【肉、最前線!】

数多のメディアで、肉を主戦場に執筆している“肉食フードライター”小寺慶子さん。「人生最後の日に食べたいのはもちろん肉」と豪語する彼女が、食べ方や調理法、酒との相性など、肉の新たな可能性を肉愛たっぷりに探っていく。奥深きNEW MEAT WORLDへ、いざ行かん!

 

連載8回目に登場するのは、いま東京の中華シーンを象徴する進化系店。洗練された中華とシェフの独自の視点が合わさったとき、肉はいったいどのような昇華を見せるのか?

Vol.8 牛も酔っ払う!?肉と中華編

日本人は中華料理が好きだ。それは餃子や麻婆豆腐、海老チリといった中華のなかでもメジャーな料理の“功績”か、もしくはフカヒレや鮑、上海蟹など、高級食材を多用するイメージのもとに、中華=美食の図式が成り立っているのかもしれないが、ひと口に中華といっても、長い歴史とともに発展してきた料理の多彩さは計り知れない。

 

大きくは広東、上海、四川、北京の四大料理に分類され、使う食材や調理法もさまざま。これまで、各地方にフォーカスした“特化型の中華料理店”が王道とされてきたが、ここ数年で東京の中華料理界は激変している。

 

若手の料理人の台頭によって増えたのが、中国の伝統料理の基本をきちんと踏まえたうえでフレンチや和の要素を盛りこみ、独自のアレンジを加えた料理を提供する店。軸足は中国料理に置きつつ食材や調味料の組み合わせ、プレゼンテーションで“新しい中華”の世界を展開する。

今年6月に三宿にオープンした『レッセフェール』は、店名からしてオリジナルを行く新しいタイプの中華料理店。自由放任主義を貫くという思いを込めた店名に違わず、素材の力を尊重した中国料理をコースとアラカルトで提供する。

足利マール牛 酔っ払い牛 1,200円

 

シェフの藤本健太朗さんは、高校卒業と同時に、赤坂の広東料理店で料理人としてのキャリアをスタート。広東料理をベースにしたヌーベルシノワに影響を受けたとあって見た目も味も洗練された軽やかな中華が得意だが、自身の出身地である栃木の食材を使った肉料理も見逃せない。

ぶどうのしぼりかすを飼料に育つ足利マール牛は、広東料理の酔っ払い海老をアレンジし、酔っ払い牛バージョンで提供。紹興酒でマリネした牛のイチボやランプを熱々の漢方スープでしゃぶしゃぶして食べる新感覚の料理は、スープに溶け込んだナツメや八角といった香辛料の滋味によって、牛肉のほんのりした脂の甘みがより引き立ち、プレゼンテーションも含めて心が浮き立つ。

栃木しゃもの丸揚げ 6,000円(半羽)

 

秋冬に向けてブラッシュアップさせたいとシェフが言う新作は、栃木しゃもの丸揚げ。オーブンで火を入れてから高温の油をかけながら揚げ焼きにしたこのメニューは、広東のあひるの焼物をイメージ。脂肪分が少なく、旨みが濃い栃木しゃもの焼物はそのまま食べても美味だが、本場・広東式に山椒塩と甘い梅のソースを合わせるのもおすすめだ。

 

「肉も魚も素材がよければ、シンプルに調理するのが一番美味しい。手をかける以上は、その美味しさを超えなくては意味がない」というシェフの言葉にさらなる伸びしろを感じる。秋冬には、ジビエを使った料理も登場予定。自由な発想のもとに素材を生かした中華ジビエを味わえるのがいまから楽しみだ。

 

レッセフェール http://laissez-faire.heteml.net/

写真:石渡 朋

取材・執筆:小寺慶子