是が非でも食べてみたいのはこの4品!

前菜八寸盛り込み

1,980円。左上から時計回りに「牛肉の昆布締めと芽キャベツ揚げ浸し」「升大根と大豆の醤油煎り」「菜の花のお浸しと卵黄の味噌漬け」「赤ナマコの林檎酢」「いなり」「金柑の水煮」

そんな柴田さんの料理を紹介しよう。こちらはその月の象徴的な事柄を形にした「前菜八寸盛り込み」だ。取材時の2月は“節分”ということで、大根で升を作り、醤油でカリッカリに煎った大豆を中に入れて豆まきをイメージした。「ナマコの表面が鬼のツノに似ているなと思って」と、赤ナマコをリンゴ酢漬けに。ひとつひとつは小さくても楽しさは大きい。

 

高橋綾子さん

おいしいのは言うまでもないのですが、小さい升なのにちゃんと豆が入っていたりする手の込み様に感激。作るの大変だろうなとわかっていても絶対に頼んでしまいます。

本日のお椀 蓮根餅 椎茸 黒ムツ

1,430円

柴田さんが特に心血を注ぐのは「お椀」だ。吸い地には昆布と血合い抜きの鰹節で引いた一番だしと決めている。そして「鰹節は高温だと濁ったり、臭みが出たりするのでいちばん気をつけているのは温度です」と、鍋の温度を60度まで下げてから鰹節を入れる。「ふるけん」での修業時代に、だしと温度の関係について相当深掘りした結果の最適温度だそう。「土鍋ごはんの組み合わせも、ここでかなりアイデアを出したのが今につながっています」と、柴田さん。

 

高橋綾子さん

日本料理にとって“店の味”と言えるだしは、その人となりも表していると思います。清らかに澄んでいて繊細で滋味深く、カラダにじんわり滲み入るけど味の輪郭にはキレがあって香りは華やか。柴田さんもそんなお人柄なのかも?

大分県竹田の臼井さんが獲ったジビエ 猪の朴葉焼き

1,980円

店をオープンするにあたり、絶対にはずせなかったのが「炭火焼き」だ。ジビエは大分県竹田の猟師、臼井さんに特注している。炭で表と裏をそれぞれ3分焼き5分休ませ、再び3分ずつ焼いて6分休ませた猪は、八丁味噌と胡麻ペーストを合わせた柴田さんオリジナル味噌を塗った朴葉の上にのせる。盛り付けは森にいる猪をイメージし、猪が食べていたであろう松の実や、ゴボウチップス、そして彩りに芽ネギを添えた。

 

高橋綾子さん

日本名水百選の竹田の水で育った松の実やどんぐりを食べているので上質と言われているこの猪は、柴田さんの丁寧な焼き方でしっとりとやわらかく仕上がっています。朴葉味噌は角が取れて本当にまろやか。臼井さんが手当てした臭みゼロの猪にぴったりです!

土鍋ご飯 うすい豆御飯

2,420円。一文字によそった「うすい豆御飯」のオトモには手作りの「じゃこ山椒」を

こちらの看板料理は「土鍋ご飯」である。メニューには定番の「土鍋の白ご飯」(1合660円)と、前述した食材の組み合わせがおもしろいものや「カニ御飯」「真鯛御飯」などの炊き込みご飯とで常時5〜6種類並ぶ。さらに食材があれば要望に合わせて作ることも可能で、しかも1合炊きしてくれると言うから、これを頼まずして帰れない。

豆を潰さないようにさっくりと混ぜるたび、豆独特の良い香りが漂ってくる

この「うすい豆御飯」は豆本来の香りとおいしさを味わってほしいと、あえて組み合わせはせずに単品で炊く。昆布だしで炊いたうすい豆と米の豊かな味わいは自然の力強さを改めて感じさせてくれる。添えてくれた手作りの「じゃこ山椒」のやわらかく、味加減が絶妙で1合なんてあっという間に完食してしまう。

 

高橋綾子さん

土鍋の蓋を開けた途端に豆の匂いがふわっと漂ってきます。ホクホクのお豆とひと粒ひと粒がピンと立ったお米の食感、そのお豆とお米のおいしさを強調する優しい味付け……、本当に箸が止まりません。

想像力と期待を超える料理に再訪を誓う!

新しい料理も柴田さんの中では伝統と繋がっている

今年は年始早々からのまん延防止等重点措置で営業時間を短縮した影響なのか、アラカルトよりおまかせコース(7〜8品 9,600円)の予約が多いので、短い滞在時間でお客様の満足度をアップさせたいと、コースは少し価格を上げて内容をさらに充実させた。「コロナ禍で苦しいからといってコストを抑える料理を提供してはいけないと思い、採算度外視で頑張ってきました。正直苦しかったです。でも、だからこそ今もご贔屓にしていただいていると思っています」と、これからもお客様が喜ぶ料理を作っていきたいと語る。

ここには何度訪れても新しい発見が尽きない、また食べたいと思わせる料理がある。皆、そうして常連客となってしまうのだ。

※価格は税込です。

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認ください。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

取材・文:高橋綾子
撮影:大谷次郎