【森脇慶子のココに注目 第38回】「馳走 とりの巣」

白金の裏通り。会員制居酒屋「白金のたつこ」の休日に営業する“間借り和食店”として、2年前にオープンした「馳走 とりの巣」。この知る人ぞ知る人気店が、移転。2022年1月、芝大門に念願の独立店をオープンした。

「店のサイズも、厨房の広さも、オペレーションがしやすいよう自分の都合の良いスタイルにこだわりました。一人なので、サービス等を考えるとカウンターは8席が限界。厨房も、無駄な動きをせずに済むよう動線を考えて設計してもらいました」

晴れやかな笑顔でこう語るのは、ご主人の鳥田諒さん、30歳だ。

主人の鳥田諒さん

大学時代、創作居酒屋でのアルバイトをきっかけに料理の世界に興味を持った鳥田さん。大学を卒業後、赤坂の懐石料理店「帰燕」にて料理人の道を歩き始めた鳥田さんは「30歳までには自分の店を持ちたかった」そうで、6年間の修業の後、“間借り”という変則的なスタイルではあるものの、白金でまずはスタートを切ったわけだ。

新たに一国一城の主となったとはいえ、コース13,200円(税込)の安心価格は以前と変わらず。鳥田さん曰く「この値段で、どこまでお客様を満足させられるか、が僕の課題です」。そう語るように、先付けから〆の土鍋の炊き込みご飯、そしてデザートまで計9品が登場。一品一品のボリュームもしっかりあり、食べ応えも充分!

鯖の棒寿司

例えば、ある日の内容はこうだ。初っ端の先付けには、春の訪れを感じさせる山菜の天ぷらが出され、続いて鯖の棒鮨が堂々たる出で立ちを見せる。実は、これが鳥田さんのシグネチャーメニュー。月毎に変わるコースの料理の中で、唯一の定番商品だ。

「鯖の棒鮨」は2日前までの予約でお土産としても購入可能

長崎や豊後水道など九州産の鯖に特化したそれは、厚さ2〜3cmはあろうかという豪快さ!まずその肉厚ぶりに目を見張る。米は餅米100%。中にゴマと刻んだいぶりがっこを混ぜてあり、鳥田さんによれば「飯蒸し代わりのつもり」だそうで、コースの2番目に出すのもそれゆえ。いわばおしのぎ。お酒をいただく前にちょっとお腹にたまるものを、という配慮だ。海苔に挟んで頬張れば、鯖の〆加減もほどよく、まだ生を感じさせる風味が口中にふわりと広がる。そして、その重量感をしっかり受け止めるのがもっちりとした食感の餅米。これを楽しみに訪れる常連客が多いのも頷ける迫力だ。

ちなみにこの鯖鮨、2日前までの予約でお土産も受け付けており、持ち帰りのみでもOK。ちょっとした手土産にも喜ばれそうだ。

「タイラ貝と車海老の黄身酢和え」

次に登場したのは、いかにも春らしい装いの一皿「タイラ貝と車海老の黄身酢和え」だ。時には刺身代わりにもなるそうだが、今回はお椀の後に「サワラの炙り」が刺身のポジションとして控えているため、立ち位置は酢の物代わり。平貝も車海老も生のまま?と思いきやさにあらず。どちらも甘みをより引き立てるため、平貝は65℃の塩水に約1分さっと潜らせ、車海老は殻ごと油通ししてレアに仕上げるなど、見えない下拵えが施されている。

仕上げにも一捻り。最初から黄身酢で和えるのではなく、黄身酢は下に敷き、上からは土佐酢のジュレ餡をかけ、食べる際にはよくよく混ぜて召し上がれ!との趣向も、新鮮だ。

「鰤と大根の炊き込みご飯」

土瓶蒸し仕立ての「ハマグリとタケノコのお椀」「サワラの炙り」「かますの酒盗焼き」に「鴨の卵とじ」と続き、クライマックスは、旬の食材を大胆に炊き込んだ「土鍋ご飯」。取材日は「鰤と大根の炊き込みご飯」で、仕上げにたっぷりとのせるいくらが、味と彩りに華やかさを添えている。

“炊き込み”とは言っても、鰤は炭火で幽庵焼きにし、大根も薄口醤油や酒、味醂で炊くなどいずれも下味をつけ、最後にご飯と合わせ、共に蒸らして完成となる。

茶碗によそられた鰤の身がゴロリと入り、食べた感は満載! 食べきれなかった分は、おにぎりにして持ち帰れるのもうれしい心配り。翌日のお楽しみといったところだろう。これでフィニッシュ!と思ったら大間違い。最後のお楽しみが控えている。

「デザート盛りあわせ」

豪華な「デザート盛りあわせ」がそれで、定番のわらび餅をはじめココナッツプリンや栗ぜんざいなど常時6種がずらり。まるでデザート八寸とでも呼びたい艶やかさだ。中には、ドライフルーツのクリームチーズ和えなど食後酒を意識したものもあり、差し詰め大人のデザートといったところだろう。

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

※本記事は取材日(2021年2月7日)時点の情報をもとに作成しています。

取材・文:森脇慶子

撮影:大谷次郎