緊急事態宣言発令に伴う営業時間短縮の要請を受け、テイクアウトに注力する店が急増している。そこで、先日公開した、実力店のランチメニューに特化した臨時特別号の第2弾として、フードライター・森脇慶子が「お店さながらのクオリティの高さに注目!」と舌を巻く、テイクアウト特化編を全4回にわたり紹介。今回は、東京・代々木公園のポルトガル料理店「クリスチアノ」のメニューを堪能あれ。
【森脇慶子のココに注目 テイクアウト特化編 Part3】「クリスチアノ」
フレンチやイタリアンに比べ、現代では、一見馴染みの薄いポルトガル料理だが、日本人が初めて出合った西洋料理は、16世紀、長崎に渡来したポルトガルの料理だったといわれている。天麩羅や炊き込みご飯など、今ではすっかり和食の顔をしている料理も、ルーツを辿ればポルトガル料理のようだ。
「ポルトガル料理は家庭的で素朴。ヨーロッパの中では珍しく日本と同じように米と魚をよく食べるので日本人の口に合う料理だと思いますよ」。こう語るのは、佐藤幸二シェフ。代々木八幡に店を構えて10年になるポルトガル料理店「クリスチアノ」のご主人だ。
「自家製干し鱈のコロッケ」や「豚肉とはまぐりのアレンテージョ風」等々、ポルトガル定番の味が並ぶレストランの料理を、そのままテイクアウトできるようにしたのは、去年の緊急事態宣言がきっかけ。そのテイクアウトアイテムに、今年の1月からお弁当が新たに加わった。
「クリスチアノ名物羊のハンバーグ弁当」やポルトガルのストリートフード「ピリピリチキン」を入れた「アフリカンチキン弁当」など7〜8種類が揃うポルトガル弁当は、いずれ劣らぬ個性派。その中で「一番ポルトガルらしいと言えば、やっぱりこれでしょう」と、佐藤シェフが勧めてくれたのが、「鰯の炭火焼き弁当」1,030円だ。
炭火でこんがり焼かれた真鰯は北海道産。炭火ならではの香ばしさもさることながら、頭と尾っぽが弁当箱からはみ出さんばかりの迫力に思わず目を見張る。イタリア料理の如くハーブ等々で香り付けしているのかと思いきや、「いえ、現地と同じただの塩焼きです」との意外な答え。
鰯自体は、日本の塩焼きと何らかわりはないのだが、そこは策士の佐藤シェフのこと。塩にちょっとした仕掛けがあった。自家製の干し鱈を作る際に使う塩水を煮詰めた手作りの塩を使っているのだ。魚の旨みが滲み出た塩で焼くとなれば、旨味の相乗効果もアップ。おいしいのも道理だろう。
一本はそのまま塩焼きとして、残りはほぐした身にレモンを絞り、付け合わせのコールスローや香菜、トマトをジャスミンライスとよくよく混ぜ合わせて食べれば、たちまち異国の味となる。ちなみに、ポルトガルの首都リスボンでは、毎年6月の聖アントニオ祭に、街をあげて鰯の炭火焼きを食べる風習があるとか。通称“鰯祭り”とも呼ばれるほど、ポルトガルの人は大の鰯好きらしい。
ボリューム感なら、「牛サガリ肉の炭火焼弁当」も負けてはいない。こんがりと焼き上げられた肉は、一枚約200gの肉厚ステーキ。「冷めても柔らかく、旨味のある国産牛のサガリを選びました」という佐藤シェフの言葉に違わず、ややしっかり焼き気味? と思われた肉の表面に対し、断面はローズ色。
噛みしめれば、サガリ独特のほぐれるような繊維質が小気味良い歯応え。想像以上の柔らかさについ頬が緩む。この内容で1,350円。コストパフォーマンスもバッチリだ。
せっかくなら、ちょっとマニアックな味を試してみたいーーという向きには、「豚肉と豚血入り腸詰弁当」1,350円がいいだろう。ポルトガル北部の料理「サラブーリョ」をベースにした一品で、サラブーリョとは、豚の血で米を煮詰めた、いわばポークライス。彼の地では、お粥のようなドロドロしたものらしいが、同店のそれは豚血の炊き込みご飯風になっている。
トッピングは、同じく豚の血でできたソーセージの「モルセラ」とカリカリに揚げた揚げ豚の「ロジョンエシュ」。モルセラにはお米も入り、若干もちっとした食感と独特の風味がなかなかエキゾチック。揚げ豚のクリスピーな食感と相まってご飯が進みそうだ。ポルトガルのワインと合わせて購入して楽しんでみては?
テイクアウト&デリバリーの注文はお店へ電話するか、フードデリバリーサービス「Wolt」でも可能。
※価格はすべて税込