十五夜近づく秋の夜長に、しっぽり飲みたくなるお酒といえば、日本酒。だけど、種類や飲み方のバリエーションも多く、何から手をつければいいのやら…とお思いの方も多いのでは。そこで、秋におすすめの日本酒や合わせたい料理などを、唎酒師の資格を持ち、お酒や酒造りにかかわる人への取材を精力的に行っているライターの橋村望さんに紹介してもらった。

秋だからこそ飲みたい日本酒、食べたい酒肴がある!

サンマ、松茸、芋、栗、かぼちゃ……美味しい食材が豊富な秋。一年中で一番食べる楽しみが増える時期。旬の野菜でつくる鍋ものやおでん、煮物など秋ならではの料理を想像すると、日本酒が飲みたくなる人も増えるはず。

 

春はできたての新酒、夏は爽やかな夏酒があったように、秋には、“ひやおろし”という季節限定の日本酒がある。また、秋の夜長には、気のきいたツマミを片手にゆるりと飲むのもいいもの。そんな、秋にこそ飲みたい日本酒や飲み方、合わせたい料理などを、おすすめのお店とともに紹介したい。

秋が旬の日本酒、“ひやおろし”とは?

日本酒は、秋に収穫したお米が冬に仕込まれ、春から夏にかけて出荷される(※)春、夏を越え、秋頃に出荷されるのが「ひやおろし」。日本酒を貯蔵する前に一度だけ火入れをする「生詰め」という手法で、「冷や=生」のまま「卸(おろ)す=出荷」することから「ひやおろし」と呼ばれるようになったといわれている。

 

お酒を寝かせることによって、飲み口がまろやかになり、とろりと熟した味わいに変わる。これが脂ののった秋の食材と相性がいいのだ。

 

ひやおろしなど季節限定のお酒と和を中心とする創作料理が楽しめるのが神楽坂の「地酒喝采 かも蔵」。常時200種類ほど日本酒が揃い、多種多様な日本酒が飲み比べられる。

 

出典:chi-chan724さん

 

看板メニューの自家製燻製盛りをはじめ、旬の魚介、珍味など、日本酒に合わせたいおつまみも満載。

 

出典:よい子さん

 

ひやおろしといっても、最近では、軽めのものから熟成度の高いものまで酒質もさまざま。「地酒喝采 かも蔵」では、お酒に詳しいスタッフが多いので、料理に合わせて、相談しながら飲むのがおすすめ。

 

※冷房施設を完備して一年中日本酒をつくる、四季醸造の蔵元もいる。

秋は“燗酒”で身も心もほっこり

 

肌寒い秋には、やっぱりお燗が一番。温度帯によって、味わいがガラっと変わるのも日本酒の大きな特徴。温めることによってお米の香りがフワリとひらき、身も心もあったまる。

 

お燗の名手のいるお店といえば、西荻窪にある「善知鳥」。店主・今悟さんのつけるお燗は、温度計を使わず手で徳利を触りながら燗をつけていくスタイル。お酒の声をききながら、一番美味しい状態になるように燗をつけてくれるのだ。

 

出典:pen E-P3さん

 

和のアンティークに囲まれた店内で、時間を忘れてゆったり。青森の郷土料理、イカメンチなど、手作りの酒肴も絶品。

 

出典:ひろA4さん

お燗にサラミや生ハムをあわせる大塚の「29ロティ」もおすすめ。

 

出典:bottanさん

 

お燗で温まった口の中に、生ハムや生サラミをいれると、蕩けるようなまろやかな口当たり。さらに燗酒をゴクリ。その相乗効果に思わずため息がこぼれる。お店に流れる古い映画をぼんやり眺めながら、秋の夜長を楽しむのも一興。

 

出典:辣油は飲み物さん

忘れちゃいけない秋の風物詩“おでん”!

 

おでんと日本酒は、昔ながらの名コンビ。出汁がしみてホクホクになった大根、こんにゃく、ちくわぶ、牛スジ、もち巾着……具材はなんでもこい。冷やでもお燗でもお酒がすすむ。

 

恵比寿にある「日本酒 はなたれ」は、おでんに合わせて日本酒が飲めるお店。

 

出典:sakemeganeさん

 

おでんの具は季節替わりや日替わりで、アジやししゃも、かつおなどユニークな海のものが多数。日本酒も日替わりで20種類ほど。カウンターのみの店内のアットホーム感に、ついつい長居してしまう。

 

出典:saiworldさん

5年、10年、20年……時を感じながら飲む熟成古酒

 

熟成酒、古酒、長期熟成酒など、呼び名はいろいろ。何年もかけてじっくり寝かせることで、さまざまなニュアンスの複雑な香り、凝縮された味わいが楽しめる。たとえば、カキの土手鍋やバターをたっぷりのムニエル、鹿肉のローストといったジビエ料理など、味がしっかりしたものや、個性あるタイプの料理とも好相性。

 

熟成古酒が飲めるのは、品川の「酒茶論」。常時100種類以上揃う古酒専門の日本酒バーです。熟成の期間や保存の仕方、熟成前のお酒の造りによって、古酒のタイプは千差万別。3種類ずつ飲み比べられるセットがおすすめ。

出典:lagoさん

 

鎌倉時代からはじまるといわれる熟成古酒の歴史。常温でやわらかい口当たりと長い余韻を楽しみつつ、歴史に思いを馳せるのも秋ならではの過ごし方かも。

ディープな世界へ足を踏み込むのも秋だからこそ

年中美味しい日本酒だが、料理と合わせて美味しく飲めるのは、やはり食材豊富な秋。和食だけではなく、フレンチや中華、エスニックなど、さまざまな料理に合わせて展開している個性的なお店も増えている。せっかくの秋、美味しく楽しくディープな日本酒の世界へ足を踏み入れてみては?

 

 

橋村望(はしむら のぞみ) 秋田出身のフリーライター。デザイナーとして広告、雑誌、Webなどの制作業務に携わりフリーランスに。宣伝会議主催の「編集・ライター養成講座」の受講をきっかけに、2014年からライティング業をスタート。現在は、ムック本や広報誌、WEBなど各媒体で執筆中。日本酒愛飲家。SSI認定唎酒師・焼酒唎酒師。Twitter/@KIKIZAKEJP