん中は混雑するので、午後1時過ぎにいくと、比較的席が空いており、ゆっくりと食事を楽しむことができる。