グルマン待望の成田パティシエのお店

麻布十番駅から徒歩2分の立地にオープンした「Scene KAZUTOSHI NARITA」。

2020年12月、アジアを代表するパティシエの1人、成田一世さんによる菓子とパンの店が麻布十番にオープンした。

成田さんは、パリの1つ星「ステラ・マリス」をはじめ、イタリア・フィレンツェの「エノテカ・ピンキオーリ」、アメリカ・ニューヨークの「ラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション」などで活躍してきたパティシエ。2012年に帰国後は銀座の「エスキス」でシェフパティシエとして活躍していた。
その実力は広く知られ、2007年の『ニューヨークタイムズ』が選ぶ「パンとデザート部門」のBest of New Yorkを受賞したほか、2017年「アジアのベストレストラン50」では「アジアのベストパティシエ賞」も受賞している。

取材した2月上旬はバレンタイン前だったことから、ケーキに代わりチョコレートが提供されていた。

そんな成田さんが提供するのは、人々が言葉を交わして食を楽しむシーンを彩る、上質で本物の菓子やパンだ。
店舗には、マドレーヌやフィナンシェ、カヌレなどの焼き菓子、季節のケーキなどとともに、ロブションで提供されていたプティバゲットや、人気のクロワッサン、成田さんが得意とするブリオッシュなどのパンが並ぶ。

外はカリッと、中はしっとりのクロワッサン

「Scene KAZUTOSHI NARITA」のクロワッサン
発酵バターの香り高い「クロワッサン」(350円)。

レストランのパティシエとして活躍してきた成田さんは、スイーツとともにパンも手掛けており、こちらでの評価も高い。「シーン」では、「メゾンカイザー」日本初出店の立ち上げに関わった清水宣光さんとチームを組んでいて、中でもクロワッサンは人気の商品となっている。

「Scene KAZUTOSHI NARITA」のクロワッサン(断面)
断面の美しさも必見。空気を多く含んでいながらしっとりと仕上がっている。

成田さんが大切にしているもののひとつにプロセスがある。バターの香り豊かなクロワッサンを説明するとき、フランス産の〇〇バターなど素材を語ることがあるが、良質な素材は当たり前として、その素材の良さを最大限に落とし込むためにどのようなプロセスを経るのか。そこに重きを置いているという。

例えば、クロワッサンには発酵バターが使われているが、発酵バター特有の香りの良さを出すために、バターの素となっている生クリームの時の水分のみで捏ねている。だからこそ、豊かなバターの香りが広がるクロワッサンとなっている。

さらにその味をより複雑にしているのが、カリッとしたクランチ感ある外側と、しっとりと仕上がっている中側の生地の対比だ。中の生地をしっとりとさせようとすると、外側もしっとりしがちだが、「シーン」のクロワッサンは驚くほどクランチ感を残すことに成功している。

卵がけご飯をイメージさせる和のエッグサンド

「Scene KAZUTOSHI NARITA」の「エッグサンド」
醤油漬け卵黄がポイントの「エッグサンド」(630円)。

「シーン」ではサンドイッチも扱っている。サンドイッチに使われる食パンの生地は、小麦粉の代わりにジャガイモを40%使用。かつて勤めていたロブションで提供されていたジャガイモのピュレから着想を得ており、レストランで腕を磨き上げてきた成田さんならではのものといえる。冷蔵や冷凍にしてもおいしさが損なわれないジャガイモの利点を生かし、時間が経ってもしっとり感と風味が続く食パンとなっている。

今回紹介するエッグサンドは、かなりボリューミー。マヨネーズで和えた玉子に、醤油漬けにした黄身が丸々1つ入っており、黄身のとろりとした食感が食パンと具を調和させている。マヨネーズ和えの玉子にも隠し味として醤油が使われていて、卵がけご飯をイメージさせるのが新鮮だ。そこに、粒を大きめに砕いた黒コショウがピリリとしたアクセントを利かせていて、和の印象がある大人のサンドイッチとなっている。

焼きたてとの違いを楽しむのもいい、マドレーヌ&フィナンシェ

「Scene KAZUTOSHI NARITA」のマドレーヌ&フィナンシェ
焼きたてが店頭に並んだならぜひ入手したい「マドレーヌ」「フィナンシェ」(各320円)。

「シーン」が提供する焼き菓子には、マドレーヌやフィナンシェ、カヌレなどが揃う。どれも人気の菓子だが、「できたての焼き菓子」に遭遇したらぜひとも試しておこう。日によってはないこともあり、店頭に並んでいたらラッキーだ。この時、個包装された、焼いてから味を落ち着かせたマドレーヌやフィナンシェがあれば、そちらも一緒に購入して焼きたてとの違いを楽しんでみるのもいいだろう。

マドレーヌは、クロワッサン同様に発酵バターを使用し、レモンの皮の香りを利かせた爽やかな風味が特徴。フランス料理における定番のソース、クリームにレモンを利かせたレモンクリームソースを彷彿とさせる菓子だ。成田さんがレストランで培ってきた経験から生まれた味ともいえるだろう。

一方フィナンシェは、発酵バターをしっかりと焦がし、アーモンドの風味を合わせている。ひと口、頬張ると濃厚な香ばしさが広がり、コーヒーとの相性の良さを思わせる。

ふわふわブリオッシュの「生搾りクリームパン」

「Scene KAZUTOSHI NARITA」のブリオッシュ
クリームたっぷりの「生搾りクリームパン」(320円)。

成田さんのスペシャリテでもあるブリオッシュは、同店でも健在だ。かつてニューヨークで「ベスト・ハンバーガー」に選ばれたハンバーガーのバンズとして使っていたブリオッシュと同じレシピで、卵を使ったリッチな味わいとなっている。
そんなリッチでふわふわのパンにたっぷりと入っているのは、定番のカスタードクリームではなく、バニラの風味豊かないわゆるクレームブリュレのクリーム。ブリオッシュの表面はこんがりと焼き色が付いていて、香ばしい風味があるため、焦がしたカラメルを割りながら食べるクレームブリュレのような風味が楽しめる。

いよいよアシェットデセールを楽しめるスペースがオープン予定

成田一世パティシエ
「やりたいことは、いろいろある」と語る成田さん。

成田さんが提供する菓子やパンに共通するのは、食卓を彩る様々なシーンに寄り添える点だ。それは、レストランのパティシエとして経験を積んできた成田さんだからこそのものだろう。
レストランで提供されるパンやデザートは、すべて統一されたコースに寄り添い、料理に合わせたものとなっている。それは、成田さんがベースとする、人々の食生活、様々な食の「シーン」に寄り添いたいという思いに共通している。時代に合わせて変わっていく食のトレンドを作り出す、ハイエンドなレストランのトップシェフとともに積み上げてきたものに出会えるのが「Scene KAZUTOSHI NARITA」なのだ。

だからこそ、成田さんは「どんなときに、どんな料理と合わせて食べたいのかを相談してほしい」と言う。「今日は友人が来てこんな料理を作るから、それに合うのはどんなパンか」「毎朝、深煎りのコーヒーを飲んでいるので、それと合わせて食べたい」。そんな、それぞれのシーンに合わせて提案できるのが、同店の菓子とパンだ。

「Scene KAZUTOSHI NARITA」
パンは常時20~30種類を提供。今後、種類を増やしていく予定。

現在、同店はカウンター形式で商品を指定して購入する持ち帰りのみのお店だが、2021年の夏から秋を目途に、アシェットデセールを楽しめるスペースがオープンする予定。
成田さんのさらなる進化に出会える店だ。

※価格はすべて税抜

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※本記事は取材日(2021年2月12日)時点の情報をもとに作成しています。

取材・文:岡崎たかこ(grooo)
撮影:松村宇洋