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食と酒を愛するグルマンにこそ知ってほしい! 大木さんが薦める4品
ピリッとした刺激はなんと辛子。温暖な土地が育んだ「島鮨」の文化
寿司ネタの仕入先は豊洲市場が中心で、特に力を入れている白身魚は長崎の平戸港や和歌山の加太港からもお取り寄せ。そんな厳選素材を熊本産赤酒ベースの煮切りに漬け込み、練り辛子を利かせたのが名物の「島鮨」である。
大木 淳夫さん
「島鮨」というのは八丈島の郷土料理で、漬けにしたネタにワサビではなく辛子が塗られています。普通のお寿司屋さんではなかなかお目にかかれません。こちらのお店はいいワイン、日本酒、焼酎をカジュアルな値段で取り揃えていますが、中でも焼酎と一緒に味わうと抜群に旨いでしょう。
「島鮨」は温暖な八丈島だからこそ発達したという独自の食べ方。合わせるなら、やはり温暖な地域で造られた酒が合う。店には屋久島産サツマイモを地元の湧き水で仕込んだという「三岳(芋)」をはじめ「魔王(芋)」850円や「佐藤 黒(芋)」750円といったプレミアムな焼酎が揃っている。27年間、独自のルートを築いてきた玄雅さん。日本酒だけでも7軒の酒屋から仕入れているという。
北海道産&デンマーク産の掛け合わせが絶妙な「活タコブルーチーズ焼き」
ブルーチーズと言えば独特の香りが強いイメージだが、こちらのデンマーク産は非常にマイルド。そこに加えるのは、プリッとした食感の北海道産水ダコだ。軽く炙って反り返った程度が食べごろ。ミルキーで個性的なチーズの風味に続き、タコの力強い旨みが広がり、ほぼ同時に消えていく。相性抜群の組み合わせである。
大木 淳夫さん
まさかお寿司屋さんで!という意外性の高いメニューですが、親方の創意工夫の精神があらわれた逸品。グラスのリースリング(ドイツやフランスで栽培されている白ワイン用のぶどう品種)とぜひ。
リースリングと言えばドイツの甘口ワインが有名だが、こちらの定番はフランス・アルザス地方の辛口。ビオディナミという有機農法で育てた良質な葡萄を使用しており、水タコやブルーチーズにも引けを取らない濃厚な飲み口で、後味はすっきり。
そのほかグラスワインはフランス産の白を中心に常時8種類ほど揃う。玄雅さんが馴染みのインポーターから直接仕入れており、日本ではほとんど出回っていないものばかり。
多種多彩な巻物は海苔から違う! まずは「煮あさりの軍艦巻き」で味わうべし
うになら巻、穴きゅう巻、小肌ガリ巻など、おすすめの巻物だけでも16種類と多彩で個性も豊か。一口食べて驚かされるのが、非常に香り高い焼き海苔だ。こちらは大田区大森にある海苔問屋、五味商店のもの。オーダーごとに焼いてもらい、状態が良いうちに使い切るそう。まずは煮あさりの軍艦巻きでお試しを。海苔の香りに続いて湧き上がってくるような、あさりの旨みがたまらない。
大木 淳夫さん
ありそうでなかなかお目にかかれない一品。玄鮨さんは、海苔にもこだわっているから旨いんです。
これを目当てに通う常連もいるという隠れた名物「ウニクレソン」
玄雅さんが広島の鉄板焼で食べたという、ウニとクレソンをフランスパンにのせて食べるメニューから着想を得たオリジナル料理。卵黄ベースのソースにもウニを混ぜ込んでおり贅沢な味わいだ。クレソンのほろ苦さにより、上質なウニの旨みが一層引き立つ。この日、たっぷりと使用していたのは最上級の根室産エゾバフンウニ。仕入れ値が上がり続けており、この価格で提供してもほぼ利益はないそう。それでも、この味を楽しみにしている常連客のために用意するという、玄雅さんのサービス精神がうかがえる逸品である。
大木 淳夫さん
ウニとクレソンを海苔で巻いて食べるという、お酒も進むし野菜も摂れる、贅沢なお料理。さらに残った汁に酢飯を入れてもらうと2段階で楽しめます。
「お客さんが喜んでくれるから」と固定観念にとらわれずに、全国の良いものを柔軟に取り入れる玄雅さん。そんな誠実な父の背中を見て育ったからこそ「跡を継ぎたい」と、長男の玄樹さんも厨房に入ったのだろう。玄樹さんは働きはじめて3年目で現在25歳の伸び盛り。父である玄雅さんも「コロナ禍が落ちついたらいろんなジャンルの店を経験してほしいです」と期待する。親子2代、どのような進化を続けるのか、この先も楽しみだ。東京の食に精通する編集長が通うのも納得の店である。