プロの接客と知識に勝るものなし

そして何より、彼ら彼女らはサービスのプロです。お店で提供されるものに関しては、料理でもワインでも、あなたより多くの知識を持っています。ぜひ話しかけてみてください。内容はなんでもいいです、というと困ってしまいますよね。
例えば、メニュー内のわからない単語を尋ねる「ブレゼってどういう意味ですか?」。
だいたいの分量を聞く「メインの肉はどれくらいですか? 食べきれるか自信がなくて……」。

名物を聞く「初めてこちらにうかがったんですけど、シェフのスペシャリテ(得意料理・名物料理)ってなんですか」などもいいでしょう。
どんな質問にも丁寧に、時にウィットを交えながら答えてくれると思います。
ちなみにフレンチの名店には、このスペシャリテが有名なお店がいくつもあります。

「カンテサンス」の「山羊乳のバヴァロア」、「レフェルヴェソンス」の蕪(かぶ)の一皿、「ラ・ブランシュ」の「イワシとジャガイモの重ね焼き」……。

こういった逸品を食べるために訪れてみるのも、もちろん楽しいと思います。料理が運ばれてきたら写真を撮ると思いますが、マナーとしてお店に確認をしてください。SNSへのアップは宣伝になるので多くのお店では歓迎されますが、個室以外はNGだったり、シャッター音不可だったりというお店もありますので。ちなみに私は音が出ず、色合いもいいので「Foodie」というアプリをよく使用しています。
料理はテーブルに運ばれた時がベストになるように仕上げられています。ある星付きシェフは「すぐに食べていただくと、気に入ってもらえたんだなとうれしくなります」とも語っていました。撮影に時間をかけすぎたり、会話に夢中になって料理を放置したりするのだけは止めましょう。
フランス料理を楽しみながら豊かな人生を
かつてフレンチの有名なサービス人を取材した時に「お客から言われて一番うれしい一言はなんですか?」と質問したら、即答してくれました。「それは“ありがとう”と言ってくださることですよ」と。以来、私は食べ終わったお皿を下げてもらうたびに、必ずこの言葉を発しています。
一つ一つは単純なことですが、こうしてお店とコミュニケーションを重ねていくことで、だんだんと一体感が生まれ、全員が共演者のような楽しい気持ちになってくると思います。そうすると不思議なことに“ワインをどうやって選べばいいんだろう?”とドキドキしていた気持ちも、ソムリエとの自然な会話で解消されますし、“マナーは間違ってないかな?”なんて不安に思っていたことも、いつのまにか周りを見渡す余裕が出て、確認ができるようになります。何より、心がリラックスしてくると一皿一皿がよりおいしく感じられるはずです。

「同じデートでも映画館の2時間とレストランの2時間では全然違う」と論じていた恋愛の巨匠がいました。確かに黙って座っていればいいのではなく、五感を総動員し、相手と、お店と共に濃密な時間を過ごすのですから、自然と会話力もアップしていきますし、相手のこともよくわかりますよね。
フレンチを楽しんでいる人は、人間的にも魅力的な人が多いなと、よく思います。いかがでしょうか。とはいえ、いきなり高級フレンチに行くと気後れしてしまいます、という気持ちもよくわかります。

そういう場合は例えば「ラ・ボンヌターブル」のような、商業施設に入っていて比較的カジュアルだけれど、サービスの質もいいし、ノンアルコールも充実、といったお店や、5,000円台のコースで、フレンチのエスプリや楽しいアイデアの詰まった「ラス」などをスタート地点にしてみるといいかもしれません。

ちなみに私はかれこれ30年前「コート ドール」を初めて訪れ、雷に打たれたような衝撃を受けました。料理・サービス・設えすべてが素晴らしく「これが本当のレストランなんだ!」と実感したのです。以来、今でも年に一度は必ず同店に通っています。

フランス料理店には人生に寄り添うような不思議な魅力があります。
どうか皆さんも、そんな一軒と出会えることを願っています。
紹介店舗一覧
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文:大木淳夫、食べログマガジン編集部
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