〈福岡のソウルフード〉

安くてウマい! 福岡のソウルフードを、地元グルメライターとともに紹介していくこの連載。学校の帰り道、みんなで立ち寄って買い食いするのがお決まりだった。周りに尋ねるとそんな答えが返ってくることが多いお店。それが「むっちゃん万十(まんじゅう)」です。ムツゴロウの形をした愛らしい見た目に、ぎっしり詰まった具材、スイーツ系からおかず系までバラエティに富んだ種類で1個170円〜というお手頃価格がうれしい。今回は、そんな福岡のソウルフード「むっちゃん万十」をご紹介します。

教えてくれたのは

戸田千文

愛媛県出身。広島、東京生活を経て、転勤族の夫とともに2018年夏に福岡暮らしをスタートした。情報誌やレシピ本、WEBコンテンツの企画・制作を通して出会うローカルのおいしいモノ・楽しいコトが大好き。

有明海のムツゴロウを愛してほしい

「むっちゃん万十」西鉄香椎店

福岡県を中心に、長崎、広島に18店舗を構える「むっちゃん万十」。店名の「むっちゃん」とは、ムツゴロウのことで、「万十」と名前はついているものの、カステラ生地で具材を包むたい焼きに近い形状です。

ムツゴロウの形がかわいい

今回訪れたのは、福岡市東区にある「むっちゃん万十 西鉄香椎店」。社長の玉木紀充さんに話を伺いました。

社長の玉木紀充さん

「むっちゃん万十は、もともと長崎県諫早市で1980年代に生まれました。ちょうど、諫早湾干拓事業の着工工事が始まるころです。干拓によって、諫早湾に生息するムツゴロウがいなくなってしまうかもと思った菓子店『玉乃屋』の創業者が、何か親しみやすい形でムツゴロウを後世に残したいとの思いから生まれたのが『むっちゃん万十』です」

長崎県諫早市で誕生した「むっちゃん万十」は、その後、ムツゴロウをより多くの人に知ってもらいたいと90年代に福岡県へ出店。現在は、福岡県大野城市に本店を構え、福岡市を中心に店舗を展開しています。手のひらサイズのむっちゃん万十には「有明海のムツゴロウを愛してほしい」という、創業者の思いが詰まっているのです。

クチコミで広がり不動の人気となった「ハムエッグ」

むっちゃん万十人気の理由は、その具材のバリエーションにあります。パッと見ると、たい焼きと同じ、あんこが定番かと思いきや、店のメニュー表を見てみると黒あんやカスタードだけでなく、ウインナーやツナサラダなどのおかず系から、とんとん、ごろごろちゃんといった見慣れないものまでが並びます。中でも一番評判なのが「ハムエッグ」200円。なんと店に訪れた8割の人がオーダーする程の人気ぶりです。

「もともと、黒あん、白あん、カスタードクリームだけでしたが、他のお店と差別化しようと販売したのがハムエッグです。今でこそ一番人気の商品ですが、販売をはじめた30年以上前は人気がなかったんです。でも、徐々に高校生が食べ歩きで利用してくれるようになって、そこから学校や家庭で話題にしていただき、徐々にクチコミで広がっていったんです」

一番人気の「ハムエッグ」200円

甘いものより、お腹に溜まるものが食べたい! そんな腹ペコな生徒たちの思いに応えたのが、ハムエッグ。取材当日も、男子高校生のグループがハムエッグを買い求める姿が見られました。同店のハムエッグは、たまごが程良く半熟。中には、ハムとたまご以外に千切りキャベツとマヨネーズが入っていて、ほんのり甘くふわふわのカステラのような生地に少しの酸味と食感が加わり、良いアクセントになっています。

「むっちゃん万十のおいしいマヨネーズ」1,000円

酸味が控えめなオリジナルマヨネーズも隠れたファンが多く、要望が多かったことから、マヨネーズのみの販売も行っているのです。「まろやかな味で、素材の味を壊さない。使うことで旨みが増すんです」と玉木さん。特にポテトサラダやタルタルソースに使うのがおすすめなのだそう。