古民家でいただくのはモダンスパニッシュ

人気メニューの一つ、イカ墨のパエリア

スペイン料理好き、小洒落た店好き、そしてもちろんおいしいもの好きに朗報だ。東京都現代美術館はもとより、旬なカフェや雑貨店が街を牽引する清澄白河の駅から至近距離に、モダンスパニッシュのレストランが、昨年(2021年)末にオープンしたのだ。

一見、何のお店かわからないシンプルな外観が興味をそそる

元印刷会社の事務所であったという2階建ての一軒家を、建築家の佐野文彦氏が元の躯体や梁を残しながら、瀟洒な店内へと生まれ変わらせた。広々とした清潔感のあるオープンキッチンでは、きびきびと立ち働くシェフとサービスの二人の息のあった姿が見えて気持ちがいい。

黒い扉の向こうは印刷会社の金庫をワインセラーとして使用

キッチンを囲む形でカウンターが9席、テーブル席一つ。その奥には、元金庫を改装したワインセラーもあり、いい雰囲気を醸している。2階へ続く階段がまた趣があるのだが、将来的には個室を構えたいという。

2階は一部吹き抜けになっており開放感がある

「eman」 という愛らしい店名は、バスク語でgive(与える)という意味だそうだ。バスク愛と、ゲストへの愛に満ちた、そのうえ覚えやすい、とてもいい名前だ。

運命の物件との出会いで二人の夢を実現

左・シェフの小林悟さん、右・サービスの原薗理志さん。二人の息のあった連携プレーが心地よい空間を演出する

シェフの小林悟さんは、スペインバルを振り出しに、当時活躍し始めたスペインレストラン「スリオラ」や「アコルドゥ」の料理を見て、一度は本場スペインで働かねばと、マドリッドとラマンチャに1年半、バスクに1年半滞在した。修業先は、マドリッド郊外のラマンチャでは一つ星「エルボイオ」、バスクでは、世界のベストレストラン50でも常連の「アスルメンディ」と、いずれもトップレストランである。

オープンキッチンなので目の前で調理を見ることができる

最先端のモダンスパニッシュを学ぶと同時に、その下に流れる郷土料理の技法や考え方をしっかり身に着けてきた。「店での修業はもちろん、たくさんの店を食べ歩き、飲み歩くことで、スペイン料理の魅力を体に叩き込みました。そのうえで、自分の料理の中核は、郷土料理にあると思っています。古いものと新しいものを混在させながらそれをいかに洗練された形に仕上げていくかが、この店でのテーマです」と小林さんは言う。

看板には二人の思いを込めて

帰国後、銀座の米料理専門店「アロセリア ラ パンサ」の立ち上げを、サービスの原薗理志さんと二人で行った。そして6年、二人とも清澄白河に住みつつ、店を出すのなら、絶対に清澄白河でと決めて物件を探したところ、幸運にも理想の一軒家に出会い、開業への運びとなったわけだ。